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E's world  作者: 星魅夜えりあ
第一話 心は開く 〜静岡防衛戦線第一幕〜
2/4

平和な世界 0-2

次話です。

一週間くらいをめどに定期で投稿したいと思います。


「ついに・・・」

「・・・うん、合格だ」

直人が口角を上げてそう告げた。

目の前の少年が、声にならない声を出しながら感涙している。

右手にはシャープペンシルを剣を持つように握っているが、戦意などひとつも感じられないような表情だった。

なんかアメーバみたいな目になってるけど気にしないでおこう。

「全過程終了だな。よく頑張ったよ」

「オデ、ウデシイ」

「はいはい、お疲れ様」

直人はもう一度自身の手にもつそれに視線を戻した。

彼は一枚の答案用紙を持っている。

内容は高校数学の内容よりアトランダムな単元の問題が合計で25問が出題されていた。

しかし五十点満点中三十八点のその答案用紙に答えを書き記したのは直人ではない。

目の前で感激に溺れている少年、田中正人(たなかまさと)がこの答案の解答者である。

彼はこの夏休み、直人の教育のもと数学をとことん勉強してきた。

この答案用紙も直人の手作りで、正人の教育用に作られたものであった。

直人の教育カリキュラムに沿って、決まった単元の復習テストをその日の最後にする。

少々荒っぽいかもしれないが、直人なりの正人に対する友人としての手助けなのだ。

そして今日、全過程が終了。先ほどのそれが、単位を取得した瞬間であった。

もちろん、その単位は面接では使うことなどできないが。

「よく頑張ったよ。みるみる成長してくれて俺もやりやすかった」

「直人本当にありがとう!!」

ようやくパッとした表情で放った彼の感謝の意に直人も微笑んで無言の返答する。

「これで二学期の中間も怖くねぇ!!」

「数学以外は知らねえけどな」

「進学試験数学しか筆記ないし、実質もう俺の勝ちでいいでしょ!」

「何と争っているんだお前は」

勉強前と同じかそれ以上のエネルギッシュなテンションを見せる正人。

立ち上がって抱え込みジャンプをしたり意味のわからない発言ばかりしているのは、相当嬉しいのだろう。

動きのキレがものすごい。

だが、彼の言っていることにも少し意味はあった。

井上正人はスポーツ特別優待生という枠で体育系の大学を受験することが決まっている。

試験内容は実技、面接、筆記の三種で、実技はあらかじめ指定されたいくつかのスポーツの中から一つ選択し、事前に申請しておくという形を取っている。

筆記は今時体育大学試験では珍しい数学のみで、英語は出来る前提で話を進められるらしい。

それもそれでなかなか酷だが、筆記試験の大幅免除というのはやはり特待生受験に置いて最大のアドバンテージだろう。

まぁこいつ体育以外何にもできないけど。

それを踏まえてのこの夏休みの勉強期間であったのだ。

もちろん、定期テストの対策もこれから始める気でいる。

「えんやぁぁぁぁぁぁぁこぅらぁぁぁぁぁぁぁ」

当の本人は踊り狂っているけど。

「あー・・・しばらくほっとくか」

狂喜乱舞している正人を尻目に、直人は一人帰り支度を始めた。

時刻は午後三時半を過ぎたところだった。

三時間黙って精神集中できるのはさすがスポーツマンと言ったところだろう。正人に感心する。

教材とペンケースを持参したリュックサックにしまい、外していた腕時計を再度右腕に装着した。

太陽光が窓からちょうど自分達を射し込んで体温が上がっているのがわかる。

何も動いてないのに汗をかくくらいだ。

外からはいまだに部活動に励んでいる生徒達の猛りし声が聞こえてきた。

それを意識したら心なしか更に暑くなってきた気がする。

「ほら帰るぞ猿」

直人が帰り支度を終了して、一刻も早くここから去りたいとばかりに正人に催促した。

早く冷房のある所へいきたい。

「はぁい」

直人に呼応するように正人がその意味不明な動きを止めた。

「ほら、帰るぞ」

「ねぇねぇ帰りジュース奢ってよ!」

「・・まぁ、今日は特別にな」

「よっしゃ!コーラメロン買おう!」

正人はもともとペンケースと教科書しか持って来てなかったので手さげ型のトートバッグにそれをさっさと入れた。

「先行くからな」

「ちょ、まちまち〜」

既に廊下に出て歩き出していた直人を走って追いかける正人。

並んだ二人はそのまま階段を下りて昇降口へと向かった。


「そういえば雷人、結局電話すらくれなかったね」

正人が自身の下駄箱を開けながらそう言った。

先ほど話していた、彼らのもう一人の友人である。

「まぁ、このお盆が終わった時期病院混んでそうだしなぁ」

「重い診断結果じゃなきゃいいけどね。この前あったじゃん急に入院とか」

えーと、と病名を思い出す正人。

「原因不明の精神的障害だろ。名前が確か、突出心象疾患だったか」

「あーそれそれ。意味わかんないよね」

「まぁメジャーな病名以外でパッとしないのは普通だろ」

スニーカーに靴を履き替えながら正人に言う。

医者でもなんでもない俺たちからすれば大まかな分類を除いて病気はみな病気なのだ。

「雷人の場合急に搬送されるなんてことも珍しくはなかったし、持病が急に悪化とかしなきゃ大丈夫なはずだ」

「んー、そっかー」

二人が話している少年はどうも病弱らしい。

直人はやけに落ち着いているが、きっともう慣れたのであろう。

一回一回心配しているのではストレスが溜まってしまってこっちが病気になる。

靴を履き替えた二人は、昇降口を抜けて澄み渡る青空の下へと足を踏み出した。

無論、室内よりもはるかに気温が高く、下手を言うとさっきに自習室の方がまだ涼しかったかもしれない。

照りつける太陽の光。清々しいほど広がる青空が更に暑さを引き立てている。

「・・・あちい」

「うべぇ、早く家帰ってアイス食べたい・・・」

先ほどの友人に心配を忘れさせるくらいに強烈な暑さの中、二人は正門へと向かった。

二人のこの通う高校は、静岡県浜松市に位置する。

学校名は「静岡県立浜松くすのき商業高等学校」。

名前の由来は校舎に囲まれるように中庭で気高く立つ一本の(くすのき)

南校舎と北校舎を経由した渡り廊下があるため、真上から見ると横に長いコの字のように建設されていて、その中央に庭を埋めつくすほどの大きな一本の楠がそびえ立っている、不思議なデザインの学校だ。

体育館と柔道場、テニスコートと運動場ももちろん敷地内の決まった場所に建設されている。

それに商業高校ということで、ざっくり言うと就職高校の分類に入るこの高校。

二人のように進学を希望する三年生は数少なかった。

そのおかげで自習室はほぼ毎日ガラガラ。

先生も来ないので、ほとんど二人だけの空間と化していた。

だからあんなに騒いでも咎められないのだ。

以外とあの空間が心地よかったりしたのは、内緒だけど。

二人は正門を抜けると高校をあとにして、帰路へつき始めた。

「家着いたら雷人に連絡してみるか」

直人が歩きながらそう言った。

「あれ、直人携帯は?」

「無くした」

「またですか・・・」

どうやら彼には無くし癖があるらしい。

「つかお前、勉強するのはいいけど陸上の方は大丈夫なのか?」

「うるせー。陸上やっててつまんないもん」

「・・・まぁお前なら調整とかいらないか」

正人が少しふくれっ面になる。

彼の陸上嫌いはとんでもないものだ。


田中正人(たなかまさと)

天性の運動能力を持つ彼は、高校二年生のわずか半年間、陸上部に所属していた(・・・・)

高校二年夏、高校総体陸上競技全国五種競技男子決勝。

初出場で、銀メダル獲得して、彼は陸上部を辞めた。

疾風の如く現れ、普通なら"ありえない"成績を残した彼は、後に陸上競技の歴史に名を残すことになる。


「理想の動きができないからつまんないだよ」

口をタコみたいにして陸上を否定しまくる正人。

彼は自身の陸上の動きに納得できないから、陸上を嫌っているみたいだ。

一体あれ以上の動きを求めて何になるのかと、実際会場で彼が競技していた姿を思い出してみる。

実は大学進学を陸上の特待生で受けると決心したのもつい最近で、その背景にはいくつもの苦悩が存在していたのだ。

まぁ、悩まされてたのほとんど俺と雷人だけなんだけど。

「まぁ、お前なら試験内容とかも余裕なんだろうなきっと」

「なんならつまんないくらいだよ・・・地球一周とかにしてくれれば楽しかった」

「死人が出るからやめろ」

理想高すぎ。

毎度ながら正人のスケールのでかさには呆れる。

正人の憂鬱が久々に聞けたので少し懐かしさが湧いたものを。


その後お互いの進路の事を話しながら歩くこと三十分。

時刻は午後四時過ぎ。

未だに太陽は沈む気配はない。

周りの田んぼにはまだ緑色をした麦が生い茂っていた。

きっとこの辺の民家のおじいさんおばあさんが丹精込めて作ったんだろうと、適当に感想をつけておく。

風になびいた麦が規則正しく流れるようにうねるのを見るのは案外嫌いじゃない直人である。

そして今は直人の自宅の付近である。

なんの変哲もない田んぼ道に沿ったこぢんまりとした住宅街に、彼の家はあった。

二人は、その道をてくてく歩いている。

「・・・もう無理暑すぎ、少し直人の家いさせて」

「あぁ、いいぞ。つか呼ぶつもりだったし」

頭にハテナマークを浮かべる正人。

「二学期課題テストの対策プリントを渡すからな。来週の土曜採点しにいく」

「やっぱ帰ります」

「おいこら」

口をキリル文字のデー文字のような形に変形させて目の焦点がズレまくる正人。

さっきまでの勉強の集中はどこへ行ったんだ。

「はぁ・・・勉強なんて好きになれば一発で出来るだろうに」

「そんな変人いるの!?」

割と本気で引いてる正人。

まぁ実際そんな性格の奴は俺たちの商業高校にはいないと思うから当然の反応か。

「とりあえずつべこべ言わず受け取れ」

「あべこべ」

「殺すぞ」

ひぃ〜とお互いじゃれ合うなか、いつの間にか直人の家の前に到着していた。

直人の家はなんの変哲も無いただの二階建ての一軒家で庭がある。

その辺よりかは多少は坪が大きいかもしれないが、それでも豪邸というわけではない。

「はい、上がりましょうね〜」

「い、や、だ」

玄関より外の門で引っ張る直人と抵抗する正人が奮闘していた。

お互いにあまり動いてないのが見ていて微笑ましい。

「はぁ・・・せっかくお前のためを思って作ってやったプリントなのになぁ」

「うぐ」

そう言われるとぐうの音もでないだろう。

実際この夏休みお世話に成っている正人からすれば、その言い方は拒否できなかった。

「べ、別に頼んでねえし」

でも負けず嫌いの正人。必死に対抗する。

「ほう・・・じゃあ縛るから待ってろ」

「やめろぅ」

ギギギと引っ張ることと抵抗を止めない彼ら。

あまり位置は動かないままだった。

結局お互いに体勢を変えれず一分が経過したところで、暑さもあいまって疲れ果てた正人の方が折れた。

「うぅ・・・また勉強かぁ」

しょんぼりする正人。

本当に勉強が嫌いらしい。

「まぁ今回のは数学のやつほどスケール大きくないし、無理なくやれる量に調整したから頑張れって」

「直人の基準で考えられたら困ります!!」

めっちゃ訴えられたが、気にしないでおこう。

直人はあえて無視を突き通した。


「さて、お入り正人くん」

「うぐぅ」

仕方なく鈴木家の領地へ足を踏み入れる正人と帰宅する直人。

正人は昇降口を抜けるときよりも足取りが重くなっているようにも思えた。

「あー、やっと冷房に助けられる」

直人はそんな正人とは裏腹にとても軽い足取りだった。

門から玄関まではわずか五メートルほど。

庭を横切ってセメントで作られた道をたどると、晴れて鈴木家にたどるつけるのだ。

彼らはいつも通りにそこを歩いて玄関に向かっている。

「せめて麦茶をください」

「おう、なんでももてなしてやるからプリントは持ってけ」

いつもならここを歩く時は他愛もない会話が繰り広げられている。

だが、今日の場合は少し勝手が違った。

「じゃあハーゲンダッツを」

「それは贅沢言い過ぎだ」

直人は依然歩き続ける。

帰宅という過程の途中なのだから当然だろう。

「な、直人」

「ん、どうした正人、雪見だいふくについてる食べるためのプラスチックのあれくらいならアイスくれてやってもいいぞ」

「あれって食べれたんですか!?」

正人の声に直人が振り向いた時だった。


直人はその時訳がわからなかっただろう。

きっと今の麦茶のくだりあたりから正人が喋ってないのに気づかないあたり、相当冷房が恋しかったのだろう。

直人と会話していたのは正人ではなかった。

直人と正人はいつも通り、昔からずっとやっているように帰宅というアクションを起こしていたはずだった。

しかし、今日の場合は帰宅の前に来客、正確に言うと敷地内に侵入しているそれを発見するというアクションが追加されていたのだ。

正人はそれにいち早く気づき、動きを止めていたのだ。

じゃあ自分は一体誰と話していたのか。

五秒くらいたって気づく。


「お前誰だ!?」


自分がその知らない人と会話していたことを悟った直人は直後にこう叫んだ。

彼の視線の先には見慣れているはずの自宅の庭。に、うつ伏せで顔をうずくめている一人の少女が倒れていた。

その金髪のセミロングに、メイド服のようなフリルが何重にもなった青色のドレスを身に纏う少女からは熱気がむんむん立っていた。

下半身には群青色のニーソックスに、靴はヒールの低いパンプス。

しかし、そのパンプスは明らかに小学生中学年くらいの少女が適正くらいのサイズ感だった。

というか、その倒れている少女が、そのサイズ感だった。

そして極め付けは、そのドレスのスカートが捲れていたのだ。


「・・・・・・・・・」

二人の男子高校生は、口を開けたまま呆然とその綿100パーセントでできてるであろうそれを見つめていた。

少女からは依然むんむんと熱気が立っている。

よく見ると、すごい汗なのか、髪の毛が水分を含んで絡み合っていた。

そして、直人は状況を理解する。

そしてその瞬間。

静寂は、破られた。


「せめて麦茶を私に!!!!」

「くまさん!!!!!!!!」


二人が叫ぶのはほぼ同時だった。

へっぽこだが、物語は幕をあける。

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