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異世界のお姫様に丸投げされました

 バスターミナルのベンチでスマホをもう一度見たときは、不純異性交遊がテヒブに発見されたかと思った。

 ……ざまみろ、ネトゲ廃人ごときが。

 そう思ったが、テヒブの手斧を見たときはぞっとした。確かに、娘を持つ父親の反応としてはあり得なくもない。江戸時代の昔なんかは、見つかった間男は殺されても仕方がなかったという。

 大雪の降った日曜日、家の前の雪かきをしていた沙羅は、会いに来た俺に「上がっていかない?」とも言わなかった。お愛想の一つぐらい、と思ったが、本気だと取られたらまずいと心配したのかもしれない。

 俺はそこまでバカじゃないが。 

 だが、テヒブが手斧で襲い掛かった相手に気付いた時、俺は別の意味で恐怖を感じた。

 ……手が出せない!

 このヴォクス男爵とかいう吸血鬼を撃退した時は、モブが使えた。だが、今は誰も動かせない。黙って見ているしかないのだ。ここでシャント…山藤がドジを踏んだり、こいつの心が折れたりしたら万事休すだ。吸血鬼に勝てるわけがない。

 殺されてゲームオーバーとなれば、ネトゲ廃人の山藤耕哉君は転生のやり直しだ。ひょっとすると、その繰り返しで現実世界に戻るチャンスを永久に失うかもしれない。

 ……こいつの転生に、俺は延々と付き合わされるのか?

 その徒労を考えると、目の前が真っ暗になったのだ。

 俺は一旦、画面を閉じた。この場はテヒブに任せておけば、しばらくは何とかなる。その隙に俺は画面を閉じて、沙羅にメッセージを送った。

〔見てるか、今えらいことになっとるぞ〕

 返事はすぐに来た。

〔そういうノゾキはどうかと思うなあ このアプリで〕

 だから見てなかったということらしい。

 ……お前だって。

 何を想像していたものか分かったもんじゃない。 

〔ヴォクスが出た〕

〔誰だっけ?〕

 確か、テヒブは最初にシャントと会ったとき、ヴォクス男爵の撃退を褒め上げていた。あの大雪が降った日曜の朝、俺を叩き起こした沙羅も見ていたはずだ。

〔吸血鬼だよ〕

〔ああ いたねそういうの〕

 まるで他人事だ。

 ……もとはと言えばお前が始めたことだろ、何もかも!

 さすがにイラっと来たが、喧嘩吹っ掛けても仕方がない。

〔テヒブんとこでなんか仕掛けたか〕

 聞いてはみたが、望みは薄かった。

 人の出入りが多い村長の所なら、いくらでもできる。だが、昼間の立ち回りではほとんど不可能だ。〔そういうこと聞きっこなし〕

 お姫様から一蹴された。これは勝負なんだから当然といえば当然だ。あれでニンニクだの十字架だの仕込めるとしたら、大した手品師だ。「ない」と遠回しに告げられたと考えていい。

 俺は無駄と知りつつも、次のメッセージを送った。

〔死ぬぞ山藤〕

 仮にそうなったとしても、沙羅には痛くもかゆくもない。現実世界に戻さなくていい口実ができるだけのことだ。

 沙羅からは、冷ややかなツッコミが返ってきた。

〔シャント・コウでしょ〕

 次に転生しても、たぶん山藤はそう名乗るだろう。沙羅も困らなければ、山藤も傷つきはしない。ひとりで悩んでいるのがバカみたいだ。 

 俺は最後のメッセージを送った。

〔もういい〕

 全ては、テヒブにかかっている。

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