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スマホの中が転生先

 何のことか分からずに唖然としていると、教室に同級生が1人、また1人とやってきた。いつものように、よお、と挨拶しても返事がない。ちょっとムカついて、正面から目を見て文句を言ってやった。

「お前さ、朝から人無視してそういう態度ないんじゃない?」

「ムダよ」 

 沙羅は自分のスマホを僕に突き出して画面を見せた。

「あ、それ、校則違反なんだけど……」

「見つかったら罰は受けるわ」

 明らかなルール違反を堂々とやってのける沙羅だったが、後からやって来た連中は、その横着さに見向きもしない。前日、美少女のアプローチに鼻の下を伸ばしていた男子生徒ですら、知らん顔だ。

「これ、いったい……」

「ペナルティは受けるものじゃなくて、支払うものなの」

 クラスの生徒は誰ひとり、沙羅独特のポリシーに耳を傾けはしない。黙々と席に座って、背筋を伸ばしたまま朝礼を待っていた。

「いや、明らかにおかしいだろ」

「悪いことはするけど、ずるいことはしない。それだけのことよ」

 そういうことを聞いているんじゃない。

 俺はぞろぞろやってきては静かに着席する同級生を指さしながら、いささか興奮気味に説明した。

「なんかいつもと違うだろ?」

「私、昨日転校してきたから分からない」

 それは道理だが、俺からするとそういう問題ではなかった。

 ひとりひとりの机をばんばん叩いてそれぞれの顔を見ながら、声を荒らげて沙羅に尋ねる。

「昨日と違うだろ雰囲気が、全然!」

「ああ、そういうことね」

 しなやかな指を口に当ててクスクス笑い出した転校生は、スマホを机の上に置いて指さした。

「だからここ見て」

 どうも話がつながらない。長い髪を幾重にも編んだ几帳面そうなこの少女は、じつは相当の天然娘なんだろうか?

 俺は首を傾げながらスマホに近寄って、画面を眺めた。

「あ……」

 昨夜見たのと同じくらい精巧なアバターが、その中をうろついていた。

 なんだかファンタジーRPGに出てくるような鎧をまとっているが、俺がちらと振り向いた先で微動だにせず座っている男子生徒に生き写しだ。

 口を開けばウィンドウが開いて、音声と共にメッセージが表示される。それも、いつものこいつの声や言葉遣いと全く同じだ。

「そういうこと」

 沙羅は口角を挑戦的に上げて、俺を見つめた。

「大した精神力だわ、1人だけ引っかからなかったなんて」

「どういうことだよ」

 この状況下では誰も聞いてないだろうと思ったが、それでも声は自然と低くなった。沙羅も低い声で答える。

「みんなの心が、ここにあるだけ」

 そう言って指さしたのは、スマホの画面に映ったリアルなCG画像の街だった。

「心……?」

 画面を撫でる指は、雪のように白かった。それに思わず見とれているうちに画像は何度かスライドして、次から次へと同級生のコスプレ姿が表れては消える。

「これがみんなの心。望み通り、ここに連れてきてあげたのよ」

「ここ、どこだよ……」

 青い空の下、土埃の舞う道の上で馬車に揺られるとんがり帽子の魔法使い……だろう、たぶん。

 その田園風景を懐かしそうに見つめながら、沙羅はいささか自嘲気味に答えた。「言ったでしょ、私はここから来たって」

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