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S011 トミー釣行へ挑む (2)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

トーヤから魚のお裾分けを貰い、釣り熱が再燃。トミーは訓練を始める。

ランニングで逃げ足を鍛え、ガンツからバトルハンマーを習う。

訓練の成果を試してみたくなったトミーは、トーヤに協力を要請する。


「但し、条件がある」

「だよね! 良かった!」


 付け加えられた言葉に、僕は胸をなで下ろす。


 これまでもかなり手助けしてもらっているだけに、何も無しというのはさすがに心苦しいというか、借りが大きくなりすぎるというか。


 いや、それを期待していたところもあるから、なんとも言い難いんだけど。


「良かったって、お前……。まぁ、良い。まず、付いていくのはオレだけ。ハルカやナオたちは忙しいからな」

「うん、それは問題ないよ」


 すでにトーヤ君たちは、この街でも上位に位置する冒険者らしい。


 確かランクも3か4になったと言ってたし、普通に頼めばそれなりに護衛料は高くなるはず。そんな冒険者が1人だけとはいえ、タダで付き合ってくれるのはありがたいこと。


 比較的短期間でそこまでランクを上げられたのは、最初にスキルを得られたというのもあるんだろうけど、やっぱり真面目に訓練と仕事を続けていることもあるんだろうね。


 僕も武器屋をやっている関係で多少は冒険者とも繋がりがあるけど、トーヤ君たちみたいに真面目な人はほとんどいない感じだし。


 てか、大半はお金を稼いだらそれが無くなるまで飲んで、そしたら仕事、みたいな刹那的な生き方をしてる。『江戸っ子ですか?』と聞きたくなるけど、受ける印象は随分違う。


 気っ風が良いと言うより、考え無しの方が近いよね。歳取ったらどうするんだろ?


「でも、トーヤ君は忙しくないの? ハルカさんたちは何を?」

「あー、あいつらは物作り? 家を持ったおかげで、生産系スキルを活かせるようになったから」

「あぁ、なるほど……」


 鍛冶スキルを取った僕もそうだけど、生産系スキルって、案外使い道が無い。

 潰しが利いて生活が安定するかと思いきや、環境が整わなければ全く使えない。


 僕だって、師匠に紹介してもらえたから鍛冶ができるようになったけど、普通は炉も用意できないし、原料の仕入れもできない。それらを何とかして武器を作っても、売る方法が無い。


 武器屋に持ち込めば買い取りはして貰えるが、それで稼げるかと言えば不可能。


 見ればある程度の品質が判る武器ですらそうなのだから、ポーションなどは言うまでも無いよね。【鑑定】で効果が簡単に判ったりはしないのだから。


「じゃあ、ハルカさんたちは全員、生産系スキルを持っているの?」

「そう、だな。ナオはちょっと違うが……そんな感じ」


 ハルカさんたちのスキル構成はよく知らないけど、錬金術とかそのあたりなのかな?


 ポーションを他人に売るのは難しくても、自分たちで使うなら問題ないわけだし、拠点を手に入れたことを契機に道具を揃えたのかも知れない。


 上手く作れるようになったら、融通してもらえるかなぁ? 僕は回復魔法使えないし。


「その点オレは、前に出て武器を振るうのが専門だから、こうして1人、訓練してるわけだな」

「……あれ? トーヤ君、【鍛冶】スキル、持ってたよね?」


 僕と一緒にショベルとか作ってたし。

 そっち方面に力を入れた僕ほどじゃなくても、十分に実用レベルだったような?


「……お前やガンツさんが居るのに、わざわざ設備を整えて、オレが鍛冶をやる必要あるか?」

「なんか、ごめん」


 苦い表情を浮かべてそう言うトーヤ君に、僕は思わず謝った。


「いや、鍛冶はうるさいから止めろ、と言われたから、トミーがいなくても多分同じ。ま、気が向いたら庭の隅で、野鍛冶でもやるさ」


 さすがに住居の中で鍛冶仕事は無いか。

 苦笑して、「幸い庭も広いし」と言いながら、広い庭を見回すトーヤ君。


 確かにこれだけ広ければ、端っこの方でやればあまり母屋まで音は響かないかも知れない。木も多く生えているわけだし。


 ただ、野鍛冶だとあんまり大した物は作れそうに無いんだけど……。


「鍛冶、やりたくなったらうちのお店に来るのはどうかな? トーヤ君なら、師匠もうるさいことは言わないと思うし……」


「う~ん……、いや、止めておこう。オレが鍛冶の腕を上げるより、こうやって剣を振るっていた方が、パーティーメンバーの役に立つだろ?」


 そう言って笑うトーヤ君に、僕は感心して「ほぅ」と息を吐く。


 やっぱり、こうやって全員が自分の役割を果たしているのが、トーヤ君たちの強さなのかも。


 比較するのも悪いけど、早々に死んじゃった田中君と高橋君、互いに相談することも無く突っ込んで行っちゃったし。


 それまでの数日は役割分担して、それなりに上手く行っていた気がしたんだけど……。


 スキル自体も地雷だったけど、最後の部分は自分の行動の結果だよね。はぁ……。


「それからもう1つ。これからも色々と面倒な物を注文する可能性が高いが、頑張って作ってくれ」

「面倒な物……小太刀みたいな?」


 あれは手間こそかかったものの、なかなか面白かったし、できあがりも結構満足のいく物だった。


 あれ以降も試行錯誤を繰り返して、より良い物――と言っても、本物の日本刀に近い物では無く、さほど手入れをしなくても錆びたりせず、固い物に当たっても折れたりしない実用性の高い物を目指しているんだけど、未だ満足のいく物はできていないんだよね。


 白鉄や黄鉄という特殊鋼があるので、不可能じゃ無いと思うんだけど、現状では刀身がかなり太くなるので、日本刀の長さになると重くて扱いづらいという欠点が。


 トーヤ君ならなんとかなりそうだけど、どうせならナツキさんとかの女性でも扱える物が作りたい。


 ちなみに師匠に訊くと、「金さえかければすぐに作れる」との答えが返ってきた。


 滅多に使われる物では無いが、ファンタジー金属は存在するらしい。


 それには非常に興味があるんだけど、さすがに原価が金貨数千枚と言われたら、おいそれと手は出せないよね。


「そっち方面も可能性はあるが、どっちかと言えば実用品かもな。今、オレたちは生活レベル向上に意識が向いてるし?」


「……なるほど」


 こんな良い家に入居するんだから、それも納得。

 外から見てもよく解る立派な家で、正直羨ましい。


 一応僕も、師匠から一軒家を借りられるぐらいの給料は貰ってるんだけど、引っ越す意味があるかと言われると……微妙?


 前の宿屋ならともかく、『微睡みの熊』に不満が無いから。

 一人暮らしになったら、自分で料理や掃除、しないといけないわけだしねぇ。


 自慢じゃ無いけど、僕に料理の腕は無い。色々揃った日本なら困らなくても、ここだと不味い屋台レベルの料理しか作れないと思う。


「ちなみに、どんな物を?」

「いや、まだ解らんが……この前はハルカたち、ミンチを作るのに苦労してたな」

「調理器具ですか!?」


 あんまり無茶を言われると困るんですけど、という気持ちで訊いてみたのだけど、返ってきたのは予想外の答えだった。


「鍋釜ぐらいなら作ってますが、それってかなり複雑ですよね? ハンドル回したら、ウニョウニョってミンチができるやつですよね?」


「いや、別にまだ注文するって決まったわけじゃ無いんだが……単に、あったら頻繁にハンバーグが食えるかな、と思っただけで」


「くっ、女の子の作ったハンバーグ。羨ましい!」


 僕の食べている食事は熊親父が作った食事なのに!


 ……いや、美味しいんですけどね。『微睡みの熊』の食事は。


 たまに、アエラさんのお店にも食べに行ってるから、美少女の作った食事も食べているわけで。


 でも、ハルカさん、ナツキさん、ユキさんの作った料理、僕も食べたい!


 美少女が素手で捏ねたハンバーグとか、ご褒美ですよ!?


「まぁ、あいつらの料理は普通に美味いからなぁ。オレとナオは料理作れないし、正直助かっている」


 いや、美味しいとか、美味しくないとか、それ以前に価値があるんですよ?

 もちろん口には出さないけど。変態扱いされたくないし。


「わかりました。多少の無茶なら引き受けます。その代わり、たまにで良いので僕も食事に呼んでくれたりは……?」


「調理器具を注文するとは決まってないんだが……まぁ、訊くだけは訊いてみる。それで良いか?」


「はい。可能性があるのなら、それで」


 日本にいたらまずあり得なかったわけだし、ワンチャンある、それだけでもありがたいです。ええ。

 注文された時のために、今からでも考えておこう。

 上手く作れたら、他の所にも売れるかも知れないしね。


「さて、それよりも。そろそろ出かけるか。南の森と東の森、どっちが良い?」

「えっと、よく解らないんですが、どっちが良いんでしょうか?」

「ゴブリンを見つけやすいのは南の森だが……」


 そう言いながらも、トーヤ君は少し困ったような表情で言葉を濁す。


「何か問題が?」

「出会うかも知れないんだよ、地雷に」

「地雷――クラスメイトですか!」


 訊いてみると、その人たちにトーヤ君たちが出会ったのは少し前のこと。


 最初の出会いでは、トーヤ君とナオ君を無視してハルカさんたちを勧誘し、当然の如く断られる。


 次の時には謝罪するようなことを言いながら、「経験値倍増系のスキルを持っているからお前たちより強くなる。今のうちに配下になれ」的なことを言われたらしい。


「うわぁ~~、それはイタいですね。経験値倍増系って成長速度が遅くなるんでしたよね?」


「ああ。それ以外のデメリットはねぇから、真面目にやればなんとかなるんだが……。あいつらを見ると、最初のトミーの対応が可愛く思えるぜ」


「その節は、申し訳なく」


 今思い出しても、まるで助けてくれて当然みたいな事を言ってしまった自分が恥ずかしい。


 自分が何をできるかなんて事も考えず、助けて貰うことしか考えてなかったから。


 にもかかわらず、結局は色々と助けて貰ってるわけで……。


「まぁ、あの時はお前も弱ってたし、仕方ねぇだろ。ハルカも、ナツキたちを探しに行く時じゃなけりゃ、町まで送るぐらいはしてやったんだろうが」


「それは当然でしょうね。付き合いの殆ど無い僕と、ナツキさんたちでは天秤にも載らないでしょうし」


 助ける理由なんて無いのに、行き倒れていたのを放置されなかっただけでも十分に幸運。

 特に僕が意識を取り戻す前なんて、知り合いとも気付いていなかったんだから。


「ま、トミーは物わかりが良かったから良いんだが、あいつらは面倒くさそうなんだよなぁ。なんか、つきまとわれそうだし」


「それは……ご愁傷様です?」


「ホントにな。素直に襲ってくれば返り討ちにしてやるんだが、中途半端なのがなぁ」


「か、過激だね、トーヤ君」


「いや、だって危ねぇだろ、この世界。日本なら行方不明になったら確実に事件になるが、ここだとそうじゃ無い。特に俺たちの場合な」


「それは……そうだね」


 人との繋がりが少ない僕たちの場合、行方不明になっても誰にも気付かれない、もしくは冒険先で事故に遭っただけと認識される可能性が高い。


 僕なんかだとさらう意味も無いけど、ハルカさんたちの場合、拉致監禁される危険もある。

 そう考えると、トーヤ君の心配もあながち杞憂とも言えないか。


「それじゃ、南の森は避けた方が良いですね」

「ああ。フルメンバーならともかく、俺1人だと万が一の時、あまり余裕が、な」


 そう言いながら僕をチラリと見るトーヤ君。

 言外に、足手まといだから守れないかも、と言われているようだ。

 そしてそれは間違いない。ゴブリン相手の実戦すらまだなんだから。


「……いや、それもありか? 俺1人なのに油断して襲ってきたら――」

「東の森にしましょう! 東に!」


 トーヤ君の言葉を遮り、僕は強くそう主張した。


 僕が襲われる理由は無いとは言え、トーヤ君に攻撃するついでに僕まで攻撃されたらたまらない。


 恩義もあるし、「手伝って」と言われれば否やは無いけれど、あえて襲わせるようなことはやめて欲しい。


「そうか? じゃあ、そうするか。東の森でも数時間歩けば見つかるだろ」

「数時間……案外居ないんですね、ゴブリン」

「そりゃそうだ。ワラワラ涌いてきたら、安心して街道も使えないだろ」


 そういえば、こちらに来た時、東の森で数日間サバイバルしても、ゴブリンには出会わなかったっけ。


 それを考えれば、数時間で見つけられるのなら、まだマシと言えるのかも。


「それじゃ、早速、東の森へ向かうぞ。準備は良いか?」

「はい。よろしくお願いします!」


 ついに初めての戦闘。


 トーヤくんの言葉に、僕は力強く返事をして気合いを入れたのだった。

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