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162 廃坑 (3)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

野営をしつつ、廃坑の探索。

ユキが【マッピング】スキルを得て、探索は捗るが、目的の剣は見つからず。

 廃坑に入ってから7日間。


 俺たちはかなりのエリアの探索を終えていたが、未だ目的の剣は見つかっていなかった。


 今ではユキも、普通に歩くのと殆ど変わりない速度でマッピングが可能になっているため、探索も捗っているのだが、それでもすべてを廻り切れていないほど、廃坑は広かったのだ。


 そして、深く潜るにつれてアンデッドと遭遇する回数も増えていた。


 これまでに回収した魔石だけで、すでに軽く200は超えている。


 これらがすべて無理矢理働かされていた人と考えると、犠牲者はいったいどれぐらいの人数になるのだろうか?


 だが幸いなことに、あまり広範囲を徘徊することは無いようで、アンデッドを掃討したエリアから少し引き返して野営することで、今のところ睡眠中に襲われる事は無かった。


 そして地味に探索の助けとなっているのが、トーヤの作った簡易寝台。


 毎日6時間の睡眠時間の確保と、この寝台のおかげで、翌朝あまり疲れが残らず、長期の探索が可能となっていた。


 とは言え、7日間も陽の光に当たらない生活は少々ストレスが溜まる。


 特に急ぐ仕事でもなし、8日目にして俺たちは、一時ラファンへと帰還する事にしたのだった。


    ◇    ◇    ◇


 帰宅した日の翌朝は早朝の訓練を休み、全員揃ってややゆっくりめの起床だった。


 廃坑の探索中も簡易寝台のおかげで比較的快適な睡眠が取れたのだが、やはりどこか気を張っている部分はあったし、使っているのはマントと毛布。


 それ故、襲撃の心配をせずにしっかりとした布団で眠れる自宅は、やっぱり良いと改めて認識した。


 微睡みの熊亭も良い宿だったんだが、やはり自分の家の方が宿よりも落ち着くんだよな。


 やや遅めの朝食を摂った後は、魔石の換金のために冒険者ギルドへ。


 紋章付きの白鉄の剣も更に2本手に入れていたので、そちらの処分も、と思って訪れたのだが――。


「申し訳ございません。ちょっと問題が発生していまして……」


 少し困ったような顔で、ディオラさんが俺たちに頭を下げる。


 訊いてみると、前回預けた剣に関する交渉も全く進んでいないらしい。


 まだ1週間ほどだから、別に問題ないと言えば無いのだが……基本的には有能っぽいディオラさんが『全く』と言うあたり、何か問題があったのだろう。


「何があったんですか?」

「実は、今現在、ケルグの町でちょっと問題が発生してまして……」


 詳しく聞いてみると、サトミー聖女教団関係でケルグの町がやや混乱状態にあり、ネーナス子爵はそれの対処に忙殺されていて、とてもではないが交渉できる状況ではないらしい。


「確かに、そんな忙しい状況で交渉に行ったら、印象悪いでしょうね……」


「サトミー聖女教団かぁ。ディオラさん、どんな問題か訊いても大丈夫かな?」


「そうですね……簡単に言えば、お金を集めすぎて町の治安が悪化しているのです」


 どこぞのアイドルみたいな商売をした結果、可処分所得の少ない平民からも限界以上に金を吸い上げ、路頭に迷う人たちが大量発生。


 これの被害は平民だけに留まらず、貴族の中にも身代を傾けた者が複数いた上に、足りないお金を捻出するために不正に手を出す者も出てくるようになってしまった。


「(なんだか、悪徳新興宗教みたいだな?)」

「(みたいというか、そのものでしょ)」


 あのタイプの商売は、免疫の無いこの世界の人たちには劇薬だったと言うべきか。


 ――いや、それだけじゃ無いよな。


「(多分、スキルを悪用してるから、悪質だよねぇ)」


「(やっぱそうだよなぁ。アエラさんも騙されてるし……いや、確定したわけじゃないが)」


「(確定で良いんじゃね? 確率的に)」


 同タイプのスキル持ちがいる可能性はゼロでは無いが、アエラさんを騙した後で姿をくらませた時期と、サトミー聖女教団の活動開始時期を考えれば、同一人物である可能性は高い。


「でも、問題が発生したのなら、サトミー聖女教団を取り締まれば良いのでは?」


「それがなかなか難しい様です。サトミー聖女教団自体が何か違法なことをしているわけでは無いので……」


「あぁ……そうなるのか……」


 極論すれば、悪いのはサトミー聖女教団に金を使ってしまう人自身である。


 そのためのお金をどうやって手に入れたかなど、サトミー聖女教団には関係ないと言えば、関係ないのだ。


 ただ、その金を使わせる手段として、何らかのスキルが使われているのが問題なわけだが……そこは証明ができないしなぁ。


「しかし、その程度なら何とでもできない? 領主なんだから」


 そう。この世界、明確な法治主義ではないのだ。

 ある程度までは、王や領主がダメと言えばそれで決まってしまう所がある。


 あまりに理不尽な物であれば問題になるが、今回の場合は『特定の商売の禁止』程度である。理由があれば問題になる可能性は低そうなのだが……。


「普通ならそうなんですが、先々代のことがありますので……。平民も多く関係してきますから」


「……なるほど、あの廃坑の」


 強引に犯罪者にして鉱山に送り込んでいた過去があるから、強硬手段が取りにくい、と。


 未だにその時代を経験した人が生きているわけで、曖昧な罪状で平民を取り締まると、過剰反応を起こしかねないか。


 やっていることは聖水(?)を売っているだけだから。


「難しそうですね」


「はい。横領などに手を出した人たちはともかく、他の人は借金をしたり、家を無くしたりしているだけですから。その結果、治安が悪化するわけですけど……」


 路頭に迷って犯罪を犯せば捕まえられるが、それは根本的解決にはならない。


 サトミー聖女教団からすれば、それらの人からはすでにお金は取れないのだから、どうでも良い相手だし、別に教団が犯罪行為をさせているわけではないので、取り締まりの対象にもならない。


 長期的な収益を考えるなら、信者からあんまり絞りすぎるのは逆効果だと思うが、その場合は別の場所に拠点を移せば良い、とか考えているのだろうか?


 ――吸い尽くしたら、別の場所に。イナゴみたいだな。


「解ったわ。剣の買い取り交渉は、落ち着いてからで構わないから、気にしないで」


「ありがとうございます。それで……あの……非常に申し上げにくいのですが……」


 ディオラさんは『買い取り交渉ができていない』と言ったときよりも更に困ったような表情になり、言いづらそうに口を開く。


「この町の代官様から、ハルカさんたちが販売している肥料、あれの製法の開示依頼が来ています」


「……肥料?」


 ディオラさんの言葉に、ハルカが首を捻る。


 自販機を設置して売っているあの肥料、さりげなく販売好調で、かなり大量にストックしておいたのに、今回帰ってきてみるとほぼ空に近いほどに売れていた。


 一応、多少は追加しておいたのだが、今回は死体の回収ができないアンデッドがメインだったので、在庫はあまり残っていなかったりする。


 その販売量を考えれば、製法を知りたくなるのも解らなくもないが、俺たちからすれば廃棄物処理に近く、値段もそこそこなので、売り上げ自体はそこまで大きくない。


 代官が気にするような物とは思えないのだが……。


「どうも、あの肥料のとんでもない効果が、代官様まで報告が上がったようで……」


「代官ってそんな事まで気にするの?」


「いえ、普通であればこんなことはしません。商品の秘密は大事な商売の種ですから。ただ、今回は少しタイミングが悪かったようでして」


 ケルグの町の混乱。


 これが原因である。


 この町の食料の大半は他の町からの輸入であり、それはケルグの町を経由して運ばれる。


 そのケルグが混乱しており、それが早々に解決する見込みも無い。


 サールスタット経由の道もあるし、ケルグを避けて輸送することもできるため、完全に食糧輸送が遮断されることは無いだろうが、それでも輸送量の減少や食料の高騰などは予測される。


 その対策には食料自給率を上げるのが一番なのだが、農地はそう簡単には増やせないし、農業に従事する人も同様である。


 そこで目に止まったのが、俺たちが販売している肥料だったようだ。

 これであれば両方の問題が解決可能、かつ短期間で効果が出るのだ。


 短期間とは言っても、即効性はそこまで無いかもしれないが、輸送が遮断されたとしても生産が可能、という事実があるだけで、不必要な買い占めの抑止や不安感の解消には役に立つだろう。


 為政者としては見逃せないというところだろうか。


「本来であれば、ギルドで守るところなのですが……」

「今回は難しい?」

「はい。開示依頼ではありますが、実質命令ですね」


「ちなみに断ることは?」


「できますけど、あまりオススメはできません。代価は頂けるはずですし、素直に応じて恩を売る方が良いかと」


 ディオラさんは少し困ったような表情を浮かべて、そんなアドバイスをくれる。


 俺たちよりも色々とよく解っているディオラさんがそう言うということは、本当にそうなのだろう。


 俺たちだって無理に権力者と対立したいとは思わないし、そもそもあの肥料の作り方なんてどうでも良いわけで……。


「開示しようと思うけど、良いかしら?」


「良いんじゃね? オレたちのが売れなくなれば面倒だけど、そうじゃねぇだろ?」


「同意です。ですが、どうでしょうね? 実際に役に立つかどうか……」


「だよねぇ。大した秘密があるわけじゃ無いし」


「そうなんですか?」


 ディオラさんが不思議そうな表情を浮かべ、小首をかしげる。確かにあの効果を知ると、どんな秘密があるのか、と思うよなぁ。


 あえて言うなら、時間短縮が可能なコンポストだが、あれも普通の物でも代用できるはず。


 単純に原料が違うだけなのだが、それを入手できるかどうかは別問題である。


「ええ。だから、開示した後に、『役に立たなかった!』とか言われても困るんだけど……」


「それは大丈夫です。代官様はまともな人ですから、ハルカさんたちにご迷惑をおかけすることは無いと思います」


「そう? なら良いんだけど」


「代官様には、ハルカさんたちから了解が取れたと、こちらからご連絡しておきます。後日、お呼び出しすることになると思いますが……」


「私たち、廃坑に行ってるからねぇ……すぐに応じられるかどうか……。今日から数日は休む予定だけど」


「数日ですか……解りました。できるだけ早くご連絡致します」


「よろしくね。まぁ、ある程度は融通を利かすけど、ずっと待機してろ、とかは無理だから」


「解っています。できる限り急ぎますので、よろしくお願いします」

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