155 ワニ?
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
森へ向かう前に神殿で祈りを捧げ、レベルの確認。
ダールズ・ベアーを斃したおかげか、一気に2から3、レベルアップ。
前回の場所まで来たところで、新しい種類の魔物の反応を感知する。
「よし、第2種フラグ建築士の称号はトーヤに譲ろう!」
「は?」
前回フラグを立てたのは俺だったが、今回はトーヤ。
自分で作った称号なのだから、謹んで受け取って欲しい。
「……出てきたの?」
「見事にな。幸い、ダールズ・ベアーほどには強くなさそうだけどな」
「え? マジで新しい魔物? ジョークじゃ無くて?」
「ジョークじゃ無くて。まぁ、可能性は考えてはいたんだが」
ダールズ・ベアーが出てきた事を考えると、このへんの魔物の分布はスカルプ・エイプが居たあたりとは違う可能性があった。
そう考えれば、別種の魔物が出てきてもおかしくは無い。
おかしくは無いが、ありがたくは無い。
「ま、良いじゃないか! 新しいことがある方が退屈しない。斃しに行くんだろ?」
「トーヤ、気楽だなぁ。そんなに強くなさそうだし、俺は構わないと思うが……」
俺がそう言いながらハルカたちに視線を向けると、ハルカたちも少し躊躇いながらも頷く。
「どうせ近いうちに遭遇するだろうし、ね。ちょっとブランクがあるのが気になるけど」
「都合が良いことに、と言うべきか、途中に、ゾンビとオーガーらしき反応もあるぞ? 肩慣らしにはなるだろ」
『浄化』一発で終わるゾンビはともかく、オーガーは全員で当たれば適度に戦闘の勘を取り戻す役には立つだろう。
「そうですね。では、そのルートで行きましょうか」
「だね。良い敵だといいね。収入的に」
「ま、強い敵は素材も基本的に高いから、多少は期待できるだろ」
たぶんな。
例の如くゾンビには近づきたくないので、魔法で簡単に処理をしてもらい、オーガーも多少戦った後はやはり簡単に斃す。
ラファンの冒険者ギルドでは強い魔物と言われるオーガーも、今の俺たちなら、相手が1匹であれば大した敵でもない。
そして索敵に反応があった敵の方へ。
反応は4つ。慎重に近づき、見つけたのは、見た目がワニな魔物だった。
体長は3メートルぐらい。胴回りは大人が手を回して届くかどうかという太さ。
【ヘルプ】で見れば『キラーゲーター』と表示されているので、アリゲーターの親戚だろうか?
っと、そういえば【看破】ってあったな。
ついつい使うのを忘れるんだが。――ダールズ・ベアーの時も忘れてたし。
さて……。
-------------------------------------------------------------------------------
種族:キラーゲーター
状態:健康
スキル:【噛み付き】 【毒の牙】 【水魔法】
-------------------------------------------------------------------------------
「――なっ!?」
魔法持ち!?
と言うか、結構情報が見える!
普段から【看破】を忘れがちな一番の理由は、初見の魔物相手だと殆ど意味が無いから。
今回は【ヘルプ】で判明しているからか、種族が表示されているが、普通は『不明』だし、スキルも表示されない。
何となくの『強さ』は感じ取ることはできるが、【索敵】で判る程度の『強さ』でしかないので、基本的に【索敵】を使用しながら移動している俺にはほぼ意味が無い。
ある程度その魔物と戦闘を重ねることで――今であればオークなどは【看破】でかなりの情報が得られるようになったが、その状態になった頃にはすでに脅威でも無くなっているので、これまた意味が無い。
人間相手であれば、それなりに情報が得られるのだが、それはやはりベースとなる知識がある故、だろうか?
ちなみに、これまで一番情報が得られたのはアエラさんを【看破】したときなのだが……もしかして俺と同じエルフだから?
逆に考えれば、もし仮にブレスを吐くようなびっくり人間がいても、【看破】では判別できないということにもなりそうだが。
「ナオ、どうしたの?」
「いや、【看破】してみたんだが、思った以上に情報が得られたから驚いた。――あ、【看破】がレベル3になってる」
もしかして情報が増えたのは、これのおかげ?
「えっと……私は特に変わってないわね。レベル2のままだけど」
「やっぱレベルか。それと、あの魔物、水魔法を使うぞ?」
「……【看破】スキルも気になるけど、初めての魔法を使う魔物ね」
「魔法……強いのですか?」
「そこまでは判らん。だが、魔物自体はそこまでじゃないはずだから、できるなら、魔法を使う前に斃したいな。あ、ついでに毒持ち」
「ちょっ! それ、かなり重要!?」
俺がついでに付け加えた情報に、ユキが焦ったような表情を向けてきた。
そんな彼女に対し、俺はニッコリとサムズアップ。
「大丈夫。【毒の牙】だから、噛まれなければ問題ない!」
「それはそうだけど……はぁ。それじゃ、噛まれないように注意して、がんばろ」
うん。実際、油断さえしなければ問題ないと思うぞ?
今回の開幕は、ハルカの弓から。
せっかく練習したんだし、と言うことで、俺の『加重』を使って攻撃をしてみる。
ハルカの弓から放たれた矢は一見、普段と何の違いも無かったのだが、敵に突き刺さった後が異なった。
「……わぉ、凶悪」
やや引いたような声を上げたのはユキだが、それも仕方ないかも知れない。
例の如く見事な腕を見せたハルカの矢は、キラーゲーターの目に突き刺さる。
その瞬間、眼球が爆発するように飛び散り、矢はそのまま突き進んで3分の2ほども頭の中にめり込んだのだ。
キラーゲーターの足がびくりと動いたのは一瞬。
そのままその個体は動きを止める。
それとほぼ同時、矢と共に飛び出していたナツキとトーヤの攻撃が2匹のキラーゲーターに加えられた。
ナツキの攻撃はキラーゲーターの側面を大きく切り裂いたが、それで息の根を止めるには至らず、そのキラーゲーターは大きく尻尾を振って滅茶苦茶に暴れ出し、ナツキは数歩後退を余儀なくされる。
トーヤの方は頭に攻撃を加えたが、かなり鈍い音を響かせただけで、キラーゲーターはあまりダメージを受けた様子も無く、大きく口を開けてトーヤを威嚇する。
だがそれは悪手だった。
あまりに大きく開けた口。それはユキにとっては良い的でしか無い。
その中に飛び込む『火球』。
突然のことに口を閉じたキラーゲーターだったが、すでにそれは何の意味も無かった。
その腹の部分がドンという音と共に一瞬膨らみ、キラーゲーターはびくりと身体を震わせたかと思うと、口の端から血を滴らせながら動きを止める。
「残り2匹――っ、ぬわっ!」
攻撃を受けていない1匹が居た場所から放たれたのは、強い水流だった。
それを慌てて躱すトーヤ。
トーヤの脇を通り抜けた水流は地面をえぐる。
「動きは遅いなっ! 『火矢』!」
身体の大きさなどを考えればそれなりに俊敏なのかも知れないが、短い手足で尻尾を振りながら動くキラーゲーターの移動速度は、先ほどオーガーを相手にしてきた俺たちから見れば、かなり遅い。
丈夫そうな上部は避け、側面を狙って『火矢』を放てば、大した抵抗もなく突き刺さり、反対側へと貫通した。
「バッ! あっちを狙ってくれ!」
トーヤが『あっち』と行って示したのは、ナツキの攻撃で手負いとなり、暴れているキラーゲーター。
その動きは激しく、ナツキも攻めあぐねているが、無事な方にも俺が攻撃を加えた物だから、2匹揃って大暴れ。
トーヤも後退して様子を見ることになってしまった。
「すまん。が、あっちはそのうち死ぬだろ、あれだと」
ナツキの攻撃は前足から後ろ足の間の腹をザックリと切り裂いていて、暴れる度にそこから色々とあふれ出ている。血とか内臓とか色々と……。うん、グロい。
対して、俺の攻撃した方は血こそ派手に吹き出ているが、穴が小さいためか、内臓がこぼれるような状況には至っていない。
「攻撃しにくいんだよ!」
「つってもなぁ……」
まぁ、トーヤの武器は長物じゃないから判らなくもない。
俺はトーヤの横に移動すると、槍を構えてキラーゲーターを突く。
上部装甲は立派でも、そこを避けてしまえばさして硬い皮膚でもない。
何度か攻撃を加えるうちに、キラーゲーターの動きは少しずつ鈍くなり、やがて動かなくなった。
「ふぅ。もう1匹の方は……うぉっ!」
やはりと言うべきか、すでに斃されていたキラーゲーターだったが、その身体は尻尾の所で真っ二つになっていた。
やったのは……言うまでも無く、ナツキだよなぁ。
その切断された尻尾の隣で、うっすらと笑みを浮かべて薙刀に付いた血を拭っているし。
「良く切れたな?」
「はい。ちょっと硬かったですが、魔力を通せば問題なく。ナオくんがそちらを引き受けてくれましたし」
どうも攻めあぐねていたのは、2匹が近い距離で暴れていたからのようだ。
確かにキラーゲーターの尻尾はかなり太く、これで殴られれば下手すれば骨折ものだろう。
近づくのに躊躇するのも解る。
「ハルカは、一撃だったな?」
ユキの『火球』で中身がぐちゃぐちゃになっていそうな1匹、俺が『火矢』で穴を開け、更に何度も槍で突いた1匹、そして、脇腹が大きく切り裂かれ、尻尾を切断された1匹。
いずれもあまり綺麗な死体ではない。
それに対してハルカの弓で斃した1匹は、殆ど損傷が無い。
片方の目玉こそ無くなっているが、それだけでしかないのだ。
「正直に言えば、予想外に上手く行った、と言う所なんだけどね。ワニの脳は小さいし、ヘッドショットで倒せるとは思ってなかったんだけど……」
「そうなのか?」
「えぇ。クッキーぐらいの大きさしかないって話よ? だからオークとかみたいに、眼窩から脳みそを破壊、というのはあまり期待してなかったんだけど」
「そのへんは魔物ですから……解体してみれば判るとは思いますけど」
「そうね。ま、取りあえずは片づけてしまいましょ」
「だな」
大きいと言えば大きい魔物だが、ダールズ・ベアーと比べれば、大したサイズでは無い。
俺とトーヤで抱え上げ、マジックバッグにポイポイと放り込む。
「ちなみに、キラーゲーターは載ってるか?」
「えーっと……あった。一番人気は皮。肉は淡白でクセが無く、食べやすい。標準的には、魔石が11,000R、皮が48,000R、肉が15,000Rだって」
「……え? オーガーよりもかなり良くないか?」
『獣・魔物解体読本』からトーヤが読み上げた情報は、予想外に良い物だった。
オーガーの場合、魔石が1万、皮が4万。肉は売れない。
魔石はともかくとして、魔物全体の買い取り価格は利用価値の有無に左右され、強さとは別問題なのは解っているが、あのぐらいの強さでオーガーの1.5倍も儲かるとはちょっと複雑である。
どちらが強いかと言えば、ほぼ間違いなくオーガーだと思うんだが……。
「他の部位はともかく、魔石の買い取り価格だけ見ると、総合的にはキラーゲーターの方が強いのかな?」
「どう、かしら? 魔法を使ってきたし、そのせいで魔石の価値が高い、のかも?」
「魔法……結構威力があったよな?」
魔法が当たった部分を見てみると……地面が3メートルぐらいの距離、5センチほどの深さでえぐれている。
「これって、『水噴射』かな?」
「他に該当する魔法は無いが、普通に使うと、ここまで威力はなかったよな?」
「そうね。普通なら、近距離で当たればよろける、ぐらいね」
「消防の放水ぐらいでしょうか? 不安定な体勢で当たれば、飛ばされそうですね」
「もし【看破】で魔物の魔法レベルが解るようになっても、鵜呑みにしない方が良さそうね」
「ですね。私たちも魔道書に無い魔法を使えるんですから」
特に魔物の場合、一点特化してそうだから危険である。
「でも、稼げそうな魔物が見つかったのは嬉しいかも?」
「それは確かに! 4匹だから、えーっと……金貨300枚近い!?」
「上手くいけば、な。皮とか傷付いてるし、解らないぞ?」
「あぁ、それがあったか。ま、多少下がっても十分な稼ぎだよな」
途中で狩った魔物も含めれば、確実に金貨300枚は超えるだろう。
1日の稼ぎとしては破格。
このペースで狩り続ければ、年収1億円とかそのレベルである。
「よし、よし! やる気出てきた!! この調子で頑張ろうぜ!」
嬉しそうに腕を突き上げるトーヤに引きずられるように、その日俺たちはやや遅くまで狩りを続け、トータルで金貨1,000枚近い素材と魔石を手に入れたのだった。









