ノンカピスコ・伝染病
つきあう相手は、選ぶべきだと忠告されていた。
あのMのせりふ。俺をふったくせに、えらそうに。
でも・・理屈ではないのよ。男と女は・・・そう単純に思っていた。
一代で立ち上げた仕事は、業績は好調。
子供はなく、控えめな妻と二人、何不自由なかった。
でもただあくせくと働くばかりの毎日が
無性に空しく、その思いを受け止めてくれる相手を捜していたのだ。
あるサイトでMと知り合ったが、
自分は彼女の好みでなかったらしい。ちょっと美人だからって、
お高くとまりやがってと思う。
そして・・・その次に会えた真奈美に、俺は傾倒していくのだ。
30代後半と思われる真奈美は、いつも項垂れて、悲しそうな目をしていた。
何か深い悩み・悲しみを秘めているように見える。
でも・・二人で肌を合わせていると、妙に艶めかしく、たまに
嗚咽して泣く姿がいじらしい。そんな時は、生活疲れしたパサパサの真奈美の髪を
なでて抱きしめた。
そして、か細い真奈美の
白い身体には、夫からの暴力と思われる傷跡が、浮かび上がり
リストカットした手首で、背中をつねられると異様に興奮したものだ。
互いをむさぼるように、頻繁に会うようになっていたのだ。
そんなある日、妻の実家の親が倒れ、妻はその介護に追われる。
しかし・・遠方の義兄は知らぬ顔で、費用までうちにおしつけてきた。
そう思ってると、得意先が相次ぐ倒産の憂き目に。受注は減る一方。
事務所に入ってるビルのオーナーも、突然に退去を言い出す始末。
会社の車で、従業員が事故を起こし、その被害者が質の悪いやくざで
慰謝料をふんだくられた。
自分の身体も、潰瘍が見つかる。
あれだけあった仕事は日に日に減り続け、従業員はリストラし、
明日からは縁故を頼って、地方周りだ。
それはタダの偶然だと思っていた。
しかし・・最近の真奈美は以前と違い、肥え太り、何か陽気になってきた。
リストカットの手首は、傷が埋もれてわからない。夫ともうまくいってる風だ。
『あなたといると、何か憑き物が落ちるようだわ。私・・・』
情事の後に煙草をふかし、そう言う真奈美。
以前の面影はなく、余裕の素振り。そして
『あなた、痩せたわね・・』哀れむように言うのだ。
そう言われて、鏡を見るとやせこけた自分の顔にぞっとした。
目は落ちくぼみ、顔には精気がない。
その俺の背中に、真奈美は言う。
『私たち、もう会うのはやめましょう。』と。
『え、どうして?』
『だって、不幸はうつるのよ。』真奈美は不気味に笑う。
『・・・・まさか?』
『あなたもうつせばいいのよ。誰かに、私はもうゴメンよ。じゃあね』
真奈美が振り向くことはもうなかった。
これは、ノンフィクションです。