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守護天使の気の迷いと転生メンバーのステータス

 別に俺は、画面上の男を使ってリューナに狼藉を働こうとしたわけではない。見損なってもらっては困る。全ては、倒れたまま動こうともしないシャント…山藤に発破をかけるためだ。

 効果は絶大だった。

 リューナに迫る危機を見たシャント…山藤は過剰なまでに怒り狂って立ち上がり、グェイブを手に大暴れを始めていた。

 それだけではない。武器を手にして丘へと向かっていた村の男たちが、すごすごと壁の裂け目から村の中へと戻り始めたのだ。

 俺は嫌味たっぷりにメッセージを送った。

〔何か質問は?〕

 もちろん、悪意はない。沙羅がテヒブとシャント…山藤の闘いを見て傷ついているのは察しが付く。その新しい傷口に塩を擦り込む気はない。

〔特にありませんわ、戦略的には勝ってますので〕

 嫌味には嫌味で返すのがこの女の流儀らしい。顔の割に全然かわいくない。こっちは気を遣ってやってんのに。

 そんなら、遠慮はいらない。俺も言いたいことを返してやった。

〔負け惜しみを〕

〔強がりはこれ見てからご覧くださいませ〕

 メッセージを伏せて、ひょいと画面を覗いてみた俺は完全にやる気をなくした。そこには、いわゆるリア充モード全開の山藤がいたのである。

 互いの身体がきしむくらい、というのはこういうのを言うのだろうか。

 リューナが、シャント(敢えて山藤とは呼ばない)にすがりついている。その背中には、指が食い込んでいた。スマホ越しにも、むせび泣くのがはっきり聞こえる。

 沙羅は勝ち誇って、次のメッセージを送ってよこす。

〔いい感じねえ〕

〔うるさい〕

 俺はもう、こんな返事しかできないくらい打ちひしがれていた。

 まず、山藤ごときがこんな美少女にここまで愛されているのは面白くない。もとをただせば、たかがネトゲ廃人である。それを、異世界生活に溺れないように七難八苦を与えている「守護天使」が俺だ。

〔爆発しろとか思ってるんでしょ、この非リア充〕

 罵詈雑言の限りに、俺は言い返す気力もなかった。

 何とかして現実世界に連れ戻そうとしているのに、結局、この異世界でいい思いをさせてしまったわけである。一方で、こいつをここにに居座らせようとしている沙羅にとってはまさに願ったり叶ったりというところだろう。

 ……この女の掌の上で踊らされただけだったとは。

 そう思うと、全身の力がどっと抜けるのを感じないではいられなかった。

 だが、よく見るとリューナはの様子がどうもおかしい。しがみつくというよりは、掴みかかっているというのが正解だ。

〔ちょっと! どうしたっていうの?〕

 沙羅は俺に尋ねてくるが、聞きたいのはこっちのほうだ。シャントはあれこれとなだめているようだったが、そこは山藤(こいつの名前を出すべきはこういうときだ)、そんな器用な真似ができるはずはない。

 やがて、ぱあん、と高らかな破裂音が鳴り響いた。

〔ねえ、それちょっとまずくない!〕

 あわてふためく沙羅のメッセージに、俺は冷ややかに応じた。

〔まずいよな〕

 形勢逆転だ。これで山藤は、ふられる。これで、異世界には用がなくなるはずだ。あとは、リューナに嫌われながらも吸血鬼ヴォクス男爵を倒して、現実世界に帰ってくるしかない。

 山藤は、おずおずと詫びの言葉を口にする。

《……ごめん》

 日本語が通じるわけなどないのに、今度は手を差し伸べた。

《行こうよ》

 そこで沙羅が茶々を入れる。

〔あ、いい雰囲気〕

 なんの努力もしないでそうはさせるか、と思ったが、よく考えたら何もしていないわけではない。ここで文句をつけるのは気が引けた。

 黙って見ているしかなかったが、そこで1つ気付いたことがあった。

 これだけ泣き叫んでいるのに、リューナが一言もしゃべらないのだ。テヒブの豹変に深く傷ついているからだろうが、その割には、今まで頼ってきた男の名前も、今頼るしかないシャントの名前も口にしない。

 ……また、口が利けなくなった?

 以前、シャント(山藤とは認めない)と交流でやっと蘇った言葉が、吸血鬼ヴォクス男爵の恐怖で再び失われた経緯もある。充分に考えられることだった。

 そう思うと何だか気持ちが沈んで、沙羅の軽口にツッコむ気も失せる。だが、ありがたいことに、そこで思いがけない邪魔が入った。

 シャント…山藤を「グェイブ」と呼ぶ可愛らしい声がしたのだ。

《ダメダメダメ!》

 山藤は首を横にブンブン振る。何のことか分からなかった。

 ただ、この仕草は現実世界とは逆に肯定のサインだ。ちょっと画面の視界を広げてみると、上半身が裸の男の子が、女の子の頭から服を着せている。

 ……子ども同士のじゃれ合いを止めようとでもしたんだろうか?

 それなら別に何の問題もない。むしろ、俺の気に障ったのは次に起こった出来事だ。

 その女の子は、いきなりシャント(やっぱり山藤とは認めたくない)にしがみついたのだ。

 沙羅が勝ち誇ってメッセージをよこす。

〔はい、ハーレム!〕

 山藤ごときにここまでいい思いをされると、何も言うまいと思ってもムカッとくる。

《行こう、か》

 たどたどしい異世界の言葉に、リューナも女の子も首を横に振って応じる。小さな子も真似をした。

 リューナの手を引いて歩きだしたシャント(意地でも山藤とは認めない)を女の子が小さな子を連れてついてくる。さらに男の子たちがそれを追う様子は、映画の1シーンのようだった。

 俺としては邪魔をしなくてはならないところだが、どうにも気が咎めた。そんな俺の気持ちを、沙羅は逆撫でしてくる。

〔結構、ヒーローしてるね〕

 うるさいと思いながらも、同じことを感じていた俺は、ただ見守るしかなかった。

《じゃあね、グェイブ》

 あんな死屍累々たる修羅場の跡を目の当たりにしたにも関わらず、子供たちは元気な声で去っていく。

 ……逞しいのか、それとも恐怖とはそもそも縁遠いものなのか。

 子を持つにはまだ早く、童心に帰るには遅すぎる高校2年生の俺には見当もつかない。

 シャントはというと、闇の中に消えていく小さな姿を見送っている。

《じゃあね》

 子どもたちの挨拶をオウム返しにしたが、リューナは黙ったままだった。シャントは、その手を引いて闇の中を歩きだす。それは、悲しみに沈む少女をいたわるヒーロー像そのものだった。文句をつけるとすれば、それはあまりにベタ過ぎるということぐらいしかない。

〔こういう仲を裂くのもどうかと思うんだけど〕

 山藤を現実に戻せるかどうかの勝負を吹っ掛けてきた張本人が、俺に投了を迫ってきた。

 確かにこれは、邪魔をしたら馬に蹴られて死んでしまうというアレだ。気の迷いというヤツだろう、俺は不覚にも聞いてしまった。

〔ここで降りたらどうなるんだ?〕

 返答はすぐに来た。

〔山藤君は私の世界を支える、住人の一人になる〕

 それは最初から分かっていることだ。知りたいのは、他のことだ。

〔その先は?〕

〔このゲームやめるんならいいけど〕

 クラス全員が残らず異世界に転生して、木偶デク人形の集団と化してしまった俺の周りを、元に戻すのがもともとの目的だ。

〔そんなことは言ってない〕

 さすがにムキになってメッセージを返すと、あっさりと切り返された。

〔じゃあ、他の誰かでリベンジするのね〕

 そういえば山藤にかかりっきりだったので忘れていたが、ゲームを開始したときは、誰のフォローをするか選んだのだった。

 試しに、転生した他の連中のステータスを見てみた。

 

 たとえば、頑丈だけが取り柄の不破久作ふわきゅうさく

 PLAYER(プレイヤー) CHARACTER(キャラクター)…グレイバス・アンミルトン

 STATUS(ステータス)

 Race(種族)…人間

 Hit Point(生命力)…30

 |Mental Power《精神力》…17

 Phisycal(身体)… 11

 Smart(賢さ)…12

 Tough(頑丈さ)…18

 Nimble(身軽さ)…12

 Attractive(格好よさ)…10

 Patient(辛抱強さ)…15

 Class(階級)Gurdian(守護者)

 

 孤高の優等生、永井百合ながいゆり

 PLAYER(プレイヤー) CHARACTER(キャラクター)…ユーリイ・ベルアーラ

 STATUS(ステータス)

 Race(種族)…エルフ

 Hit Point(生命力)…15

 |Mental Power《精神力》…28

 Phisycal(身体)… 12

 Smart(賢さ)…18

 Tough(頑丈さ)…9

 Nimble(身軽さ)…17

 Attractive(格好よさ)…22

 Patient(辛抱強さ)…9

 Class(階級)Seeker(探索者)


 あと36人いる。面倒臭いのであとはさっと流したが、能力値やClass(階級)を見る限り、とりあえず全員無事なようだ。異世界にもそこそこ適応しているらしい。その意味では、いちばん使えない山藤のフォローに回ったのは正解だったようだ。

 だが、そのシャント・コウこと山藤耕哉も、今はリューナという異世界の美少女といい雰囲気だ。放っておいたって、彼女を守ってヴォクス男爵と戦うことだろう。

 ここで現実世界に戻るよう仕向けるとなれば、リューナと仲違いさせるくらいしかない。

 ……やっぱり俺、悪役?

 自分の役回りがほとほと嫌になった。さっきとは別の意味でゲームを降りたくなる。

 その時だった。

《リューナ! 待って、リューナ!》

 夜道を走りながら、シャント…山藤がたどたどしい口調で、さっきまで手をつないでいたはずの異世界カノジョを呼び止めていた。

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