157 洞窟 (2)
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
森の奥で、アンデッドの集まる場所を見つける。
そこに行ってみると、洞窟の前にアンデッドがたむろしていた。
数が多いので『浄化』だけでは無く、接近戦も合わせて斃す。
「……えぇ~~? 今、オレがスケルトン・ナイト相手に無双する流れじゃ無かった? 無かった?」
「無かったわね。それは『夢想』の間違いよ」
剣を振り上げたまま情けない表情で振り返るトーヤを、ハルカがバッサリ切り捨てた。
トーヤ、哀れ。
簡単に斃せるのに、無理をする必要が無いというのは確かなのだが……ちょっと可哀想である。
「すみません、トーヤくん。すでに唱えていましたから」
「……いや、別に謝る必要は無いけどよぉ」
ナツキに素直に謝られ、トーヤはぼやきつつ、剣を収める。
だが、ハルカたちの対応は戦術として間違っていないのだから、仕方のないところだろう。
訓練ならともかく、実戦で怪我をする危険性を最小限にするのは当然なのだから。
「洞窟の中に追加は……居そうにないわね。でも、この洞窟、結構大きそうね。アンデッドの根城、なのかしら? アンデッドだけに暗いところは好みそうだけど」
ハルカが洞窟の中に『光』を放り込み、その中を覗き込む。
『光』が浮かんでいるのは入口から5メートルほどの場所だが、その光の届く範囲では、大人2人が並んで歩けるぐらいの広さの通路が、緩やかにカーブしながら奥へと続いている。
「どう、なのでしょうか? 武器を持っていたことを考えると、もしかすると盗賊団のアジトだったのでは?」
「何らかの理由で盗賊団が壊滅して、それがアンデッドになった……?」
「可能性はある、のかな? でも、随分大きな盗賊団だよね? これまで斃したアンデッドが関係あるかは判らないけど、ここだけでも60体ぐらい居たし」
「ゴーストも入れると、67体だぜ」
手分けして拾い集めた魔石を数えていたトーヤが、結果を報告する。
全部スケルトンと考えても……金貨100枚を超えるか。
『浄化』さえ使えれば、結構効率が良いよな、アンデッド退治。
臭いは我慢しないといけないけど。
「だが、盗賊団だとしたら、ちょっと街道から離れすぎじゃ無いか? 見つからないという点では優れていても、仕事の面では……」
この世界では簡単には地図が見られないので、この周辺の詳しい地理は知らないのだが、俺たちの知る一番近い街道でラファンとサールスタットを結ぶ道である。
そこまで行くのに半日近く費やすのは、場所としてはどうなのだろう?
それともこの程度、それほど遠くない範囲なのか?
あまり襲撃場所近くにアジトを作れば見つかりやすいだろうし、都合の良い場所にアジトを作れる場所があるとも限らない。
それにここなら、森に隠れて街道近くまで移動できるわけで、ある意味では十分に優れた立地なのかもしれない。
「他には……傭兵崩れとか、軍の非正規部隊とか、そのあたりの可能性もあるか? このへんの剣や盾とか、古びてはいるけど、物は良さそうだぞ?」
スケルトンの落とした武器を集めていたトーヤが、コツコツと1本の剣を叩きつつ、そんな事を口にする。
その言葉の通り、その剣は錆も少なく、それほど詳しくない俺の目にも、それなりの作りの剣に見える。
他にも似たような剣が転がっていたので、俺も手に取り調べてみる。
素材は普通の鉄じゃないな。錆の少なさから言えば、白鉄だろうか。
インゴットの時点で普通の鉄に比べて10倍ぐらいの値段がするのだから、結構高価な剣と言えそうだが……。
――おや?
「これってなんか紋章が入っているんだが……?」
よく見ると、剣の根元、柄の近くに何かの文様が描かれていた。
日本刀でも龍などが彫り込まれた物が存在するが、形から言って何らかの紋章と考えて間違いなさそうである。
「あ、オレの剣にもあるぞ」
「こっちの剣にもあるわね……錆びている剣には……無いみたいね」
拾い集めた剣のうち、白鉄製と思われる剣3本に紋章が刻まれていた。
「これは……どこかの貴族、もしくはその私兵の持ち物である可能性が高いですね。鞘があればもう少し情報が得られると思うんですが……」
スケルトンは抜き身で剣を持っていたため、残念ながら鞘は手に入っていない。
どこかに転がっているのかも知れないが、可能性が高いのは洞窟の中だろうか?
「わぉ。厄介事?」
ユキが眉をひそめて声を上げると、ナツキは深く頷く。
「下手に売ったりすると厄介事ですね。溶かして素材に戻すか、マジックバッグに死蔵するか」
「でもこれ、白鉄だから、うちの炉じゃ溶かせないぞ? 新調してくれるなら――」
「死蔵決定ね」
「だよな! 知ってた」
喰い気味に答えたハルカの言葉に、トーヤは少し意気消沈しつつ頷く。
実際の所、トーヤが本当に欲しければ、分配されている報酬を使って本職の鍛冶師並みの工房も作れるのだろうが、必要性がほぼ無い現状では思い切れないのだろう。
単なる趣味として投資するには大きい額になるだろうし、使用頻度も精々週に1回程度なのだから。
「でも、武器を持たないアンデッドも多かったわよね……? 貴族の私兵と……多数の労働者? もしかしてここって廃坑なのかしら?」
「なるほど、それなら……」
兵士や盗賊であれば、仮に下っ端であっても武器ぐらいは持っているだろう。
だが、俺たちが戦ったアンデッドの中で武器を持っていたのは極一部。大半は武器を持たないゾンビとスケルトンだったし、その数もトータルすればかなりの数になる。
鉱山を採掘する労働者と考えれば、その数にも納得がいく。
「確かにこの洞窟、人の手が入ってますね。明らかに地面が平らですから」
「そっか、普通、凸凹だよね、自然の洞窟なら」
ナツキが指摘したように、『光』に照らされた洞窟の地面は歩きやすいように整えられていた。
俺も別に詳しいわけではないし、洞窟のでき方によって程度の差はあるだろうが、普通に考えればそういう風に掘ったか、後から平らにならしたかのどちらかだろう。
「どうする? 入ってみるのか?」
「そうね……少しだけ入ってみましょうか。深いようならすぐに引き返しましょ。準備もしてきてないんだから」
「だな」
マジックバッグのおかげで、普通の冒険者に比べれば多くの物を持ち歩いている俺たちだが、それでもいきなり洞窟探索を行えるような準備はしていない。
それを考えれば、軽く様子を見る、程度のつもりでいた方が良いだろう。
俺たちはスカウト系のスキルを持つナツキを先頭に洞窟に入る。
中に入って少し歩くと通路は少し広くなり、4人程度なら並んで歩けるぐらいになっていた。
幸いと言うべきか、今のところ敵の気配も無い。
「やはり、人の手が入っているのは、確実なようですね」
先頭を歩いていたナツキが、『光』に照らされた壁面を指さす。
そこには何らかの工具で出来たと思われる痕跡があり、ここが人の手によって掘られたことを示していた。
「できたら盗賊のアジトがいいよなぁ」
「なんで?」
「何か貯め込んでるかも知れねぇだろ? 廃坑だと、見つかっても鉱石程度って気がしないか?」
「だが、アンデッドになるような時間が経過してるわけだろ? それに、誰かに討伐されたなら、すでにお宝も持ち去られてると思うが」
「あぁ、そうだよな、死んでるんだから……いや、流行病という可能性も……低いよな」
病気が流行した時点で、アジトなんて捨てるだろ。
全員がいきなり発病でもしない限り。
「……そう考えると、ガスという可能性もあるのかしら? カナリアでも連れてくるべき?」
「げっ。火山性ガスで全滅……?」
「火山性とも限らないけどね。炭酸ガスでも死ぬし」
「ガス検知器とか無いのか? 魔道具で」
「う~ん、どうだったかなぁ? 鉱山では便利そうだし、ありそうな気もするけど……。ハルカ、覚えてる?」
「……あったような気もするわね。あれ、かなりぶ厚いから、流し読みしかしてないんだけど」
『あれ』とは、ハルカの買った錬金術事典の事だろう。
俺も見せてもらったことはあるのだが、全部手書きだし、判りやすい索引が付いていたりはしないので、目的の物を見つけるのにもなかなか苦労しそうな代物だった。
これは手持ちの本すべてに言えることなのだが、書き手によって随分と読みやすさが異なる。
神様のおかげで読み書きに問題は無くなっているのだが、ある意味でとても高性能なこの能力のおかげで、癖の強い字の場合は、その癖の強さも同時に理解でき、読むのにもかなり時間がかかるのだ。
むしろ問答無用で日本語に翻訳してくれる方が楽だったのだろうが……ホント、読みやすい活字のありがたみを感じる。
「なら、一度引き返した方が良くないか? ガスってヤバいんだよな?」
「そうね……その方が良いかもしれないわね」
少し不安そうな表情で言うトーヤに、ハルカも同意するように頷く。
たまにニュースになるが、大型のタンクに溜まっていたガスで、中に入った作業員が意識を失い、救助に行った人も二次被害に遭ったと聞く事もある。
それを考えると、『ちょっとなら大丈夫』とか、『ヤバそうなら戻ろう』とか、そんな甘い物じゃ無いのだろう。
「でしたら、ちょうど良いかもしれません。ほら、見てください。道が分かれています」
1人やや先行していたナツキの言葉に洞窟の先を見ると、突き当たりで道が二手に分かれていた。
ここまで歩いた距離は時間からすれば、入口から数百メートルあまり、というところだろうか。
「ガスのこともあるが、案外深いし、マッピングもせずに進むのはヤバそうだよな?」
「この先が判らないからね。戻りましょう」
「だな。あーあ、盗賊のアジトじゃ無さそうだなぁ、この深さだと」
「だろうな。盗賊が掘るには深すぎるし、意味が無い」
盗賊が住処として使うにはこの深さは無意味だろうし、もっと入口近くに部屋を作ることだろう。
ほぼ廃坑で決まりか。
お宝は……あんまり期待できそうに無いなぁ。
俺たちはため息をつきつつUターンして、入口へと歩き出す。
「ところで、ここの事、ギルドに報告した方が良いのかな?」
「ギルドに? なんでだ?」
「だって、廃坑っぽいけど、鉱山でしょ? 鉱山って普通、国が管理する物じゃない?」
「……それもそうね。下手なことして盗掘とか言われると、マズいわね」
「はい。一応訊いてみた方が良いでしょうね」
「そうか、ある意味鉱山って戦略物資なんだよな」
しかも、どこぞの貴族が掘っていた可能性が高そうなわけで……厄介事にならなければ良いんだが……。
うん、ディオラさんに期待しよう。









