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109 銘木って、どんななの?

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

ユキとの共同作業で浴槽が完成。

ハルカの作った湯沸かし器で風呂を沸かし、早速入る。

トミーが訓練を頑張っているので、そのうち釣行に連れて行くことを検討する。


「今日は森の奥に向かおうと思うけど、どう?」


 毎日の恒例、早朝の訓練を終えた後、朝食を食べながらそう口にしたのはハルカ。

 その方針は概ね全員の共通認識だったので、特に反対を口にする人はいない。


「基本方針としては、北の森から銘木を切ってくる、なんだよな?」

「ええ。この街で一番稼げそうなのは、それでしょ?」


 先日会ったギルドの支部長も言っていたが、基本的にこの街は平和なので、冒険者ギルドにもあまり報酬の良い依頼は貼り出されていないのだ。


 適当な魔物や猪などの獣を狙っても良いのだが、それだと今までと変わらない。


 そこで俺たちが狙うことにしたのは、北の森の奥にあるという銘木。


 ディオラさんは俺たちの身を案じて反対してくれていたが、無理をして切りに行ったりはせず、今後の目標とするならば悪くないだろう。


「でも、どんな木が高く売れるか解るか? 一応、オレの【鑑定】で木の種類ぐらいは判るけどよ」


「それは、シモンさんに聞きに行くと良いんじゃないかな? 大工さんだし、知ってるでしょ」


「そうね。それじゃ、森に行く前に、シモンさんの所に寄ってみましょうか。今日、切ることにはならないと思うけど」


 ユキの提案に同意した俺たちは、朝食を終えるとシモンさんの工房へと向かう。


 その途中でガンツさんの店で伐採用の斧とのこなた、ついでに『木を切り倒すためには必要』と言われたクサビなんかも購入しておいた。


 剣でズバッとか、魔法でスパッとかできたら良いんだが、まず不可能だしな。――いや、魔法なら風魔法でちょっとずつ削れるかも知れないが、多分、斧を使う方が早いだろう。


 ちょっとは強くなった俺たちだが、まだまだ達人にはほど遠いからなぁ。

 今後に期待……?


    ◇    ◇    ◇


 初めて訪れたシモンさんの工房は、かなり大きな工房だった。

 普通の民家3軒分ぐらいの作業場があり、その隣には2軒分ぐらいの材木置き場が併設されている。


 てっきり小さい職人の家と思っていたのだが、この様子だと何人もの弟子を抱えているんじゃないだろうか? 実はかなりの有力者なのかも。


 そんな工房の様子に少し驚いている俺に対し、何度かここを訪れているユキは気にした様子も無く工房の扉を開け、中に入って行く。


「こんにちは~~。シモンさん、いますか~」


 工房の中には作りかけの家具などが所狭しと並び、見通しが悪い。そんな中、何カ所かから作業する音が聞こえてくるのをみると、やはり複数人の弟子がいるのだろう。


 そこにユキの声が響くと、遠くから返答があった。


「おう、居るぞ。わりぃが、ちょっと待ってくれ」

「はーい」


 普段見る機会の無い作業場の様子。それを興味深く観察しながら入口で待つこと暫し、家具の間を縫うようにしてシモンさんが近づいてきた。


「やっぱ、ユキたちか。なんだ、家に問題でもあったか?」


 少し不機嫌そうな表情で訊いてきたシモンさんに、ハルカは首を振って否定する。


「いえ、家は問題ありません。十分に満足しています。ありがとうございます」

「へっ! なら良いんだ。こっちも悪くない仕事だったからよ。じゃ、なんだ? 家具の注文か?」


 一転、少し満足そうな表情になったシモンさんに尋ねられ、俺たちは顔を見合わせてから、ユキが代表して口を開いた。


「実は、北の森に木を切りに行こうと思ってるの。でも、どんな木が良いか解らないから、アドバイスを貰えたらと思って」


「北の森ぃ!? ……おめぇらは稼ぎが良いから、腕が立つことは解ってぇが危ねぇぞ? あの辺、魔物はもちろん、鹿とかも出るしよぉ」


「すぐに行くってわけじゃないよ? でも、行った時にお金になる木が解らないと、勿体ないでしょ?」


「言いてぇことは解るが、ある程度高ランクの奴らも、切りに行ったことはあるんだぜ?」


 もう10年以上も前から北の森では木が伐採されなくなっており、銘木の価格は上がる一方。


 それ故、もし入手できれば良い稼ぎになる事は間違いなく、普段この街にいないような高ランク――とは言っても、精々ランク6程度までだったようだが――の冒険者が切りに行ったこともあるらしい。


 だが、伐採するところまでは問題なくても、その丸太を持ち帰ってくることが非常に難しかったのだ。


 まともな道も無い森の中を、丸太を引きずって歩くにはそれなりの人数が必要になるし、そんな物をズリズリと引きずりながら歩けば、当然の如く魔物を引き寄せる。


 それに対処する冒険者と運搬要員、合わせればそれなりの人数が必要になり、その人数で分配するとなれば、いくら銘木が高く売れると言っても、高ランク冒険者からすればあまりワリがよろしくない。


 必然的にそれは数回行われただけで終了し、高ランクの冒険者はすぐに町を去る事になる。


 そう、つまりは一番の問題は運搬方法なのだ。


 そして、俺たちにはそれを解決する手段として、マジックバッグがある。


 伐採してマジックバッグの中に入れることさえできれば、帰還は容易い、とまでは言わずとも、丸太を引きずるのに比べると大幅に楽になることは確実だ。


 そんな事をシモンさんに説明すると、彼は一応は納得したように頷いた。一応なのは、運搬に問題は無くても、それ以外の魔物に対処できるか、という問題があるからだろう。


「なるほどなぁ。あの森の木が手に入るのは儂らとしてもありがてぇが……まあいい、見せてやる。来な!」


 シモンさんに連れられ俺たちが向かったのは、作業場の隣にある木置き場。

 その片隅にある、鍵のかかった丈夫な小屋の中にそれはあった。


 壁に立てかけられるように置かれた多くの木材。一見するとごく普通の丸太にしか見えないのだが、よくよく見ると……やっぱり普通の丸太である。


 これって、高いの? 本当に?


「うちはこれでも、この街じゃデカい方の工房なんだが、残りはこんだけだ。市場にもほぼ流れねぇから、増える予定もねぇ」


「あの、シモンさん、見た感じ、よく解らないんですけど……?」


 俺が躊躇いがちにそう訊ねると、シモンさんは苦笑して頷く。


「素人が見ただけじゃ解らねぇかもな。だが、明確に違う。あの辺の木は木理もくりが細かく独特で、硬い。家具に使うにゃ、最高だな」


 無垢のままでも美しく、彫りを行うのにも適している。


 逆に、表からは殆ど見えない建材に使うには勿体ない代物で、普通に北の森から切り出されていた時代でも、貴族の屋敷の床板に使われる程度であったらしい。


「板に加工したのがこれだが、解るか?」


 そう言いながら、シモンさんが側に置いてあった板を拾い上げて差し出す。

 大きさは50×100センチほど。そのまま使うなら、小さめのテーブルとかそのぐらいだろうか。


「えーっと、綺麗なのは解るかな? あと、手触りは良い」


 それをユキが撫でながら微妙な感想を口にするが、違いの分からない男である俺もそんな感じである。


 コツコツと叩いた感じ、硬そうなのは解る。

 黒っぽくモヤモヤとした木目が何となく味がある気もするが……高いのか?


 トーヤたちも似たような感想を持ったようだが、そんな俺たちの中にも違いの分かる女が一人居た。


 そう、言わずと知れたナツキである。

 金持ちの家に生まれたのは伊達では無い。


「これは、かなり凄いですね。かなり高いのでは……?」


「おっ、嬢ちゃんは解るか。見事な木理だから天板にでも使おうと思ってな。このへんの文様、これだけの物はそうそうねぇんだ」


 解る人がいたのが嬉しかったのか、シモンさんはニヤリと笑うと、板を指さして力説するが、ナツキ以外にはさっぱりである。


 いや、もちろん、そのへんにある板きれとは全然違うのは解るんだが。

 首を捻る俺たちに、シモンさんは苦笑を浮かべて、肩をすくめた。


「まぁ、素人がわかんねぇのはしゃあねぇ。縁がねぇもんだしな」

「すみません。職人なら、どの木が高く売れるか解りますか?」

「いや、職人でも生えてる木を見たところでそうそうは判別はできねぇよ。確実に解るのは種類ぐらいだな」


 なるほど。木理に関しては切ってみないと解らないのは当然か。表皮があるわけだし。

 そして、木の種類だけなら俺たちもトーヤの【鑑定】があるので問題ない。


「人気があるのは胡桃だが、あの辺の木なら種類を問わず、大抵高く売れる。太い幹で、なるべく森の奥から切ってきた方が良い値が付くが、その分、魔物も手強くなるからなぁ」


「あまり選ぶ必要は無いんですね。でも、何であの辺りの木は、品質が良いんですか?」

「解らねぇ。だが、あの辺は魔力が濃いらしい。その影響じゃねぇかってぇ話だが」

「魔力、ですか……」


「まぁ、そのせいか途中から手強い魔物が増えすぎて、伐採できなくなっちまったんだがな。上手く行かねぇもんだぜ」


 そう言ってシモンさんは苦笑いを浮かべる。

 だが、それも当然と言えば当然なのだ。


 自然界でも魔力の濃い場所と薄い場所の違いはあり、一般的に魔物が多く出るのは魔力の濃い場所で、強い魔物が出るのも同様である。


 今回はその魔力が木の成長にも影響を与えたと考えられたようだが、影響が木だけに留まるはずも無く、順当に魔物の数も増えたのだろう。


「わかりました。あと、切ってきた木はどこで売るのが良いと思いますか?」

「木材市場で売るのが一番だろうが……あそこは木こりじゃねぇと出せねぇからなぁ」


 ハルカに訊かれ、シモンさんは少し考え込む。


 そもそも木材市場を運営しているのが、木工職人や大工の組合と木こりの組合である上に、計画的に伐採している南の森で冒険者などに勝手に木を切られると困る、という理由もあるらしい。


 何も考えずに端から切り倒したりすれば森も消滅しかねないので、森林資源の保護という面を考えれば、仕方の無いところだろう。


 一応抜け道として冒険者ギルドに買い取ってもらい、ギルドが木材市場に卸すという方法もあるのだが、これはほぼ北の森で木を切ってきた冒険者専用の制度である。


 ギルドに払う手数料が発生する関係上、南の森で普通の木を切ってきたところで、大した儲けにはならないのだ。


「儂を信用してくれんなら、うちで買い取っても良いぞ? 手数料がない分、少なくとも、冒険者ギルドを通すよりはマシだろうさ」


「そう、ですね。もし上手く行った時は、お願いします」


「おう、期待してるぜ――っと、だが、無理はすんじゃねぇぞ? 若ぇ奴らが死ぬのは面白くねぇ」


「はい、ありがとうございます」


 やや不器用な言い方ながら俺たちを心配してくれるシモンさんに礼を言い、俺たちは更にいくつか、木を選ぶ上でのアドバイスをもらって工房を後にした。

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