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S013 トミー釣行へ挑む (4)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

トミーは東の森でゴブリンを2匹倒す。

ゴブリンの頭を粉砕する気持ち悪さに吐きながらも、攻撃力自体は問題ない。

明日も時間が取れたらゴブリンを斃しに行くことを約束する。


 昨日の半休に続き、今日も全休を取りたいと言った僕に対し師匠は「お前には技術的に教えることは殆ど無いから好きにしろ」と言って許可をくれた。


 すぐに準備を整えてトーヤ君たちの家を訪ねると、昨日と同様、トーヤ君は庭で訓練をしていた。


 かなり稼いでいるみたいだし、もっとのんびりとしても良さそうなものだけど、この勤勉さがその稼ぎと安全を支えているんだろうね。


「トーヤ君!」


 僕が門の外から声をかけると、トーヤくんはこちらに目をやり、剣を収めてポケットから取り出した手ぬぐいで汗を拭いた。


「来たか。準備は?」

「大丈夫。いつでもいけます」


 僕がそう答えると、トーヤ君は頷き、側に置いてあったリュックを背負って敷地から出てきた。


 昨日は小さな袋と武器しか持っていなかった事を考えると、随分と荷物が増えている。


「今日は、重装備ですね?」


「1日森に入るんだろう? 昼飯もいるし、ゴブリン以外の獲物に遭遇すれば持ち帰る必要もある。バックパックは必要だな」


「昼飯……あっ!」


 まずい。忘れてた。

 昨日の教訓を生かして、手ぬぐいと水は多めに持ってきたのに、食料は皆無。


「ごめん、今から買いに行っても良いですか?」

「ん? 準備してないのか? 分けてやろうか? 1人分ぐらいなら余裕があるが」

「ホント!? 是非に!」


 それって、ハルカさんたちの手作りだったりしますか?

 そうは思ったけど、さすがにそれは聞けないよね。


「お、おう。そんなにがっつかなくても分けてやるから」

「おっと。ゴメン。ちょっと近かったですね」


 思わずトーヤ君ににじり寄ってしまっていたので、僕は慌てて距離を空ける。

 分けて貰えなくなると困るから。


「それじゃ行くぞ。昨日と同じ、東の森で良いよな?」

「はい!」


 そう訊ねるトーヤ君に僕は力強く返事をして、僕たちは東の森へと向かったのだった。


    ◇    ◇    ◇


 2度目の戦闘は、昨日よりもずっと冷静に戦えた。


 力を入れすぎて脳漿をぶちまけることも無かったし、気を抜いて敵を見落とすことも無かった。


 トーヤ君のサポートがあったとはいえ、1度の戦闘で3匹を無事に倒す事ができたので、2日目としては上出来じゃないだろうか?


 それから更に2度の戦闘を経て、僕は計12匹のゴブリンを倒した。

 何度か攻撃は喰らったけど、【鉄壁 Lv.2】のおかげか怪我らしい怪我もしていない。


 さすがに一番弱いと言われる魔物だけあって、僕のレベルでも大して脅威にはならないんだろうね。


「さて、そろそろ昼にするか? そろそろ腹減っただろ?」

「あ、そうだね。うん、是非に!」


 昼食を摂るために、森の中で少し拓けた場所に腰を下ろす僕たち。

 とは言っても、僕は持ってきてないので、トーヤくんに恵んでもらう必要があるんだけどね。


「ほれ。シンプルだけど我慢な」


 トーヤ君から手渡されたのは、ハンバーガー。


 具材の少なさはまるでマク○ナルドのハンバーガーみたいだけど、ボリュームは段違い。これ1つでも十分にお腹いっぱいになりそうなほど。


「美味しそうだね! これってハルカさんたちが作ったんですか?」

「台所からパクってきたから、そうだろうな」

「……え、それって大丈夫なんですか?」


 黙って持ってきたらマズいんじゃ……?


「この程度なら問題ねぇよ。……たぶん」


 なんとも不安な物言いだけど、今更「じゃあ、食べない」という選択肢も無い。

 責任はトーヤ君にとってもらうことにして、早速いただこう。


「いただきます。……ん、美味しい!」


 冷めてしまっているのが残念だけど、バンズもハンバーグも、そしてソースもかなりのレベル。少なくとも、マク○ナルドのハンバーガーよりは美味しい。


 そしてそのレベルは、この世界、この街ということを考慮すれば、最上位レベルである。絶対。


「やっぱり、ハルカさんたちって、料理が上手なんですね。スキルも取ったんですか?」


「んー、そうだなぁ。元々それなりに上手かったみたいだが、スキルもあることはある」


「そうなんですかぁ。料理関係のスキルって、もしかすると一番役に立つかも知れませんね」


 鍛冶の場合はそうそう弟子入りなんてできないけど、料理なら食堂の調理人として採用される可能性はあるし、屋台をやるのも、他の生産スキルでお店を持つよりはよっぽど可能性がある。


 特にこの街の料理事情を考慮に入れると、人気店になるのもそう難しいことではない気がするし。


「ま、トミーの言う通りかもな。オレなんか、【鍛冶】スキル、殆ど使ってねぇから」

「ははは……ですよね。僕もトーヤ君がいなかったら、完全に死にスキルになるところでした」


 【鍛冶】のスキルと、【鍛冶の才能】のおかげで師匠にはだいぶ認められているけど、これも披露する機会をもらえたからこそ。


 それが無かったら、今でも日雇いの仕事で爪に火をともす様な生活を送っていたことだろう。


「ところで、このハンバーグがトーヤ君が『ミンチを作る道具が』と言っていた理由ですか?」

「ああ。あいつらは包丁で作ってたが、結構大変そうだったからな」

「でしょうね。やったことないですけど、大変そうなのは解ります」


 肉自体、スライスされているわけでも無いのだ。

 塊肉を薄切りにして、小さく切り分けて、叩いて……。沢山作るとなると、かなりの苦行だよね。


 そして、そうやって苦労して作ったハンバーグをいただいているわけで。


 うん、上手く作れるかは解らないけど、取りあえず頑張ってみよう、ミンチを作る道具。


「さて、午後からどうするかだが……トミー、どうだった? ゴブリンと戦ってみた感想は」

「そう、ですね。そんなに強くないですよね。さすが、最弱の魔物って感じで」

「あー、やっぱりそういう感想を持つかぁ……」


 僕の答えを聞いたトーヤ君は少し困ったように頭をかいた。


「間違ってはいないんだが……トミー、絶対に1人でゴブリン討伐に来ようとか思うなよ?」

「やっぱり危ないですか?」


 攻撃もあんまり強くないし、5匹……いや4匹ぐらいまでなら問題無さそうなんだけど。


「危ない、だろうな。――そうだな、トミー、午後はオレはお前の後ろから付いていくから、1人で歩いてみるか?」


 僕がイマイチ納得していない表情を浮かべていたのか、トーヤ君がそんな提案をしてくる。

 1人か……こちらに来て例の2人と死に別れ、さまよっていたことを思い出す。


「あの、後ろってどのくらい?」

「数十メートルかな。危なそうなら助けに入れるぐらいで」

「……解りました。やってみます。もしもの時にはお願いしますね?」

「おう、任せておけ。さあ、レッツゴー!」


 笑顔を浮かべて、ドン、と胸を叩くトーヤ君に促され、僕は少しの不安を抱えつつ、森の奥へ向かって歩き出した。


    ◇    ◇    ◇


 昼食を食べた場所から歩くこと1時間あまり?


 時計を持っていないので良くは解らないながら、それなりの距離を歩いたけど、未だ敵は現れず。


 時々後ろを振り返ると、ずっと向こうにトーヤ君の姿が見え隠れしている。


 僕が見ているのに気付くとシッシ、とでも言うように手を振るのがなんとも……。


「さすがに、魔物が少ないと言うだけはある、のかな?」


 トーヤ君と行動していた時は、ゴブリンが居る方へ誘導してくれたけど、僕1人では闇雲に歩くしかない。


 考え無しに奥に進むと危ないとも訊いているので、そこも注意しないといけないし。


「ゴブリンはどこ――」


 ガンッ!!


 唐突に頭に走る衝撃。

 くらりと視界が揺れ、足がふらつく。


 ――何!? 攻撃!?


 バトルハンマーを握り直そうとしたところで、今度は右腕に衝撃。

 腕の力が緩み、バトルハンマーを取り落としてしまう。


 視線を巡らせると、ゴブリンが3匹!


「クソッ、いつの間に!」


 バトルハンマーを拾おうとしゃがんだところで再び頭に衝撃。咄嗟に手で頭を庇うと、その腕、背中、足。木の棒でガンガンと殴られる。


 振り払おうと腕を振り回したところで、再び頭に棍棒がヒット。

 僕は地面に倒れ込んでしまった。


 そこに何度も振り下ろされる木の棒。痛い。


「ト、トーヤ君! 助けて!」


 ゴブリンに倒された情けなさとか、そんなことなんかよりも命の危険を感じ、そう叫ぶが、返ってきたのは沈黙だった。


「トーヤ君!?」


 まさか離れすぎて気付いていない!?


 マズい、マズい!


 僕は頭を左手で庇いつつ、右手で地面を探り、バトルハンマーを探す。


「――っ! あった!」


 右手でつかみ取ったバトルハンマーを振り回すが、闇雲に振り回したところでそう簡単に当たるはずも無い。


 再び何度か右腕に攻撃を食らい、バトルハンマーを取り落としてしまう。


 ――ホントにマズい! このままじゃ……。


 そう思い始めたところで、唐突に攻撃が途絶えた。


「え……」


 恐る恐る顔を上げ、周りを見回すと、そこには首が無くなったゴブリンが3匹倒れていた。

 そしてその横には、剣を持ったトーヤ君が。


「よう。少しはゴブリンと不意打ちの怖さ、感じたか?」

「怖さって……トーヤ君! 助けてくれるって――」


 気楽な感じで声をかけてくるトーヤくんに、僕は思わず食ってかかるけど、トーヤくんはあっさりと肩をすくめる。


「助けてやっただろ? 大怪我する前に」

「――っ!」


 全身に打ち身やたんこぶはあるけど、確かに致命的な怪我はしていない。


 これも【鉄壁】があってこそなんだろうけど、あのまま放置されていれば、下手すると死んでいたかも知れない。

 高がゴブリン相手に……。


「どうもお前が『ゴブリン相手ならなんとかなる』と思ってそうだったからな」

「そ、それは……」


 正直に言ってしまえば、そういう気持ちが無かったとは言えない。


 トーヤ君の忠告を無視して1人で森に入る可能性は低かったと思うけど、もしずっとトーヤ君の都合が合わず、森に行く機会が無かったとしたら……?


 その時はもしかすると、1人で森に行くという決断をしたかも知れない。


「正直な、オレたちが今まで無事なのは、ナオの【索敵】に依存している部分が大きいんだよ。多少格下の相手でも、不意打ちされればかなりヤバい。今のトミーみたいにな」

「はい……」


 確かに危なかった。

 いわゆる袋だたき状態。


 ゴブリンの力が強くなかったから大怪我はしなかったけど、もし1匹でもホブゴブリンが混ざっていれば、あっさり殺されていた可能性が高い。


「第一、オレだって1人で森に入ることはしないぜ? 森の浅いところでも、ごく希に危ない敵に遭遇することがあるんだから。前話しただろ? ヴァイプ・ベアーに出会ったこと」


「でしたね。はい、絶対入りません」


 トーヤ君、ナオ君、ハルカさんの3人でもかなり危険だったというヴァイプ・ベアー。


 パーティーを組んでいるルーキーの冒険者でも殺されるらしいし、僕1人で出会えば確実に殺される。


 しかも出会ったのは森の浅い場所というのだから……。


「うん、なら安心だな。取りあえず、ノーリア川の上流に釣りに行くぐらいなら、この程度で大丈夫だろ。これ以上強くなりたいなら、ギルドで仲間を募集してやるんだな。まぁ、鍛冶師と兼業は難しいと思うが」


 トーヤ君にそう言われ、僕は慌てて首を振った。


「いえ、十分です。正直、向いてないと思いますし」


 比較的簡単にゴブリンを斃せて少し良い気になってたけど、やっぱり僕に戦いは向いてないや。


 これで釣りに連れて行ってもらえるレベルというなら、それで十分。

 後は腕が鈍らないように、時々バトルハンマーの自主練するぐらいで良いかな?


「それじゃ、帰るか。次、何時魚釣りに行く時間が取れるかは解らないが、その時は声をかける」


「はい! 是非、是非、お願いします!」


 力強くそう言う僕に、トーヤ君は苦笑して頷いた。


 その時までに毛針とか、釣り道具を準備しておかないとね! 楽しみ。

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