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094 お裾分け (2)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

釣ってきた魚をトミー、ディオラさん、ガンツさん、アエラさんにお裾分け。

今後の方針を考えるため、南の森へ調査に行くことにする。

家を作ってもらっているシモンさんたちへ差し入れに行く。

「ナオ、できたわよ」


 そんな声と共に肩を叩かれ、俺はハッとして顔を上げた。


 目の前にあったのはハルカの顔。


 少し呆れたような表情は、すでに何度か声を掛けていたのかもしれない。


 空を見上げると、太陽はほぼ中天にさしかかり、いつの間にか昼食の時間になっていたようだ。


「あぁ、すまん、すぐ行く」


 俺は立ち上がって尻をはたこうとすると、ハルカが手を上げて制し、『浄化』をかけて土が付いた手も含めて綺麗にしてくれた。


「ありがと」

「いえいえ」


 ハルカの後についてみんなの所へ行くと、簡易的なテーブルが用意され、その上には深皿に入った料理が並べられ、その周りにはすでに全員が揃っていた。


「すまん、待たせた」

「おう。ナオ、調子はどうだ?」

「もうちょい、だな。ほら」


 俺が手に持っていた物をひょいと投げると、トーヤはそれを上手く受け止めた。


「これはサイコロ……? 6面ダイスに8面、これは10面か?」

「8面までは作れるんだが、10面は難しいな」


 トーヤに投げたのは土を固めて作った複数のダイス。

 それぞれの面に数字を彫り込み、簡単には欠けたりしないように硬く固めてある。


 真四角の6面ダイス、四角錐を2つ合わせた8面ダイスはなんとか作れたのだが、五角錐を少しずらして引っ付ける形になる10面ダイスはなかなかに難しい。


 これで苦労するのだから、五角形を貼り合わせる12面ダイスや三角形を貼り合わせる20面ダイスはさすがに作れそうにない。


「おいおい、目的を見失ってないか?」

「……いやいや、まさか」


 もちろん魔法制御の練習である。


 退屈な訓練のちょっとした息抜きに、ちょっとだけダイスを作ってみて、ちょっとだけ熱中しただけなのだ。そう、ちょっとだけ。


「ささ、それよりも食べようぜ。冷めるだろ?」


 ハルカたちが作ったのは、釣行2日目の朝、ユキが作ったうどんもどきのようだ。

 多少具は違うようだが、少し肌寒い今の気温に、温かい湯気と良い香りが食欲をそそる。


「ナオを待ってたんだけど……そうね、食べましょ。シモンさんたちも食べてください」


「おう、頂くぜ。――っ、うまっ! すっげぇ、うまっ!」

「めちゃくちゃ美味いな、おい!」

「これ、屋台で出したら、絶対行列ができるぜ!?」


 俺たち好みの味付けは、シモンさんたちの舌にも合ったらしい。

 うどんもどきの麺にも特に気にした様子も見せず、ずるずると食べている。


 俺も食べてみるが、野営に比べて制約が少ないせいか、あの時の物よりも少し美味しくなっている。ただ、2日目以降、カニも一緒に入れて出汁を取った物に比べると多少落ちるが、少なくともそのへんの食堂では食べられない美味さである。


「嬢ちゃんたち、料理も上手いんだな!」


「――っ! いや、待て! これ、魚が入ってるぜ? ……お前さんたち、ノーリア川の上流……グレート・サラマンダーを獲りに行ってきたのか?」


「判りますか?」


「あれの捕獲依頼は常に出ているらしいからなぁ。獲りに行くヤツはそんなにいないらしいが。この街に魚が入ってくるのはその時ぐらいだからな」


 確かに店に買い物に行っても、魚が売られていたことはない。


 アエラさんのお店や微睡みの熊亭で出てくることもないから、俺もこの街で食った覚えがない。


「獲りに行く人が少ないのは、やっぱりグレート・サラマンダーを見つけるのが難しいからでしょうか?」


 俺がシモンさんにそう尋ねると、彼は苦笑して肩をすくめた。


「儂もそう詳しいわけじゃないが、魔物がいる森で野営が必要だろう? 場合によってはオークだって出るって言うじゃないか。そんな場所で何日も野営しながら見つかるか判らないグレート・サラマンダーを探すのは割が合わないんだろうな」


 俺たちはたまたまナツキが見つけて一突きで倒したが、それ以降は罠に掛かった物以外、見かけていない。


 恐らくだが、グレート・サラマンダーは夜行性で、昼間に見つけるのはかなり困難なのだろう。


 夜間に探せば見つかるのかもしれないが、当然ながら危険性も高い。


 明かりがなければ周りが見えないし、逆にあまり煌々と明かりで照らしていては、魔物を引き寄せる危険性もある。


「しかし、この街では魚を見かけませんが、サールスタットから入ってこないんですか? 近いのに」


 荷馬車でも1日あれば付く距離なのだ。

 少しぐらい見かけてもおかしくないのでは、と思って訊いてみたのだが、大工たちは揃って首を振った。


「入ってこねぇな」

「不味すぎんのさ、サールスタットの魚は。安くもねぇし」


「いくらこの街から近くても、生なら魔法で凍らせるなり冷却するなりは必要だろう? もしくは遠方に運ぶ時と同じように干物や塩漬けにするか。その分高くなるが、味の方はなぁ……」


「「「あぁ……」」」


 苦い顔でそう言ったシモンさんたちに、俺たちは揃って納得の声を上げた。


 俺たちがサールスタットで食べた魚と同じ物を使っているのなら、確かに大して美味い物ではないだろう。それで高いとなれば、普通に肉を買った方がマシである。


 そんな魚でも、なぜかあの街の人は平然と食べていたが、一種のその地域特有の珍味みたいな物なのだろうか?


「魚が入ってるんじゃぁ、屋台じゃ出せねぇなぁ」

「そもそも私たち、冒険者ですしね。シモンさんたちが大工であるように」

「違いねぇ!」


 そう言ってシモンさんたちが笑う。


「売ることはできませんけど、今日は多めに作りましたから、たくさん食べてください」

「おう! 滅多に喰えねぇんだ。遠慮はしねぇぜ!」


 その言葉通りシモンさんたちは遠慮なく食べ続け、大鍋は瞬く間に空になったのだった。


    ◇    ◇    ◇


「こちらの門から出るのは初めてだったな」

「そういえばそうね。近くには良く来てるけど」


 南門のすぐ外には畑が広がっていた。


 ラファンで消費される食料の多くは輸入に頼っているらしいので、広大と言うほどではないが、それでも結構な広さがある。


 そこに野菜が育っているのはなかなかに見事な光景だが、これまでこちらに来ることはなかったため、目にするのは今日が初めてである。


 冒険者ギルドの建物が南門の近くにあるとはいっても、外に出るときは常に東門を使っていたし、俺たちの購入した土地もギルドの裏側から東へ向かった場所にあるので、門の前を通ることもなかったのだ。


「農作業をしている人もいますね。このあたりは安全なんでしょうか」

「見通しが良いし、危なそうなら街に逃げ込むんじゃない?」

「森の辺りまで見渡せるもんなぁ」


 門の辺りからでも畑が途切れた遥か向こう、森で作業する人の姿が見える。


 あそこで木こりが木を切り出し、その周りで冒険者が警護しているとなれば、魔物がそれを抜けて畑まで来る事なんて殆どあり得ない。


 それを考えての畑の配置であれば、かなり安全性は高いのだろう。


 そのまま道なりに歩いて行くと、森に近づくにつれ、木を切る斧の『コーン、コーン』という音が聞こえてくる。


 その音の多さや、時折聞こえるメキメキという木が倒れる頻度から考えても、かなりの数の木こりが木材の切り出しを行っているようだ。


 やがて見えてきた作業エリアでは、木こり1人に対して冒険者の数は2、3人程度。木を切り倒す関係からある程度の間隔を開けて広範囲に散らばって作業を行っている。


 冒険者の仕事には、護衛の他にも打ち払った枝の回収や丸太の運搬なども含まれるようで、半数程度が警戒、もう半数程度がそれらの雑用を行っている。


 その作業で疲労してしまっては護衛として役に立つのか疑問なのだが、このあたりではそれで問題ない程度の危険性なのだろう。


「……あ、端から全部伐採しているわけじゃないんだな」

「そうね、間伐みたいな感じかしら」


 近づいてみて気付いたのだが、木こりが伐採しているのは一定範囲で一番大きな木のみ。それ以外は残して場所を移動している。


「森林資源を維持する為でしょうか?」

「何か決まりがあるのかな?」


 ラファンの街が木工業で成り立っていることを考えると、資源の消滅は死活問題である。


 それを考えれば、ユキの言うとおり、何かしらの規制があってもおかしくない。


 ただこの方法の場合、残った木が邪魔をして、森の奥から木を切り出すのはなかなかに大変な作業になりそうである。


 今も森から、何人もの冒険者が1本の丸太を担いで出てきたが、まともな道もないだけに、その足取りは遅い。


「なんだか、冒険者というより、日雇い労働者?」

「それも冒険者ギルドの範疇だろ。俺たちは受けたことないが」

「そういえば、トミーはやってたか。ガテン系の仕事」


 一応、ゴブリン相手の戦闘もあるんだろうが、見た感じ、この森での冒険者の仕事は肉体労働メインという感じである。


 日々真面目に訓練を続けているので、俺たちでも請けられないことはないだろうが、この仕事をハルカたちにさせるのはちょっと躊躇する。


 辺りを見回しても、女性の冒険者はほぼゼロ。なぜ『ほぼ』かといえば、女性かもしれない男性――もとい、女性かもしれない冒険者もいるのだが、俺には判別できない。明らかに俺よりゴツいし?


「……取りあえず、邪魔にならないように迂回して、森に入りましょう」

「そうですね。ここにいても邪魔になる――」


「ああぁぁ!」


 俺たちが森に入る相談をしていると、突然ナツキの言葉を遮るように、そんな声が響いた。

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