咲き誇るは心のちから 1-2
割れた窓から飛び出した少女は、そのまま三段飛びの様に、あっという間に外の道路へと移動した。
全くスカートなど気にしないような大胆な行動に、少し違和感を覚える。
「急いでください!ここにいると家が壊れます!」
「いやいやいやどういうことだよ!!」
「狙われてるんですよ、今現在!」
「この家がか!?」
「私がです!!!」
ん?
お前が狙われてる??
直人の脳内はさらに混乱する。
「・・あぁ、もう!!それ俺がついていく意味あんのかよ!!」
「詳しい事情はあとです、手短に全てを理解してもらうためにあなただけでもついてきてください!」
「何を理解するって・・・、あぁクソ!!」
直人はとりあえず言われたままの行動をすることにした。
一旦状況の理解は置いておこう。
明らかに情報が少なすぎて、説明と納得が自分の中でできない。
少なくとも、おかしな事が起こっているのが確かなくらいなのだ。
ひとまず彼女といれば何かわかるだろう。
そう思いながら、彼は地面にまきびしのように広がるガラスの破片を避け、玄関へと急いだ。
◇◆◇
外に出るとそこにはさらに理解しがたい状況が広がっていた。
先ほど、少なくとも直人の自宅は"攻撃"らしきものを受けた。
それも暴風によるもので、窓ガラスを吹き飛ばすほどの威力だったのだ。
外にはその風を作り出したであろう何かがあるはずなのだ。
しかし、なぜだろうか。
「なんもねえぞ・・・!?」
確かに外を見たとき、少しは視界に入ったので薄々感じてはいたが、そこにはいつも通りの地元が顔を見せていた。。
何かが爆発した痕跡もなければ、風を送り出す送風機のようなものもない。
「それに・・・周りの家、被害なさそうだぞ・・・?」
そして、どう見たって歪に変形しているのは自分の家だけだった。
周りの家はいつも通り、その土地に佇んでいる。
こうやって比較して見ると、相当壊れたな、我が家。
「っち、何が起こってんだよ・・・」
変な感情を抱き始めたところで自分の思考にストップをかける。
これ以上訳のわからない情報を取り込むとヤバそう。
あいつに全てを聞き出す。
今はそれが最優先だ。
そう思いながら、帰宅時正人と争っていた入り口の門、だったものを通り抜け、先行していた彼女においつく。
彼女は、ちょうど自宅の前にある隣の家の大前さんの所有地のもともと田んぼだった空き地にたっていた。
先ほどと同じ弱そうなかまえで何やら虚空を見つめている。
とりあえず少しでも話を聞いておこう。
また変なものが飛んでくる前に。
「おい、どういう
「次が来ます!!!!」
「え」
刹那、またしても直人の眼前を真っ黒で巨大な手が覆っていた。
同時に、耳をつんざくような爆音が鼓膜に突き刺さる。
直人は思わず両耳を反射的に塞いでいた。
「っちょ、待って待ってなんなの!!」
「さっきも申し上げましたが今は説明してる暇がありません、とりあえずついてきてください!」
「意味わかんねえよ!!なんだよそれ!!」
「意味わかんないのもわかりますが今はありのままで!ありのままでお願いします!」
ありのままでって・・・
直人は奇妙な動きで収縮する彼女の腕を見つめながらまた何かの攻撃を受けた事を悟る。
どうやらいまだに話を聞きだすことは難しい状況らしい。
空に何かいる?
そう思って上を向いても、午後の終わりの日が傾いた空が広がっているだけだった。
「何が起こってんだよ・・・」
噛み締めて放った一言だった。
しかし、直人の困惑をまるで合図にするかのようなタイミングで"次"がくる。
バゴン!!!
「うぉっ!?」
「速い、ですねっ!」
少女はその見えない"攻撃"に対応して手腕を巨大化させて、相殺する。
ドゴン!!!
「っち、しぶといですね、早く潰れろ」
彼女は左右の手を巨大化させたり収縮させたりを繰り返していた。
その巨大化に伴って、手腕は黒く染まる。
黒く染まったその掌は、どこからともなくやってくる"攻撃"を、いともたやすくはたいているようだった。
ハエたたきかよ・・・。
なんかそう思うと途端にマヌケに思えてきたわ。
少し冷静に目の前の事を捉え始めている。
どこからともなく飛んでくる"攻撃"はますます勢いを強めていた。
「おい青ドレス!なんか俺にできることはねえか!?」
「そう、ですね!今は私の行動を受け入れてくれれば嬉しいです!」
「受け入れるって、何をだ!」
「少しついてきてくれると、嬉しいです!」
彼女はランダムな間隔で防壁を作り出ながら直人に告げる。
あまり悠長に話している余裕はなさそうだ。
「何を今更言ってんだよ!あとで家の修理代払ってもらうまでは追っかけまわしてやっからな!」
本音が出てしまった。
いや、まぁ当然なのだが。
しかし、彼女はその一部分だけを聞き、あとは聞き流していた。
その時、彼女の思考が即決を下す。
「同意は得ましたよ!しっかりつかまっていてくださいね!」
「は?」
そう言って彼女は、もう何回壁にしたかわからない巨大化した右腕をちょうど脇にいた少年を包み込むように体ごと旋回する。
そして少年を文字通り掴むと、
次の瞬間。
彼女の華奢な両足が、何倍にも膨らみ、黒く変色し、跳躍した。
「・・・・あ?」
「あああああああああああああああああ!!!???」
地面は抉られ、破裂したかのような穴が空いている。
しかし、すごいスピードでその地面は遠ざかっていった。
空を切るような感触を、肌が感じていた。
二人はどんどん進んでいく。
俺はいま掴まれてる。
掴んでいるこの少女は、今跳んだらしい。
俺は少女に連れられている。
つまりここは、上空。
「本来こういう用途じゃないんですけどね、これ」
「ちょちょちょ待って待って、ついてくってそういうこと!?」
「ありのままでお願いします」
「しばき倒すぞお前!?」
空をまっすぐ進む二人は決死の会話をする。
何を目指して跳んでいるのかわからない。
俺の場合ほぼ強制的に連れてこられてるからさらに状況わからなくなる。
しかし、そんな会話もつかのま、"次"はそれを許さない。
「あ、これ考えてませんでした」
「え」
バゴン!!
上空で炸裂するそれは、明らかに先ほどのもとはわけが違うレベルだった。
少女は相変わらず巨大化する手腕で対抗するが、ここは上空。
曲がりなりにも彼女は跳躍していたわけだが、空中上で推進力を補えない彼女を止める決定打には、十分な威力だった。
「あ、やばいですね」
「落ちる!?」
跳んでまだ二十秒も経っていないのに、その進路は明らかに逆方向へと紡ぎ出していた。
跳んでくるまで放物線を折り返すような進路が、図として描ける。
明らかに数十分前の平凡な日常とはうって変わって、喧騒が少年を襲う。
視界がブレて、目の前が空なのか地面なのかわからない、錯乱状態に陥りそうになる。
死ぬ?
いやいやいや、マジで?
少なくとも、こんな体験できないって思えば多少はポジティブ?
吐きそう。働け三半規管。
つかなんで家壊されて死なねばならんのだ。
ん?もしかして普通に死ぬのか味気ないからこんな変わった演出をしかけたの?
「あー、ちょっとプラン変更しますか」
直人がパニックになっている横で、推進力を殺されて落ちていくことを迫られている少女がそう呟く。
死ぬにプランもクソもあるのかよ。
そう思った。
「直人さん、歯ぁ食い縛れです」
「歯?」
続けて彼女はまたしても足を膨張させる。
そして、それは次の瞬間、パァン!という音を立てて、空を蹴っていた。
というか、空中の何かを蹴り潰して、推進力を得てるように見えた。
「何それ!?」
さっきとは違う強い重圧が、体に襲いかかる。
相当強いスピードで空を蹴ったらしい。
「もっとスマートに行きたかったですけどね」
「今は、そうは言ってられません」
「悔やんでいるような表情でそう言うが、やってることあんま変わってないよな!?」
以前、恐怖が倍増しただけかもしれない。
逆にこうする以外の手段を聞いてみようかと思ったが、怖すぎてそれどころではなかった。
二人は、というか、一人をつかんだ一人は、どんどん空を蹴り進める。
その軽快な破裂音が、それを表していた。
そして時折、横を飛んだり、少し進路を変えたりと、変則的な動きを見せる。
次々浴びせられる"攻撃"を、受け止めるのではなく避けているためだ。
行動を変えたのは、彼女が見えない何かと短期で決着をつける決心をしたからだ。
いつの間にか、高度は五十メートルほどまで達していた。
「お、え・・・」
酔ってる、な、これ。
初めてだわ。人酔いって、はは。
もう、いっそのこと楽になりたいわ。
俺、本当にここに必要あったのかな。
「そろそろですか」
白い目の直人の心の呟きは、果たして彼女の耳には届かない。
不意に自分を掴んでいる彼女が空を蹴るのをやめる。
もうこれ以上上へ上がる必要がなくなったのか。
残る推進力を携えて、それでもなお少しずつスピードが落ちていく。
たまに来る"攻撃"には、その時々で対処するように移動している。
そして、異変に気付いたのは、それから間もなくの事だった。
バラバラバラバラバラ・・・
「ヘリ、コプター?」
今にも吐きそうな涙目の直人は新しく入ってきた音に対してそうコメントした。
直人の耳に入ってくるその音に、直人は記憶の引き出しを開けて仮定する。
しかし、ヘリのようなものは、少なくとも視界には入っていない。
相変わらず、夕焼けが広がるだけだ。
「なんだ?ついに俺の脳も狂っちまったのか!?」
少しショックを勝手に受けている少年には目もくれず、少女は、斜め上空前方をしっかり見据えている。
「っは、結局"消せる"のは一部分だけですか」
「え、今なんて言った」
「あなたじゃないですよ、安心してください」
自意識過剰になっているあたり、直人も冷静さが欠け始めている。
というか、文字通りぶっ飛んでるみたいだ。
相変わらず、ヘリが駆動する音は続く。
まだ暑いはずのこの時間帯でも、変に体が寒くなっていた。
その時、状況は最後の大詰めに掛かる。
「さ、少し見ててくださいね!」
少女が気合いをいれてそう言った。
「見てるって、なにを」
「私をです、状況の説明もめんどくさいので」
状況の説明か。
もう怖すぎて気にもなってなかったわ。
「はぁ、もうなにがあっても動じねえよ」
「その言葉、感謝します」
その時、直人は激しいほどのデジャブを覚える。
あれ、さっきもこの流れなかったか。
確か、こっから先、ひどい目に合うようなー
「後で回収するので、見ててください」
そう言うと彼女は、手にしていた少年を、
おもちゃのように自分の真上へと、投げた。
「あー・・・」
もちろん、ここでいう少年とは直人である。
彼の予想は、当たったのだ。
デジャブだった。
これ、たぶん怖すぎて気絶するやつだ。
そう、空を舞いながら直人は儚く悟る。
とりあえず本能のまま、叫ぼうか。
それとも、恐怖におののいて放尿でもしようか。
直人の脳が勝手にそんな動きをしようとしていた。
しかし、直人は彼女に言われた通り、無意識的に視界に入った彼女を見ていた。
というか、投げ方がうまかったのだろう、ちょうど彼女を見下ろすような形で放り出されたらしい。
いやでも彼女が視界に入るのが、四秒ほど。
それ以上の対空は、体が乱雑に動き回ってしまう。
しかし、少女の『みてほしい』と思うものは、それだけの時間で十分だった。
目の前の少女が、また空を蹴る。
その推進力は、彼女の足が爆発したのか疑うほどの勢いだった。
おそらく俺を解放したのも、これを使うためだろう。
あれは仮に搭乗してる人が耐えられるスピードではなかった。
向かう先は、駆動音のする方向。
距離にして、約十メートルほど。
それを一瞬にして、詰める。
ここまでで約二秒。
そして、そこからは一瞬だった。
彼女の右腕が、またしても黒く、巨大化する。
なお、それは俺が最後に見た彼女のサイズの腕を凌駕していた。
漫画でよく巨人とか、それに似た何かとかを見たことがあるが、彼女のそれは、まさにそれだった。
そして彼女はその速度を保ちつつ、右腕を硬く握りながら、引く。
同時に体も、引いた右腕を放つ準備をするように、捻る。
今の彼女の体勢を一言で表すならそれは、
「今から殴りますよー、かよ」
途中、さっきから自分達が受け続けていた"攻撃"が彼女を抵抗するのをみた。
しかし、所詮は風だったらしい。
彼女の推進力と、それはぶつかり合って、相殺されていた。
青いドレスをまとった少女を、もう誰も、止めることはできなかった。
「潰れろ」
かくして少女は、その右腕を、大きく振り下ろしていた。
ドガンバギャン!!!!!!
直人の視界が一瞬ブレた気がした。
しかしそれは、ブレたのではなく、コンマ数秒で視界に新たな情報が入り込んできたのが真相だった。
一瞬にしてふりおろされた彼女の右腕は確かに、黒いヘリコプターを破壊していたのだ。
「は?」
果たして直人は叫ぶにも叫べず、放尿するにもそんな身震いは全くしなかった。
眼前に広がる光景が、信じがたすぎるものだったじゃらだ。
四秒。
この間で眼前に広がる現実は、この数分間の体験のなかで、一番意味のわからないものだった。
そして、直人は心の底からの疑問を、このひらがな一文字に込めた。
目の前の光景を見ることは一瞬だったが、理解にはもっとたくさんの時間がかかる。
現在の状況でそう思った直人は、空を乱雑に、どこか規則的に対空しながら、思考をゆっくり止めた。
ただ一つわかっていることはあった。
「これ、普通のことじゃ、なさそう」
当たり前のことであった。
遅れてすみませんでした。
これから二、三日に一話は投稿できるよう頑張ります。




