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140 ガーデニング (1)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

2日掛けて何事も無くラファンへと戻る。

ギルドで依頼完了の報告をする。

面倒事を避けるため、盗賊のアジトで手に入れた物をすべてギルドに売却。

 ギルドから家に戻ってきた俺たちは、数日ぶりの帰宅に家の空気を入れ換えていく。


 防犯装置もチェックしてみるが、特に問題も無く、幸いなことに侵入者もいなかったようだ。


 ただ、ハルカとユキが『実験できなくてちょっと残念』みたいな表情を浮かべていたのは、気のせいだろうか?


 その後は久しぶりに家で食事をし、食後のティータイムでまったりと。


「午後から何かする予定は?」


「仕事するって時間帯でもないし、今日はガーデニングでもしましょうか。春だし、せっかくのマイホーム、綺麗にしたいし」


「賛成です! せっかくの広い庭ですからね!」


 ハルカの提案に、ナツキがすぐさま賛成する。


 確かに時期的には春だし、花が咲き乱れる季節ではある。


 庭木のつぼみも膨らみ始めているし、もう少ししたら花見もできるかも知れない。初めての春だけに、どんな花が咲くのかは解らないのだが。


「でも、植える物を考えたら、ガーデニングと言うよりも家庭菜園だよね」

「確かに。特にトウモロコシ」


 手持ちにあるのは、トウモロコシや菜種、それにハーブ類の種。


 菜種やハーブ類はともかく、トウモロコシは完全に農作物。花を楽しむような植物ではない。


「オレ、ガーデニングはあんまり興味は無いが、家庭菜園ならそれなりに興味あるぞ?」


「そういえば、トウモロコシって、肥料をたくさん必要とすると聞いた覚えがあるのですが……」


「そうなの?」


「でも、それ以前に、この庭の土、あんまり肥えてないよね?」


 ユキにそう言われて、庭の地面を見る。


 普段俺たちが訓練で使っている場所は、踏み固められて草が無くなってしまっているが、他の場所であれば普通に草木が生えているので、育つことは育つだろう。


 ただし、畑として適しているかは別問題で、素人の俺の目から見ると、あまり良い土には見えない。


 俺のイメージとしては黒っぽい土が良い土だと思うんだが、ここのはもっと茶色っぽいんだよな。さすがに学校のグランドとか、そのへんの土と比べればマシな感じではあるんだが。


「そうよね……長期的には肥料を入れないと、土地が痩せるわよね。確かコンポスト的な魔道具があった気が……」


「そんな物まで載っているのか? 錬金術事典には」


「あら、ゴミ処理問題、結構重要な問題でしょ? 街なんかでゴミを放置すればネズミや虫が発生するし、疫病の元にもなりかねない。そう考えれば、綺麗に処理できる魔道具って需要があって当然だと思わない?」


「……そう言われるとそうだな? トイレも魔道具だし、案外重要な役目を果たしてるよな、衛生環境に」


 あまりに卑近な魔道具だけに、ちょっと意外だったが、うちのトイレだって立派な魔道具だった。


 たかがコンポスト、されどコンポストだろうか。


「でも、トイレみたいに焼却処理じゃなくて、堆肥化するゴミ箱なのか?」


「ちょっと待ってね。えーっと……」


 錬金術事典を持ってきたハルカが、しばらく調べてから頷く。


「両方あるけど、コンポストの方がオススメみたいね」


「何でだ?」


「まず量。トイレで出る物の量と、それ以外のゴミの量。比べれば普通は後者の方が多いでしょ? これを完全に焼却しようとすると、魔石の消費が多いからコストがかかるみたい」


 この世界の場合、日本に比べると明らかに排出されるゴミの量は少ないのだが、それでも人がトイレで出す量に比べれば多い。それらすべてを魔石の魔力を消費して焼却するのは、なかなかに大変だろう。


「次に有効利用ね。ここで出るゴミは、基本的にすべて堆肥になるような物ばかりだから、その方が農家に売却できて魔石代の足しにもなるし、焼却するよりも魔石の消費も少なくて一挙両得。欠点は焼却するゴミ箱よりも大きくなることだけど、問題になるほどの大きさではないかな?」


「確かに生ゴミはちょっと多めだよな」


 プラスチックのパッケージという物が存在しないため、ゴミの量自体は少ないのだが、一部の食材に関しては明らかに日本よりも廃棄する部分が多い。


 理由は言うまでも無く、家庭で処理すべき部分が多いから、である。


 完全に下処理が済んでいて、その気になれば包丁が無くても料理ができてしまうような現代のスーパーとは違うのだ。


「便利だねぇ。肥料、買わなくて良いんだ? あたしたちだと、魔物の解体で大量の廃棄物が出るし、その気になればいくらでも堆肥が作れちゃうね」


「あぁ、トン単位で出るな、色々と。……これがあれば、スカルプ・エイプの処理も楽になる、か?」


 一度に現れる数が多いから、地味に埋めるのが面倒くさいのだ、アレって。


「いや、さすがにスカルプ・エイプの死体をいくつも放り込めるようなサイズの物は……。それに、細かいゴミじゃなくて、まるごと放り込むのなら、かなり凶悪な代物になるわよ? 解りやすく言うなら、シュレッダー付きのコンポスト」


「……うげ」


 想像してしまった。

 確かにそれは凶悪である。


「でも、骨も粉砕して堆肥にすれば、成分としては良いかもしれません。リンを含みますから」


「そういえば、骨粉とか播くよね」


「な、なるほど。ある意味、まるごと堆肥にするのは理に適っているのか」


 肥料の3要素が窒素・リン酸・カリであることは俺でも知っている。

 それ以外は知らないが。


「リンはそれで良いとして、他の肥料は?」


「簡単に手に入る物ですと、カリウムは草木灰……草木を燃やした灰ですね。窒素分は豆を植える方法もありますが、油かすも窒素分は多いので、ちょうど菜種が使えるかも知れませんね。尤も、堆肥を入れれば窒素分はあまり必要ないとも言いますが」


「詳しいな、ナツキ?」


「えぇ、まぁ、多少は?」


 多少、なのだろうか?


 ガーデニングをやったりする人なら、知っていて当然の知識だったりするのか?


 まぁ、よく解らないので、俺は従うのみである。


「それじゃ、手分けして作業しましょうか。トーヤが耕す、ナオはブロックを作ってもうちょっとエリアを広げる、ナツキが植え付けで、私とユキはコンポストを作る、でどう?」


「オレはよく解らないし、場所を指定してくれれば、やるぞ?」


「そうだな。指示、よろしく」


 ハルカの提案のまま、各自別れて作業を始める俺たち。


 風呂を作るのに比べれば、適当な石のブロックを作る事なんて簡単。むしろ、地面をならして綺麗に並べることの方が面倒くさい。


 だがそれも、直接地面を『土操作グランド・コントロール』で盛り上げて、石にしてしまえば良いと気付くまでのことだった。地面に埋まった部分まで石にしてしまうので、ガッシリと固定されて動かず、縁石としては完璧である。


 縁石を作り終わったあとは、トーヤを手伝って耕し、ナツキを手伝って種をまき。ついでに庭木や不要な灌木の処理や草抜きなど。


 最後に散水をして作業を終える頃には、いつしか陽も傾いていたのだった。


    ◇    ◇    ◇


「3人とも、お疲れ様」


 俺たちがナツキに『浄化』してもらい、ダイニングで一息ついていると、ユキとハルカも飲み物を手にダイニングに入ってきた。


「あぁ、結構疲れたぜ。やっぱ農作業は、普段の訓練とは勝手が違うな!」

「結構広いですからね、この庭」


「ハルカたちの方は?」

「私たちも一応完成したわよ。作業してたの、見てたでしょ?」

「ああ。してたのは見たが、完成してたのか」

「そうね、せっかくだし、見に行きましょうか。説明も必要だし」


 ハルカとユキに先導されて向かったのは、台所にある裏口のすぐ外。

 そこに作られたコンポストは、俺の予想よりも大きかった。


 高さは150センチほど、奥行きが1メートル、幅が2メートルほどの直方体で、上部には跳ね上げ式の蓋が付いている。下部には小さな扉があり、完成した堆肥はここから取り出せるらしい。


「随分大きいな?」


 自慢げに、バシバシとその箱を叩きながら、ユキが胸を張る。


「業務用……大型の飲食店で使うサイズだって。シュレッダーも付いてるから、骨も処理できるよ」


「一度に処理できるのは500キロぐらいで、中に放り込んだら蓋を閉め、ボタンを押したら処理開始。半日から1日程度で処理が終わるみたいよ。危険だから、中に入ったりしないようにね?」


 ハルカが蓋を開けたり、ボタンを示したりしながら、簡単に使い方を説明する。

 注意点は言うまでも無いだろう。こんな物の中に入るわけが無い。


「しねぇよ! てか、マジでスカルプ・エイプも処理できるんじゃねぇの?」


「半分ぐらいは行けるかも知れないけど、あれは1度に10匹ぐらいは出てくるからねぇ」


「だが、蓋に鍵ぐらい付けた方が良くないか? この家に子供が来る可能性は低いと思うが、万が一のこともあり得る」


「あぁ、そうね。子供が面白がって入っちゃう可能性もあるのか。それは失念してたわ。あとで付けておく」


 俺の指摘に、ハルカはハッとしたような表情になって、ウンウンと頷く。


 子供は何するか解らないからなぁ。


 危険度で言うなら、家に設置されている防犯設備も十分に凶悪なのだが、一応は非殺傷らしいので、確実に死ぬこのコンポストよりは安全だろう。――まぁ、本当に『一応』でしかないらしいのだが。


「ちなみに、ゴブリンの魔石1つで、1トンぐらいを処理できるわ」


「それは……安いのか? 高いのか?」


「以前何かで、ゴミ処理費用が1キロ40円ぐらいと聞いた覚えがあります。うろ覚えですけど」


「40円か……」


 俺の住んでいた地域ではゴミ袋が有料だったが、一袋の値段を考えると、それよりも少し高かったような……? まぁ、重量だから少し比較はしにくいが。


「ゴブリンの魔石は250レアだったよな?」


「ギルドに売る場合はね。買う場合はもっと高いと思うけど」


「あぁ、そうか。仮に2倍の500レアとすれば、1キロ当たり、0.5レア……。安いな」


「でも、ナツキの言う40円って、あらゆる種類のゴミを含めてだろ? いわゆる生ゴミだけなら、コストはもっと安いんじゃないか?」


「……確かに、処理の面倒くさいゴミもあるよな、日本だと」


 『リサイクル』と言えば聞こえは良いが、一部のリサイクルはほぼ確実に無意味である。


 例えば食品トレー。食品で汚れたトレーを洗う洗剤や水、その水を浄化するコスト、回収ボックスの設置、収集、リサイクル工場までの運搬。


 トレーの重量と体積を考えれば、運搬にかかる燃料だけでも、トレーに使われている石油を上回っているんじゃないだろうか?


「確かに、時々、無意味な事をしていたりしますよね。プルタブを集めたり、ペットボトルのキャップを集めたり……」


 昔はプルタブが缶から外れて、それを捨てられると危険だから、という意味はあったのだろうが、現在、そんな缶は殆ど存在しない。


 にもかかわらず、わざわざむしり取って集めたりするのだから意味が分からない。プルタブを集めるなら、アルミ缶自体を集めろと。実際、集めたプルタブもアルミとしての価値しかないのだから。


 ちなみに、この世界でもリサイクルはあるのだが、その対象は金属とガラス類である。普通に価値があるので、おかしな回収システムなんて物は存在せず、店に持ち込めば資源として買い取ってもらえる。


 あとは生ゴミや木など、それに陶器類なので、埋めたり焼いたり、コンポストを使ったりして処分される。


 ある意味、とてもエコである。


「でも、これに関しては魔石の心配は不要だよ。ちょっと改造して、自前の魔力も使えるようにしてるから、ランニングコストはゼロ!」


「それは凄いわ! お財布にも優しいのね!」


 再びバンバンとコンポストを叩きながらユキがそう主張し、それにハルカが乗る。


「ついでに、オーバーロード機能も搭載! 多く魔力を注げば、処理時間の短縮も可能!」


「便利! でも、お高いんでしょう?」


「いえいえ、今ならなんと! 材料費のみでお届け!」


「まぁ、ステキ!」


「何、この小芝居……」


 突如始まったユキとハルカの小芝居に、俺とトーヤが唖然とし、ナツキは苦笑を浮かべつつ、水を差す。


「その材料費が問題では? イニシャルコスト――作製にかかった費用はいかほどですか?」


「「………」」


 ナツキの言葉に、揃って沈黙するハルカとユキ。

 なるほど、そっちのコストがあったよなぁ。


「ランニングコストがほぼゼロでも、トータルの処理費用が安いとは限らないのか」


「ですが、多く使えば使うだけ、イニシャルコストの償却は分散されますので、そこまで高コストには……ならないですよね?」


「う、うん、まぁ、そこまでは?」


「人件費がかかってないから、問題ないレベル……よ? うん」


 視線を逸らせつつ、そう答えるユキとハルカだが……結構かかったんだろうなぁ。


 ま、錬金術のレベルアップにもなるだろうし、金に困ってもいないから、別に良いとは思うのだが。


 ナツキやトーヤにしても、大した問題でも無いと思ったのか、苦笑しつつも特に追及することは無く、その話は終わりになったのだった。

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