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見ツケタ

 何故、ザッハトルテが私の父と母、そして親族をターゲットに選んだのかは未だに分かっていない。父が警察のお偉いさんだったことが原因なのか、或いは全くのランダムだったのか。あのふざけた性格からは、計画的だったのか快楽的だったのか、全く想像がつかない。厄介な相手だ。

 ただ、後からクイナに聞いた話では、同時期にザッハトルテと名乗る人物が現れて、同じような事件を起こしていたらしい。全ての事件に共通しているのは、「子供に謎の問題を出す」こと。そして「子供以外の親族を皆殺しにしている」こと、だそうだ。恐らくは、その事件で生存した子供たちにも、私の元に来たのと同様の手紙が届けられているのだろう。

 だとすれば、ザッハトルテの狙いは十中八九、高校を卒業したと同時に開かれる「パーティー」とやらだ。子供たちを集めて何をするのか、何故そこに私が選ばれたのか、真偽は定かではない。ただ、間違いなく言えることは、パーティーに行かなければザッハトルテに相見あいまみえる事はできないし、そのパーティーに参加するためにはパートナーを見つけなければならないということだ。


「そんなことは、何年も前から分かっているのよ……」


 廊下の窓から外を眺め、ひとりごちる。天気の良い昼休み。中庭のベンチの腰掛け、楽しそうに歓談しながら昼ご飯を食べる生徒の姿を見下ろしながら、私は考えた。

 男女問わず、既に同学年の生徒の評価はほとんど済んでいる。学校というのは特殊な空間だ。多種多様な性格を持つ多感な時期の男女が、狭い空間にぎゅうぎゅうに押し込められている。それ故に人と人との距離は近く、何気ない日常会話の中や、学校行事を通じて、その人の「資質」は自ずと明らかになる。

 私の学年にはふさわしい人がいなかった。

 それが私の出した結論だ。 


 ならばすぐにでも、下の学年の資質を図りにいかなければ。同じ学年の生徒と違い、後輩と接する機会はそう多くない。残り一年というリミットを考えれば、のんびりしている時間はないのだ。

 だが


「ちょっと……つかれちゃったのかな」


 高校に入って三年目。入学してからこれまで、ずっと人の資質を図る生活を送ってきた。当然友達などいない。表面上は良い人を取り繕っているから、しゃべりかけられることも、遊びに誘われることも数多くあった。しかしそれは私にとっては、相手のパラメータを図るための単なるイベントに過ぎなかった。


 このままパートナーが見つからなかったら。


 最近、そんな考えが蜘蛛の糸のようにすべての思考に絡みついてくる。あの夢をみる頻度も高くなった。

 私の生きる意味は「復讐」にある。けれど、その入り口にすら立てなかったとすれば、私の人生は一体――――


 だめだ。ネガティブな思考は何一ついい結果をもたらさない。

 熟考することは大事だ。だけど、考えすぎた挙句の果てに悪い未来を想像することなど、決してあってはならないのだ。

 とにかく動こう。まずはクイナにお願いして後輩の簡単な情報一覧を取り寄せて……そこまで考えた時、ふと隣に気配を感じた。


「あの、大丈夫……ですか?」


 声のした方に体を向けると、かわいらしい女の子が一人、さえない男が一人、立っていた。二人とも二年生であることは、ネクタイの色を見れば分かった。

 

「すごく辛そう……保健室とか行かなくて大丈夫ですか?」


 考えこみ過ぎてひどい顔をしていたのだろうか。心配してくれる女の子に笑顔を向け、私は大丈夫、と言おうとした。


「いえ……実は最近迷惑メールがたくさん届くようになってしまって……。メールアドレスを変えたのに、今日なんてもう八時間で二十六通もメールが来て……。この一時間で今度はどれくらい来るのかと思うと憂鬱でしょうがなかったんです」


 すんでのところで言葉を変える。いい機会じゃないか。まずは手始めに、この子達を試してみよう。私のパートナーにふさわしいかどうか。


「どう思いますか? えーっと……」

「あ、春日井美羽です」

「九条翔桜です。なぁ美羽。お前の友達で迷惑メールそんなに受け取ってるやついた?」

「うーん、一、二通ならよく聞くけどさすがにこの数は異常かなぁ」


 くじょう……?

 どこかで聞いたこと名ある名前だ。後輩の名前など、関わりのある一部の人間しか覚えていないはずだ。ましてやこんな冴えない、凡人という字に足が生えたような男の名前なんて通常なら覚える気もないだろう。ということは生徒会時代の後輩か、もしくは――――


「あぁ、文芸部の九条君ですか」

「え、あ、はい、そうです。まぁあんまり顔は出していませんけど」

「ふふ、そうですね。九条君はさぼり癖がひどいって、部活内でも評判ですから」

「あはは……すみません」


 私、と一応この九条翔桜は同じ文芸部に所属している。文芸部と言っても、小説を書いたりするお堅い部活ではなく、読んだ本の感想を言い合ったりする非常に緩い部活だ。唯一、週に一回集まりがあり、そこで各々一週間の活動報告をするのだが、その週一の集まりでさえ九条翔桜はさぼりがちだった。さぼるのにも、特段理由はないらしく、彼の友人によると「ただ面倒くさいから」来ないらしい。何の目標も立てず、ただ毎日をのうのうと生きているだけの、死人のような男だ。


「それで、今の話どう思いました? 春日井美羽さん」


 そんな男が、私のパートナーにふさわしいわけがない。早々に見切りをつけ、春日井美羽に問いかける。こちらの方は、少し期待できそうだ。横の生ごみとは目の綺麗さが違う。総じて目が綺麗な人間は、理知的で賢いというのが、私の持論だった。


「そうですね……霧沢先輩は、携帯でインターネットとかされますか?」

「インターネット? いいえ、私は電話かメールしかしませんよ」

「そうですか。じゃぁ、今連絡先には何件登録がありますか?」


 へぇ、と思わず笑みをこぼしそうになるのをこらえて、何故そんなことを聞くの? と不思議がっている顔を作って、答える。


「だ、大体、九十くらいですけど……あの、なんでそんなことを?」

「たぶん、霧沢先輩メアドが、その中の誰かに売られているからです。さっきの言い方だと、メアドを変えてそんなに日にちが立っていませんよね? なのに迷惑メールの数が減らないなんて、発生と送信が早すぎます」


 悪くない。今までこの質問をした中では上位に入る反応だ。

 大体の人間は「えー、大変。携帯会社か警察に連絡したら?」とか、「八時間に二十六通だから、後一時間で届くのは三通くらいじゃん?」とか、脳みそが豆腐かヘチマでできてるんじゃないかと思うような気の抜けた答えを返してくる。

 迷惑メールは携帯会社に連絡しようが警察に連絡しようが止められるものではない。根源は別のところにある。二十六割る八をして大体三通というのもあまりにも安直だ。統計と確率を勉強しなおしてから出直して来て欲しい。

 そんな中、この事象の本質を解決しようとする春日井美羽の姿勢は、なかなかに素晴らしい。


「そんな……どうしたらいいでしょうか」

「犯人を特定します。霧沢先輩、少しだけお時間をいただけますか?」

「えぇ、よろしくお願いします、春日井美羽さん」


 九十いる容疑者の中から犯人を特定する方法、それ自体は複数考えられるだろう。求められるのは高い実現可能性と、短期の解決。さて、春日井美羽はどういう方法を提案してくるか。

 久々のあたりを引いた感覚に高揚し、この時私は、一人怪訝な顔をする九条翔桜に全く気付いていなかった。 

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