137 アジトを探せ! (1)
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
初日の昼過ぎ、盗賊と遭遇。盗賊と確定した時点で不意打ち。
無事に殲滅し、死体の焼却処理。盗賊の中に岩中たちがいたことを知る。
「でも、案外あっさり斃せたよな」
気を取り直すように俺がそう口にすると、ハルカもため息をつきつつ頷く。
「まぁ、このへんで盗賊になるような冒険者崩れだから。私たちが苦戦するような相手なら、盗賊にならなくても十分に稼げると思わない?」
「だよな。オレたちみたいな銘木の伐採は無理でも、オークを軽く斃せる実力があれば、食うには困らないよな」
「楽して稼ぎたいと思った可能性もあるけど、ケルグとラファンの間を通る商人を襲ったところで、そこまで稼げるとも思えないし」
ラファンとケルグの間で行き来する高級品と言えば、やはり家具ということになるだろうが、盗賊が狙う獲物としてはあまり良い物とは言えないだろう。
いくら高級品であっても、家具だけにかさばるし、購入する相手も限られるため、手に入れたとしても処分も難しい。逆に処分しやすい食料品などは大した価値がない。
運良くラファンへ高級家具を買い付けに行く商人を襲えれば、それなりの現金は手に入るだろうが、大金を持っているなら護衛も雇うだろうし、そう都合良くは行かないだろう。
「ところで、盗賊のアジトは探すのか?」
「そうね……そのへんは2人にも相談してみましょ」
少し離れたところに座っていたユキとナツキに近づいていくと、2人ともこちらを見て立ち上がった。
盗賊の死体が無くなったこともあるのか、ユキの顔色も大分良くなっている。
「ユキ、もう大丈夫?」
「うん、ゴメンね?」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべるユキに、ハルカは苦笑を浮かべて首を振る。
「ま、仕方ないわよ。私も今は大丈夫だけど、落ち着いたらどうなるか解らないし。ナツキは大丈夫?」
「はい。1人だったらさすがに落ち込んだと思いますけど、みんなと一緒ですから」
「それはあるな。みんなで渡れば怖くない、的な?」
「ちょっと不謹慎な気はするが、そういうところはあるな」
同じ体験をしている仲間が居る分、不安感が和らぐ。
「そうね、お互い、不安があれば溜め込まず、相談するようにしましょ。話すだけでも楽になる事もあるから」
「うん」
「だな」
頷いたユキに俺も同意し、他の2人もまた頷く。
魔法を使ったからかあまり実感は無いのだが……人、殺したんだよなぁ。多分、クラスメイトも。う~む……。
チラリとトーヤを見ると、彼もまた、俺が死体を燃やした跡地にチラリと視線をやっていた。
少し考え込んでしまった俺の気分を変えるように、ハルカが話を変える。
「それで、今は盗賊のアジトを探すかどうか話してたんだけど……多分、残党は居ないわよね?」
「あ、あぁ、そうだな。残党がいた方が探しやすくはあるんだよな、索敵があるから」
人がいれば、ある程度の距離まで近づけば見つけることができる。
それが無ければ、足跡などを追跡するしか無いわけだが……。
「それなら、恐らく馬車の跡が残っているんじゃないでしょうか? 奪った物を運ぶためにも、今後どこかに売りに行くにも、馬車は必要でしょうから」
「なるほど、馬とかも金になるもんなぁ」
「馬か! それが居れば見つけやすいかも」
『敵』ではないが、普通の動物も注意すれば、【索敵】で見つけることはできる。
最初の頃は、タスク・ボアーをこれで探して、結構稼がせてもらったのだから。
「では、手分けしてこのあたり、探してみましょ」
周辺に散らばって探すこと数分ほど。
轍の跡を見つけたのはユキだった。
そこにはまともな道は無かったが、草の中に残った轍ははっきりとしていて、それは森の奥へと続いていた。
この周辺は比較的木と木の間隔が大きく、やや無理をすれば馬車を乗り入れることも可能。それ故、盗賊たちもこの周辺にアジトを作ったのかも知れない。
「馬車は置いていくしか無いよな? 借り物だし、放置もできないが……トーヤ、残ってくれるか?」
「オレ? ……しゃあないか。一人残るならオレだよなぁ」
俺の言葉にトーヤは自分を指さし、少し考えて頷く。
追跡するなら最も【索敵】レベルが高い俺が適しているし、女性を一人この場に残すのは少々不安がある。
2人と3人で分ける方法もあるが、万が一アジトに敵が残っていた場合を考えれば、人数は多い方が安心である。つまり、必然的にトーヤ以外の選択肢は無いのだ。
「悪いわね」
「ま、気を付けて行ってこい」
停めたままの馬車の方へと移動するトーヤに手を振って見送られ、俺たちは轍の追跡を開始する。
特にカモフラージュなどはしていないようで、森の植生の関係で時々曲がったりしつつも問題なく追跡を続けること10分ほど。俺の索敵の範囲に森の動物とは違う反応があった。
「これは、馬っぽいな。5匹居るぞ?」
「人の反応はありますか?」
「近くには無い。方向的にも、これがアジトか?」
今、轍が向かっている方向とは少しズレるが、これまでも多少曲がったりしているので、おそらくは間違いないだろう。
「まぁ、轍を見失ったわけじゃ無いし、このまま進みましょ。あまり方向も違わないんでしょ?」
「ああ。あえて轍を無視して、直進するほどじゃないかな」
「なら、このまま続行で」
そこから轍を追うこと更に5分ほど。
やや拓けた場所が見えてきて、索敵の馬の反応も確かにそこから感じられた。
「あそこ、みたいだな」
そこには、とても素人臭い細工の掘っ立て小屋が1軒。大きさはそれなりだが、嵐でも来れば吹っ飛びそうな出来映えである。
その傍の柵に囲まれたエリアには馬が5頭放され、近くに幌馬車が2台停まっている。おそらくは商人から奪った物だろう。
やや注意して索敵を行うが、やはり反応は無し。【隠形】等で隠れている可能性もゼロでは無いが、盗賊の強さから考えて、まず無いだろう。
「残党は居そうにないな」
「そう。それじゃまずは小屋から調べましょうか」
そう言って小屋の扉を開けたハルカだったが、すぐに「うっ!」と呻いて、後ろに下がった。
「どうしたっ!?」
「……臭い」
驚いて声を掛けた俺に対し、ちょっと涙目でこちらを見たハルカは、ボソリとそう答えた。
「……あぁ、なるほど」
ホッとすると同時に、納得。
死体を集めるときにも思ったのだが、あいつら、まともに身体を洗っていなかったのか、かなり体臭がキツかったんだよなぁ。
「た、確かにこれは……」
「ヤバいね! これはヤバいね! かなりヤバいね!」
少し後ろにいたナツキとユキも入口に近づくと、すぐに鼻を押さえて後退した。
そしてユキ、お前の語彙がかなりヤバい。
「しゃないかぁ。俺が入るから、ハルカたちはそっちの馬車を調べてくれ」
「う……、ありがと」
「ま、良いさ」
申し訳なさそうにお礼を言うハルカに、軽く手を振って答える。
トーヤがいればあいつとジャンケンでもして……いや、さすがに獣人に行かせるのも可哀想か。さっきの死体集めでもかなりキツそうだったし。
俺は口元を布で覆うと、鼻を摘まんで中に入った。
「……うわぁ。汚ない」
複数の部屋を作るような技量も無かったのだろう。
小屋は1間のみで、雑魚寝をしていたのか、汚い布や毛皮のような物が散乱している。
12人が身体を伸ばして眠れる程度のスペースはある様だが、悪臭を別にしても、とても快適とは言えないだろう。
一応、片隅には水瓶が置かれ、竈のような物が作られているが……。
「掃除ぐらいしろよなぁ……」
床などと同様、その周辺もやはり汚かった。
これで病気になっていなかったのだとすれば、あの盗賊どもの頑強さだけは、ある意味で一流だったのかも知れない。
「こりゃ、大した物はなさそうだなぁ」
部屋の中を見回しつつ、転がってる物を部屋の隅に蹴り集めていくが、基本、ゴミしかない。
『浄化』を使えばぼろ切れとしては売れるかも知れないが、手間を掛けることすら惜しい。
「まとめて燃やして……おや?」
部屋の隅に積んであった袋――恐らく野菜か穀物を入れていたと思われる――を適当に槍で取りのけてみると、その奥に隠すように置いてあったのは、鍵の付いた丈夫そうな箱。
持ち上げてみると、ずしりと重い。
「当たりか……?」
金目の物は外の馬車だけかと諦めていたのだが、一応はあったらしい。
俺はもう一度部屋の中を見回した後、他に気になる物が無いことを確認し、その箱だけを持って小屋の外に出て大きく息を吐いた。









