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112 スカルプ・エイプ、マジ多すぎ

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

森の中で茶の木を見つける。

ナツキの強い要望で、庭に移植するための掘り起こす。

そんなことをしている間に、いつの間にかスカルプ・エイプに囲まれる。


「すまん、俺のミスだな」


「気にしなくて良いわよ。どうせナオの【索敵】が無ければ、直前まで気付かなかったんだから。まだ少し余裕があるんでしょ?」


 そう言って微笑んでくれるハルカに、少し心が軽くなる。

 そうだな、まだ焦る時間じゃない。


 万全ではないが、考えてみれば、そこまで状況が悪いわけでもない。俺の魔力が少し少ないだけなのだから。


「ああ。今のペースならあと数分は」

「なら、ここで待っている手は無いわね。包囲の一角に、こちらから仕掛ける方が有利でしょ」

「ですね。向かうなら、来た方向ですね」


 ナツキの言うとおり、未探索エリアに進むのは危険性も高いので、俺たちはトーヤを先頭に来た道を足早に戻り始めた。


 俺が方向を指示して進むこと数十秒、トーヤもスカルプ・エイプを索敵範囲に捉えたのか、1つ頷いて更に足を速めた。


 そして視界の先に現れたのは……一言で表すならばスタイリッシュなゴリラ。


 動物園で見たゴリラよりはスリムだが、チンパンジーとは明らかに違うその姿は、まるでゴリラがウェイトトレーニングをして、身体を引き締めたかの様な風貌。


 ただし、体毛は薄い茶色なので、そこはゴリラとははっきりと違う。


 そんなスカルプ・エイプが3匹、地面を歩いていた。それぞれの手には木の枝を少し加工した棍棒が握られているので、ある程度の知能はあるのだろう。


 そして、俺たちが相手を見つけるのとほぼ同時に向こうもこちらに気付いたのか、そのうちの1匹が「うぉっ、うぉっ!」と大きな鳴き声を森に響かせた。


「もしかしてこれ、仲間を呼んだのか!?」

「その可能性は高い!」


 【索敵】で反応を見る限り、近くに居たスカルプ・エイプの移動速度が上がった気がする。


「クソッ、急ぐぞ!」

「右端はあたしがやる!」


 ユキがそういうのほぼ同時、ユキが突き出した手から『火矢ファイア・アロー』が右端のスカルプ・エイプに走る。


 そいつは咄嗟に手に持っていた棍棒で『火矢』を防ごうとしたが、威力を高めた『火矢』がその程度で防げるはずも無い。


 棍棒諸共(もろとも)その右腕を消し飛ばし、痛みに叫び声を上げたスカルプ・エイプは転倒、その頭にハルカが放った矢が突き立った。


「ナオとユキはハルカの護衛、ナツキ、前の2匹はオレたちでやるぞ!」

「はい!」


 その声と共に一気に敵に近づくトーヤとナツキ。


 少し距離を空けて立ち止まったハルカの隣で俺も立ち止まり、少し先に進んでいたユキもトーヤたちに視線をやったまま戻ってくる。


 敵が目の前の3匹だけなら援護に入るところだが、少なくともあと十数匹は近づいてきているし、仲間を呼ぶ特性を考えると、更におかわりが来る可能性もある。

 魔法なども極力節約すべきだろう。


「ナツキたちは大丈夫そうだね?」

「みたいね。ゴブリンみたいに、あっさり切り捨てるわけにはいかないようだけど」


 スカルプ・エイプはトーヤの斬撃を棍棒で防ごうとはするが、簡単に押し込まれ、すでに数発攻撃が当たっている。

 あれでは致命傷を与えるのもすぐのことだろう。


 対して槍を使うナツキの攻撃は受け止めるどころでは無く、初撃で腕を半ば切り落とし――あ、頭に突き立った。終わりだな。


「『火矢ファイア・アロー』の1発で処理できなかったのは、少し予想外だったが……」

「ゴメン、多分あたしのミス。走りながらだったから、狙いが甘かった。ハルカ、助かったよ」

「フォローするのが仲間の役目だからね」


 ユキの謝罪に、ハルカが軽く笑って首を振る。

 しかし、ユキは『走りながらだったから』と言ったが、恐らくオークに比べると動きが速くて的が小さいことも原因だろう。


 ただの棍棒では防げないとはいえ、避けられてしまえば意味が無い。今後は『火矢ファイア・アロー』の速度を増す訓練も必要か?


 ま、今はスカルプ・エイプが呼んだ仲間への対処である。


「ユキ、そっち側、そろそろ来るぞ! 2匹!」

「了解! 取りあえず1匹は任せて」


 小太刀を構えて前に出たユキの後ろ、ハルカを背後に庇う位置で俺も槍を構える。

 絵面的にはユキの後ろに俺が隠れる形でイマイチだが、そこは長物故、許してもらいたい。


 茂みの奥から2匹のスカルプ・エイプが出てきたのはほぼ同時。そして、俺たちが攻撃を加えたのもほぼ同時。


 ユキは右側に回り込むようにして首元を切りつけ、俺は胴体、心臓付近を狙って槍を突き出した。


 ドンッという重い衝撃と共に、槍の穂先がほぼ根元まで突き刺さる。


 それと同時、突き立ったスカルプ・エイプの身体から力が抜け、地面へと崩れ落ちる。

 どうやら運良く心臓に突き立ったらしい。


 ユキの方はと言えば、首元から血は吹きだしているものの、まだ倒れずに動いている。

 しばらく放置すれば死にそうではあるが、そういうわけにもいかない。


「ユキ! 後ろから更に3匹!」

「えぇっ!? えぇい! 仕方ない!」


 俺の言葉に少し困ったような表情を浮かべてユキが、血を被るのを我慢して踏み込もうとした瞬間、俺の後ろから放たれた矢が、今度も見事に頭に突き刺さった。


「再びありがと、ハルカ!」

「それは良いから、ユキ、来てるわよ!」


 【索敵】で掴んだとおり、やはり3匹、茂みをかき分けて追加がやってくる。


 ナツキとトーヤの方に視線をやれば、ハルカの左後ろの所で5匹のスカルプ・エイプと戦闘になっている。


 1匹ずつであれば、ナツキたちもすぐに斃せるのだろうが、5匹が連携するとなると難しいらしく、やや手こずっている。


 ん!? ――数が少ない!


 【索敵】反応では、もう3匹ほど近づいて来ていた。

 反応のあった方向に視線をやると、1匹が木の上に上り、その下で2匹が石を拾っている。


 その石を木の上に投げ上げると、それをつかみ取ったスカルプ・エイプが腕を振りかぶり――投げた。


 速い。


 バッティングセンターの最高速ぐらいはあるか!?


「マジかっ!」


 咄嗟に避けようとして、背後のハルカを確認、慌てて槍から片手を離し受け止める。『バシッッッ!!』といい音がして手に痛みが走る。


「いってぇぇ!」

「――っ! ありがと!」

「き、気にするな。だが、野球のグローブでも欲しいところだぜ、これ」


 革手袋はしているが、クッション性が足りない。


 この身体の反応速度であれば、気付いてさえいれば、スカルプ・エイプの投げる石を避けることも、受け止めることも難しくは無さそうだが、戦闘中に後ろから投げられるとかなり危ない。


 しかも「キシシシッ」という鳴き声が笑っているように聞こえて、かなり神経を逆なでされる。


「遠距離攻撃は面倒だなっ。舐めるなよっと!」


 ユキが何とかスカルプ・エイプを抑えているのを確認し、俺は右手に握りしめた石を思いっきり振りかぶり、石を投げてきたスカルプ・エイプに向かって投球。


 手から離れるその瞬間、石に対して『加重ヘビー・ウェイト』をかける。


 その石は音を立てそうな速度で飛び出し、スカルプ・エイプに避けることすら許さずに、『ゴスッ』という音と共にその顔面にめり込み、その脳漿を背後へと撒き散らした。


「ぉおぅ、なかなか……」


 向上した身体能力+野球の投球フォーム+『加重ヘビー・ウェイト』の威力はシャレにならなかった。


 昔の戦争で投石は、最も多くの人を殺したと言われるだけのことはある。

 いや、魔法と身体能力が違うので、比較はできないだろうが。


 しかし、何か気になるような――


「ナオ! へるぷ~」

「あ、すまん!」


 今は考えている余裕は無かった。


 3匹を相手にしているユキはスカルプ・エイプに多少の手傷を負わせているのだが、それは致命傷にはほど遠い。


 ハルカの放った矢も数本突き立っているが、動き回っているだけにヘッドショットとはいかないようだ。


 俺はすぐに槍を掴み直し、石を拾っていたスカルプ・エイプに牽制の『火球ファイアーボール』を放ち、ユキの前のスカルプ・エイプに槍で攻撃を加える。


 火魔法のレベル3である『火球ファイアーボール』は着弾に爆発を伴うため派手には見えるのだが、同じ魔力を使うのなら『火矢ファイア・アロー』で狙撃スナイプする方が威力が高い。


 だが、牽制目的や雑魚が多く居る場合には役に立つ魔法である。

 俺が片手間でも参入したことで、ユキたちの戦いは大きく天秤が傾いた。


 1匹が俺の槍で動きを止めたところに再びハルカがヘッドショット。2匹になれば、ユキでも問題は無い。


 俺は『火球ファイアーボール』を喰らっても反応の消えていないスカルプ・エイプに向かって1歩踏みだし、土煙の向こうに見えた身体に槍を突き立てる。


 それを2度。僅かに抵抗した様子は見えたが、案外『火球ファイアーボール』の威力は高かったようで、ほぼ瀕死になっていたらしい。


 ちょっと一息つきたいところだが、更に4匹、来てるんだよね!


「誰か手の空いている人は!?」

「すまん、無理!」

「更に3匹、来ました!」


 おいおい、トーヤたちは8匹かよ!

 2匹は斃したみたいだが、それでも6匹。無理は言えない。


「こっちも、もうちょっと! ゴメン! ハルカ、お願い!」

「解ったわ!」


 ハルカと2人で4匹。もう少し遠くにおかわりで2匹。

 ちょっと厳しい……か?


「ナオ、左から魔法で攻撃するから!」

「了解!」


 俺とハルカで出会い頭に『火矢ファイア・アロー』が1発ずつ。

 それで2匹がほぼ行動不能に。

 時間と魔力にもう少し余裕があれば数が増やせるのだが、現状ではこれが精一杯。


 1匹を槍で相手取っている間に、ハルカからもう1発『火矢ファイア・アロー』が飛ぶが、今度は致命傷には至らない。


 その時点で更に2匹が参戦してきた。


「マズいっ!」


 正面の1匹は槍で始末することに成功するが、1匹が俺の横を後ろに抜けようとして、咄嗟に左手が出た。


 確実に悪手。


 その腕をスカルプ・エイプが掴む。


 咄嗟に腕を引き抜こうとして――


「――っ!!」


 ミシリ、という音が響く。


 叫び声を押し殺し、俺は半ば反射的に一歩踏み出して、スカルプ・エイプの顔面に肘を叩き込んでいた。


 僅かに緩んだ手から強引に腕を抜き取り、片手で持った槍を突き出す。


 ――浅い!


 穂先近くに持ち替えて突きだした槍だったが、近距離、しかも片手では刺さりが甘い。

 だがそれでも、スカルプ・エイプを一歩引かせることには成功する。


 すぐさまその顔に手を突き出し――


「『火矢ファイア・アロー』!」


 速度優先。


 普段オーク相手に使っている物に比べると、威力は半分以下だろう。


 だが、極至近距離、ほぼ密着するような状態で放たれた『火矢』は十分な威力を発揮し、頭を吹き飛ばすことこそ不可能だったものの、その顔を大きく陥没させて命を奪うことには成功する。


「ナオ! 抜けても大丈夫だから!」


 チラリとハルカを視界に入れると、その手に小太刀を携えて構えていた。

 そうか、ハルカも近接戦闘ができたんだった。


「すまん、1匹頼む」

「うん!」


 はっきり言って左腕が痛い。

 この状態ではまともに槍も使えそうに無い。


 俺は怪我の無い1匹をスルーして、ハルカの魔法を喰らっていた1匹を相手にする。

 正直、槍を片手で扱うのは厳しい。


「こんなことなら、俺も小太刀、買っておくんだった……」


 片手で扱えないこともそうだが、今回のように近づかれた場合に困る。

 槍は近づかれると厳しいとはよく言うが、1対1じゃ無い場合はそれが更に際立つ。


 敵が1人なら近づかれないように間合いを調整することもできるのだろうが、こんな戦闘ではそれが難しいのだ。


「ま、それでも手負い相手なら問題ないが」


 左手はほぼ添えるだけだが、それでもすでに足下が覚束なくなっているスカルプ・エイプ相手なら問題は無い。


 タイミングを見て数度槍を突き込むと、すぐに動かなくなった。


「ハルカは……大丈夫みたいだな?」

「えぇ、1匹なら」


 振り返るとちょうどハルカは、スカルプ・エイプに止めを刺すところだった。


 腕や足に何カ所か切りつけた跡があるところを見ると、慎重に削って斃した、と言うところだろうか。


「ユキの方は……ハルカ、援護頼めるか? 追加が2匹来る」

「まだ!? ホント厄介ね!」


 ユキも残り1匹を斃そうとしているところだが、【索敵】反応には更に2匹が。


 そしてトーヤたちの方にも2匹が近づいている。


 トーヤたちが対応しているスカルプ・エイプも、すでに3匹まで減っているが、彼らも疲れが溜まっているはず。今ここで2匹追加されるのは辛いだろう。


「もうちょっと頑張りますか!」


 俺は腕から響く痛みをこらえ、気合いを入れてそちらに1歩踏み出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 周回中、何故かポーション有るのに使わないナオなので有った。
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