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161 廃坑 (2)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

廃坑を進むが、幸いなことにさほど複雑な形状にはなっていない。

特にトラブルも無く探索を進め、数時間ほどで初めての敵、スケルトンに遭遇。

これをあっさりと撃破する。

 しらみつぶしに通路を廻り、夕方まで探索を続けた俺たちだったが、その間に遭遇した敵はすべてアンデッド。


 その数もトータルで30体に満たず、利益としては微妙な物でしか無かった。


 もちろん家宝の剣は見つかっておらず、高く買い取ってもらえそうな、紋章付きの剣を持つスケルトンにも出会っていない。


 成果は微妙と言えば微妙だが、洞窟探索に慣れることができたという点では、これも1つの成果か。


「それじゃ、野営の準備をするか」

「だね! トーヤの作った簡易寝台、期待してるよ?」

「おう、期待しろ。十分に実用的だからな!」


 袋小路になった通路の1つ、やや広くなったその突き当たりが今晩の俺たちの野営場所。


 そこにトーヤがドヤ顔で、マジックバッグから取り出した簡易寝台を並べていく。


「見よっ! この見事な再現レベルを!」


 どばーん、みたいに手を広げるトーヤだが、女性陣と比べて比較的暇だった俺は、すでに見てるんだよな。発案は俺で、色々相談にも乗ったし。


 幅は60センチほど、長さは2メートル近くあり、やや狭いながらも一応ベッドのような大きさは確保されている。


 フレームは鉄製だがパイプ状にはなっていないため、やや重く持ち運びには不便なのだが、俺たちに関して言えばそれは問題にはならない。


 寝る部分には帯状の布をグルグルと巻き付けて、ある程度の柔軟性を確保。


 更にフルフラットから90度まで背もたれの角度も変えられ、見張りの時には座り心地の良い椅子として使うことができるようになっている。


「どーよ? かなりの出来だろ?」


 自慢げに披露したトーヤに対し、女性陣は広げられた簡易ベッドに座ってみたり、寝てみたりして厳しくチェックする。


「全体としては悪くないですが……」


「座面……というか、寝る部分はいっそ一枚の布にする方が良いかもしれないわね」


「うん。ちょっと頼りない感じ? プールサイドに置いてあるデッキチェアっぽい見た目ではあるけど、濡れたまま使うわけじゃ無いし、この隙間は必要ないかな?」


「を、をう……そうか……」


「足の部分も1本毎に高さを調整できれば、なお良いですね。凸凹の地面だと、ちょっとがたつきます」


 そう言いながら、並べられた簡易寝台のいくつかを動かすナツキ。


 確かに少しガタガタしている。柔らかい地面であればさほど問題は無いのだろうが、ここのように下が岩盤であれば、調整ができず、寝ているときにちょっと気になりそうである。


「うぅ……頑張る」


 最初のドヤ顔はどこへやら、容赦の無いダメ出しにため息をついて俯くトーヤ。


 そんなトーヤに気を使ったのか、慌てたようにナツキが口を開く。


「も、もちろん、出来はすごく良いと思いますよ? 単に改善して欲しいところを言っただけですから」


「そうそう。地面で寝るのとは雲泥の差だよ、きっと!」


「構造は悪くないから、上手く改善できれば、市販できるかも知れないわね、もしかすると」


「だ、だよな!? うん、頑張ってみるわ」


 ハルカたちのヨイショ――というには、語尾が微妙だった気もするが――にトーヤも立ち直り、明るい表情を取り戻す。


 いや、まぁ、俺も開発に関わってるわけで、俺の責任もあるんだが。


 一応、使ってみた感じ、問題無さそうだったんだが……ま、商品開発なんて実使用と改善を重ねて作るもんだよな。


 問題なし! 次回頑張ろう!


「でも、地面からの冷えが無いのは良いわね、ホント。キャンプ用の断熱シートなんて売ってないし」


「はい。冒険者なんて、マントを敷くか、多少防水加工がしてあるだけの布を敷くか、ですからね」


「テントはどうする? 広げるか? 夜露の心配は無さそうだが」


「不要じゃない? 寒いなら、テントを張って、中を『暖房ワームス』で温める方法もあるとは思うけど……」


「そこまで寒くはないか」


 この坑道の温度は、体感的には20度以下……15度前後だろうか?


 同じ温度でも季節によって結構感じ方が変わるから、正直かなり曖昧なのだが、そのまま寝るにはちょっと寒いぐらいの気温。


 それでも1人あたり2枚の毛布と、以前購入したフード付きのマントがあれば問題なく眠れる程度の気温だろう。


「それじゃ後準備が必要なのは……」


 そう言ってユキは周りを見回し、小首をかしげる。


「あれ、もしかして、もう終わり?」


「食事はマジックバッグから取り出すだけですから……炭でも熾して、お茶を飲みますか?」


「そのぐらいしかすることが無いわよね。お茶と食事をしたら、早めに交代で寝て明日に備えましょ。正直、寝るには早い時間だけど」


 まだ夕方ということを考えれば、寝るには随分と早い時間なのだが、2交代で睡眠を取ることを考えると、それぞれが十分な睡眠時間を確保するためには、このぐらいの時間から寝なければ難しい。


 2交代で6時間睡眠だと、12時間必要になるわけで。


 非効率な気はするが、安全性と継続性を考えれば仕方の無いところだろう。


 短期間なら睡眠時間を減らすこともできるだろうが、それで注意力が散漫になって怪我でもしたら意味が無い。


「一応、『聖域サンクチュアリ』で虫除けはしておくな。何が居るか判らないし」


「ありがと。さすがに寝ている間に上から虫が落ちてくるとか、嫌だから」


「……そう考えると、坑道内でもテントの意味もあるのかしら?」


 ユキの言葉にそのことに思い至ったのか、ハルカが深刻な表情を浮かべてそんな事を言う。


 噛まれることが無いので肉体的ダメージはゼロだが、虫が顔の上に落ちてくるだけで、精神的ダメージはクリティカルヒットである。


 まかり間違って口の中に入ろうものなら、致死ダメージである。精神的には。


「安心しろ。虫程度なら『聖域サンクチュアリ』で十分に弾けるから」


「ホント頼んだわよ? 虫が落ちてきたら私、自分を抑えられない」


 どういう意味でだろう?

 あまり知りたいとは思わないが。



 幸いと言うべきか。


 俺はハルカの抑えられない何かを知ること無く、翌朝を迎えた。


 きっちり『聖域サンクチュアリ』を張っていたので当然ではあるのだが、魔物の襲撃も無かったので途中で起こされることも無かった。


 朝食は簡単に済ませ、お茶もわざわざ沸かすこともせず、マジックバッグにストックしてある物を飲んで早々に出発する。


「今日の方針も特に変わらず、なんだよな?」


「そうね。ユキには苦労をかけるけど」


「ん、大丈夫。大分慣れてきたから。昨日より、少しは速度アップできると思うよ? さすがに普通の速度で歩かれると、マッピングが追いつかないけど」


 ユキのその言葉の通り、最初の頃に比べてマップを描くユキの手の動きは、かなりスムーズになっていた。


 見せてもらった地図もなかなかの出来。


 尤も、それが正しいかどうかは判らないのだが、迷わずに済むという点では十分に役に立つので、問題は無い。


「しかし、複雑では無いにしても、ここまで横道が多いと……目印を付けておいた方が良いかもしれませんね」


「あぁ、確かに。何本目の道かとか、混乱するよな」


 常に新しい場所を歩いている今はともかく、再度潜る場合など、坑道に特徴が無いだけに、マップと見比べたときに現在位置の把握に問題が出そうである。


「それじゃ、壁にマーキングしましょ。取りあえず壁に……『1A-5E』でいいか」


 ユキがマジックバッグから取り出した蝋石で、壁面に『1A-5E』と大きく書く。


 俺としては蝋石よりもチョークの方が使いやすいと思ったのだが、残念ながら売っていなかったのだ。


 石灰石なら手に入りそうだし、頻繁に使うようなら自作しても良いかもしれない。


「その記号、意味は?」


「思いつきだけど、最初の1は1層――判りやすく層が分かれているかは判らないけど、一応ね。Aはこの方眼紙の1枚目ということ。次の5は方眼紙の縦方向を10等分して上から5番目、Eも横方向8等分の5番目ということ。日本で売ってる地図に付いてるあれと同じね」


 思いつきのわりに、きちんと規則を考えてある。


 縦よりも横の分割数が少ないのは使っている紙が縦長なためだろう。


 これならば順番に番号を記入していくよりも位置の把握がしやすく、壁のマーキングと地図との照合もしやすい。


 更に地図にも、どの壁にマーキングしたのかを記載しているので、迷う心配は格段に減る。


「なかなかよく考えられてるな?」


「普通の地図の真似をしただけだけどね」


「良いんじゃない? スプレー缶の塗料があればマーキングがもっと判りやすいけど……仕方ないわよね」


「ペンキと刷毛でも良いとは思いますけどね、マジックバッグに入れておけばこぼれる心配も無いですし」


「ペンキか。さすがにそれは買ってないな。次回は買ってこよう」


 洞窟の壁面に使えるようなペンキって売っているのだろうか?


 幸いここの壁面は水が染み出すようなことは無いが、それでも有機溶剤を使った油性ペンキでもないと、はっきりと文字を書くのは難しそうな気がする。


「あっ!」

「なんだ!?」


 突然ユキが声を上げ、その声に俺たちは『すわ、襲撃か!』と全員が一斉に振り返った。


 そんな全員の視線に晒され、ビクッと身体を震わせたユキは、慌てた様に手を振る。


「ご、ごめん。大したことじゃ無いんだけど、ステータスに【マッピング】スキルが追加されてたから、つい……」


「脅かさないでよ。バックアタックでもされたかと思ったじゃない」


 俺の【索敵】があることと、脇道などもしっかりと掃討して進んでいるため、今の俺たちは後方への警戒はやや薄いのだ。


 本当は殿しんがりにも硬い人を配置したいところなのだが、人員不足。


 尤も、ユキ自身が十分に戦えるので、不意打ちをされなければあまり問題は無いはずなのだが。


「しかし【マッピング】か。マッピングが早くなったのはそのスキルのおかげか?」


「多分ね。今の状況では、かなりありがたいスキルだよね!」


 ユキはそう言って嬉しそうに笑う。



 そしてその言葉の通り、【マッピング】スキルはかなり効果的であり、時間が経つにつれてユキのマッピング速度は少しずつ上がっていったのだった。

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