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何もない日常。

ハプニング・シンドローム

作者: Hino

注))一般受けしないネタです。懐の深い方だけお読みください。

僕の周りに味方はいないし、この世の中のどこを探しても、きっと僕を肯定してくれる人はいないだろう。


そんなふうに、放課後の学校の屋上で考えていた。



ねえ、あなたは一人なの?



【ハプニング・シンドローム】



え……っと、君は?


私のことなんてどうでもいいじゃない、 あなたは何て言うの?


僕は……



返す言葉に詰まった。



僕、僕を指す名前……そんなの、あるのか。

正確に言えばあるんだろうけれど 果たして本当に僕の名前なのだろうか。

家族兄弟、先生に友達、誰一人として呼ばないそんなものに価値はあるのだろうか。

中学生Aとかそこらへんが正しい僕の名前なのではなかろうか?



僕はやっぱり、返す言葉に詰まった。



僕の隣にいきなり現れた女の子は、呆れたように笑った。


あら、あなた贅沢なのね、そんな立派な名前があるのに


クスクスと彼女は笑った。



贅沢なものか、何が、贅沢なものか


僕は口の中で繰り返し呟いた。


気が削がれた、まさしくそういったような状況で僕は屋上から去った。


彼女はどこかつまらなそうな表情をしていた。



ーーーーーー


この向こうにはどんな景色があるのだろう。


そんなふうに、夕陽に染まる踏切の前で立ち止まっていた。


ゴーっと音を立て、目の前を過ぎていく電車はバイト上がりの僕の思考を奪っていった。



あれ、あなたはまた一人?


いつか屋上で会った彼女が、踏切の向こうに立っていた。



また君?


またなんて随分な言いぐさね



屋上で会ったあの一度の邂逅から数年経っている。


そんな彼女をすんなりと思い出せたこと、彼女もそんな僕を覚えていたこと、不思議なことに何も思わなかった。


なんというか、彼女は、いつもそこにいた気がするのだ。



ねぇ、君は何て言うの?


ふふっ、教えないわ、ほんとはどうでもいいのでしょう?


あれ、わかる?


わかるわ



今度は彼女から去っていった。


踏切は騒がしく遮断機を上げていた。



ーーーーーー


朦朧とした意識のなか、白い建物のなかに十九の僕がいた。


個室の窓から、廊下を映す窓から、大きなその窓から、少女が泣きながら謝っていた。


おにいちゃんおいていかないでおにいちゃん


涙や鼻を啜る音、窓にすがりつくその姿は、それでもやはり美しく可愛い僕の妹だった。


やがて院内放送が流れると知らない大人と幼い妹は帰っていった。


どことなく安心した顔で。



近くの木の影を落としている、小さな窓を見ると、いつか見た女の子がいた。



あなたは、もう一人じゃないのね?



一人、うん、僕は、お兄ちゃんだから、一人じゃないな


ほんとうに?


ほんとうさ……なんて、ほんとうは少し分からない


あなたは一人じゃないわ



彼女は悲しそうに言った。



夜、容態が悪化し、それから数日の間、僕は何度も峠を繰り返した。


傍らから聞こえてくる妹の嗚咽が止めばいいのにと何度も思った。



ーーーーーー


妹は立派に育ち、一人の男性と結ばれていった。


寂しさを感じつつ、どこか誇らしい気持ちになった。



ーーーーーー


いつの日からか、彼女は僕の隣にずっといた。



ねぇ、あなたは一人?


何を言うんだ、いつも側に居るくせに


それも、そうね



なんとなく、僕は彼女を好きにはなれなかったけれど。


それでも彼女へは、嫌悪感はひとつもなかった。




…ごめんなさい




彼女は謝る。




別にいいさ




何も聞かず僕は笑って許せる。


なんとなく謝る理由も分かっていた。


だから、多分、もういいのだ


そう思えた。



私は、あなたを


うん、ありがとう、これからよろしくね


でも、


わかってる、これでいいさ


…ごめんなさい


君になら良いと思ったんだ、だからいいのさ


何か、その、


そうだね、君の名前が知りたい、かな?


…私は へぇ、良い名前だね


……ありがとう、聞かないのね


どうでもいいって言っただろう?それにしても、待たせたよね?


えぇ、まぁ、少しだけね


少し?ほんとうに?


……まぁ、半世紀以上だから、多少は長かったかしら


それは悪いことをしたね


いいわ、楽しかったから


あれ?じゃあ楽しみを奪ってしまうことになるかな?


ふふっ、ほんとうね


さて、そろそろ、かな?


そうね……おやすみなさい


うん、おやすみ



何か一つでも証を残せたなら


きっと僕は満足だったのだろう。


そんな僕を待っていてくれた彼女に



最後に感謝をした。

閲覧ありがとうございました。

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