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SLG戦術モードに入ったネトゲ廃人、エロゲ的展開を回避する

 さっき川に落ちるところだった、いちばん大きな男の子は村外れの壁に着くと、僕を大きな木の下へと招き寄せた。木の周りは草ぼうぼうで、隠れるにはちょうどよかった。

 他の子どもたちも僕の周りにしゃがんだけど、困ったことが一つあった。

 夏場だから、やたらと蚊が多いのだ。今日はやたらと虫に縁がある。

 ……昼は虻で、夜は蚊なんて。

 そう思いながらも、飛んでくる蚊を叩くこともできなかった。

 遠くに見える松明の下では、村の人たちが、男も女も縛られて座り込んでいたからだ。その松明は、鉄兜スティール・キャップをかぶった兵士たちが持って歩いている。

 この子たちが僕に助けを求めに来たわけも、それで分かったわけだけど、だったらよけいに見つかるわけにはいかなかった。

 蚊なんかいちいち叩いていたら、隠れているのがすぐにバレてしまう。手で追っても手で追っても耳元でクゥーンクゥーンいうのを我慢しながら、僕は様子を見ているしかなかった。

 でも、大きな男の子は、兵士がいても蚊が唸っても気にもしてないみたいだった。

「グェイブ……」

 僕は慌てて口をふさいだ。モガモガいうのを、他の子が地面へ押しつける。一番小さい子が泣きだすかもしれないと思ったけど、それはなかった。

 でも、気づかれたみたいだった。兵士が1人、こっちへやって来る。

 僕は子どもたちに、小さな声で言った。

「伏せろ」

 意外と、通じた。

 みんな地面に伏せたけど、気になったのはグェイブの光だった。慌てて、身体の下に隠した。

 やってきた兵士は、こっちを見ている。あっちこっち探しているみたいだった。その後から、また1人来る。

 おまけに、女の子に抱えられた小さい子が、ムームー言ってもがき始めた。

 ……見つかっちゃう!

 僕は身体の下にある、グェイブを手に取った。怖くて仕方がなかったからだ。今度こそ、戦わなくちゃいけない。コウモリを偶然斬れたのとは違う。ゴブリンは、この子たちの見間違いだった。でも、あの兵士に見つかったら、本当に殺し合いになる。

 でも、僕たちは見つからなかった。他の兵士がやってきて、松明を持った兵士を呼び戻したからだ。

 ……助かった。

 戦わなくて済んだし、この子たちも無事だった。腹這いになったまま、ほっと一息ついたけど、やることは何にも片付いていなかった。

 村の人たちは、まだ縛られている。それを見た大きい男の子が、何か喚いて草むらから飛び出しかかった。

「……!」

 テメエとかコノヤロウとか、たぶんそんな意味なんだろう。僕は立ち上がったし、他の子どもたちもみんな、止めにかかった。黙って見てるのは、いちばん小さい子だけだ。

「……!」

 怒ってるみたいな、泣いてるみたいな、ものすごい顔で男の子は呻いた。

「……!」

 女の子が、半泣きで止めていた。男の子をすごく心配してるのは、よく分かった。その泣き顔は僕もグッとくるくらい、かわいかったのだ。

 ネトゲやギャルゲのロリ系美少女みたいな。

 ……そんな場合じゃない!

 子どもたちの顔を見てみたけど、僕の頭の中に一瞬だけ浮かんだNGビジョンには、誰も気づいてないようだった。

 気を取り直して、力ずくで男の子を座らせる。今の日本でいったら小学4年生くらいだから、僕でもどうにかなったのだ。

 でも、ここから先、どうすればいいのかさっぱり分からない。

 見た感じ、リューナはここにはいないみたいだった。すると、この兵士たちに連れて行かれたのかもしれない。よく見ると、僕が運ばされた大木を使った高い石垣が崩されて、そこから光が漏れている。壁の向こうには、たぶん、兵士たちの集まる場所があるんだろう。

 ……でも、何でリューナが?

 そのとき、僕が一瞬だけ想像したのは、こっそり18歳だということにして覗いてみたヤバいギャルゲというかエロゲの世界だった。

 ……もしかすると、大勢の兵士たちが、あんなふうに?

 あの雨の中で何があったかが、頭の中に蘇った。

 濡れた服がべっとりまとわりついた身体とか、胸や腰の線とか、男たちから逃げるリューナとか、引き裂かれた服から見えた肌とか。

 ……どうしよう!

 助けるしかなかった。でも、僕はグェイブを抱えたまま、うずくまっていた。兵士を倒せるかどうか分からなかったし、それ以前に、自分が殺されるかもしれなかった。

 ……違うんだよね、ネトゲで無双するのとは。

 この異世界に来たとき、そういうのと同じことができると思ってた。そんな自分が恥ずかしかったし、信じられなくもあった。

 その時だった。

 両膝ついてガックリ座っていた男の子が、僕を見つめて言ったのだ。

「……、グェイブ」

 言葉は分からないけど、その目に光る涙で、伝えたいことはなんとなく見当がついた。僕が大きく頷くと、男の子は腕で目を拭いて頷き返した。

 本当のことを言うと、リューナさえ助けられればいいと思っていた。

 村の連中はどいつもこいつも、リューナに手枷足枷をはめて馬小屋に押し込め、暑い部屋に閉じ込め、昼は畑仕事に駆り出した。それどころか、兵士どもにまで差し出したのだ。同情の余地はない。

 でも、そんなことも言ってられなくなった。僕の目の前では、ひとりの男の子が、いや、女の子も、それだけじゃない、みんな泣いている。いちばん小さな子も、他の子が泣いているから泣いている。

 僕はグェイブを掴んで立ち上がった。

 ……助けるんだ! みんな助けるんだ!

 でも、誰を先に助けるかっていったら、やっぱりリューナが先だっていう気がした。この子たちを泣かせたくないから、みんな助けたいけど、その代わりにリューナが助からないんじゃ意味がない。

 とりあえず、子どもたちには日本語で言っておいた。

「ここから動くな」

 分からなくても、たぶん言ってることは分かる。いちばん小さい子の他は、みんなうんうんと頷いていた。

 ……さて、と。

 僕は兵士たちを眺めた。

 松明を持ってるのと、ハルバード(斧鉾)を持ってるのがいる。どっちも防具は鉄帽子スティール・キャップ背甲・胸甲バック・アンド・ブレストだけだ。

 ……こいつら、何だ?

 ネットでファンタジー系SLGやってると、こんな感じの武装が出てくる。みんな同じ格好をしているから、たぶん統制された軍隊か何かだ。この国の正規軍かもしれない。

 分かんないのは、そんなのが何でここまで来たのかってことだ。リューナが捕まっているんなら、その理由を分からない。

 ……とにかく、壁の向こうに行ってみよう。

 壁が崩れたところから、中に入ればいいのだ。でも、それまでの間に見つかったら困る。いちばん目立つのは、グェイブの光だ。何とかして、隠さないといけない。

 ……どうしよう?

 真っ先に思いついたのは、上着を脱いで刃を隠すことだ。僕が裾に手をかけると、下から引っ張る者がある。見れば、さっき小さい子をなだめていた女の子だ。

「急ぐんだよ」

 そう言って、ちょっと強引に服を脱ごうとすると、女の子はさっさと自分の上着を脱いでしまった。

 男の子たちは息を呑む。僕も焦った。

 ……ちょっと?

 それは18禁エロゲの世界だ。グェイブの淡い光に照らされた薄い胸から、僕は思わず目を背けた。

 ……ダメダメダメ、捕まっちゃう!

 それは現実世界の話なんだけど、ネットゲーマーとして、現実にやっちゃいけないことくらいは分かってるつもりだった。

 女の子は、また僕の服を引っ張った。薄眼を開けてちらっと見下ろすと、片手で胸を隠して自分の服を差し出している。

 すると、我に返ったいちばん大きい子が自分のを脱いで、僕に突き出した。子どもたちは次々と、服を脱ぎ始める。いちばん小さい子も真似をしたが、それは女の子が「ダメ」と首を振って止めた。

 そこでやっと、子どもたちの言いたいことが僕にも分かった。

 ……これでグェイブを隠せっていうのか?

 いちばん大きい子の服を取って、グェイブの刃に巻き付けた。男の子は頷いたが、全然足りなかった。男の子のから受け取って、次々に光を覆い隠していく。

 胸を隠した女の子がくしゃみをしたときには、グェイブの光は完全に隠れていた。

 僕が立ち去ろうとすると、女の子は脱いだままの服を僕に差し出した。さすがに正面から見られなくて、そっぽを向いたまま首を振る。女の子はちょっと拗ねていたようだったけど、すぐにもぞもぞと服を着直した。 

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