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俺、こと広瀬昌伸は今日もレイチェルと共にのんびりとした一日を過ごしている。神になった当初から、積極的に世界や人をどうこうしようなんて欠片も思ってもいない。俺もレイチェルもどちらかと言えばマイペースだし。例えやったとしても、うっかりミスで甚大な被害を与えることもよくあるから尚更だ。左隣のミグルン大陸を治めるミー助が色々とやらかしていたことをしみじみと思い出す。
被害は大抵大陸を越えることはないのだが、稀に大陸を越えることもあるので厄介だ。この前なんかミグルン大陸にある大国同士の戦争を止めようとして、ミグルン大陸に根付いた文明を根こそぎ断ち切ってしまうような災害を発生させていた。恐らく、生態系もまた新しくなったことだろう。本人、いや、本神か?
とりあえず本神曰く、「匙加減を間違えた」とのこと。失敗する度似たようなことを言っている気がする。いい加減諦めればいいのにと思わないこともないが、ミー助なりに己の被造物を大切にしているのだから何も言うことはないだろう。少なくとも、被害がこっちにまで及ばない限りは。それに俺だって自分達の創ったものたちを大事にしたい気持ちも分かるし、ちょいちょいヘマをやらかしてミー助に迷惑をかけることも多々ある。持ちつ持たれつと言えるだろう。
このミー助と言うのは俺が神になったのと大体同じ時期に神になった神でもある。隣の大陸だったこともあり、何かと行動も共にすることが多い。馬が合い、気の置けない大切な悪友だ。
見た目は人間サイズの三毛猫で、ふさふさな尻尾が三本生えている。以外と二足歩行で歩く姿が綺麗だったりするが、食い方は汚い。獣人と呼ばれる種族の始祖とでも言える存在だ。
ミー助の他にも神はいる。
人間の三倍くらいの大きさがあり、スズメバチのような見た目とオーロラのように色を絶え間なく変える翅が特徴的な蟲族の始祖のクロトさん。彼女は右隣のイジェータ大陸を治めるお隣さんで、レイチェルと仲が良い。俺やミー助には出来ない細やかな気遣いなどが出来、物腰柔らかで、気弱な者でも安心して話せる素敵なお姉さん的存在だ。
対して六本の腕と羊のような捩れた二本の角を持つ魔族の始祖のギャサッバは脳筋野郎だ。こいつに気遣いとかそんな難しいこと出来ない。他神のことなど御構い無しに、常に我が道を行く。俺はマイペースで他神をたまに省みないこともあるが、こいつとは別次元だと声を大にして叫びたい。「ギャサッバ」は歩く大風なのだ。災害に言葉は通じないのだ。
ヘクトールさんはすらりとしたエルフ顔負けな長身に加え、鋼のような硬い褐色の肌と剛力を持つドワーフ族の始祖だ。ヘクトールさんは無骨な見た目で口数も少ないが、ここぞと言う時にとても頼りになる。まさに漢だ。
ミー助に並ぶ悪友のしぃちゃん。特徴的な耳を除けば幼女にしか見えないエルフの始祖である。被造物であるエルフ達は格式を非常に重んじるのに、本人は無自覚で無視していたりする。常に自信満々で、間違える時でさえ強気だ。たまに収集がつかなくなると、さりげなくお隣さんであるヘクトールさんに救出されている。
他にも同期とも言える神々がいるが、同期の中では俺たちが目立つためか、「大陸六大神」と呼ばれていたりする。よくこのメンバーでつるんでいたことも理由の一つかもしれない。
元々同期の初代の神が多くないことに加え、レイチェルのように引っ込み事案だったり、目立たない神は後世にカウントされなかったと言うことも重なったこともあり、このようにまとめられたのだろう。
更に一種族に対して主神は一柱みたいな流れがあったため一層そうなってしまった。この世界に大陸が六つしかないのも、それに拍車をかけた要因だろうな。
「大陸が増えたりしたら名称が変わったり、メンバーが変更されるのだろうか」なんてことを思いつつ、この五千年を過ごしたが、予想に反して変化は起こらなかった。
匙加減を間違えた災害で大陸が大きく削れたり、消滅したりしたのだが、時が経つといつの間にか元の形に戻っているのだ。実に不思議だ。
不思議ついでに新たに大陸を作ってみようともしたが、どういう訳か作れない。力技による物作りが得意な六大神メンバーでやってみたこともあるが、上手くいかなかった。精々諸島が出来たり消えたりする程度だった。
不調なのかと思い、治める大陸内で色々試すと滞りなく実行できた。やはり不思議だ。自領以外の大陸に手を加えることも出来なかった。よく分からないが、それがこの世界のルールらしい。幸い、そのことに対して特に文句を言う者は初代の神にいなかったので、そのまま放置されている。
俺達六大神+αはそれぞれが手を加えることが出来る境界までの領域を一応領地と称し、治めている。
治めると言っても、領地に独自の種族や地形や気候などと言ったものを気ままに生み出したりしていることが殆どだ。調整とかあまり気にしたことがない。
領地内で主神とカウントされなかった神達で色々とやっていたので、トラブルがあったり、思わぬ幸運があったりと実に様々なことがあったりする。文化祭ノリみたいな日もあれば、政権バリに対立することもあるので、その時その場にいた神に寄る所が大きい。今でも世代を経て神は増えたり減ったりしながら、領地内で様々なことをしている。
ちなみに、俺とレイチェルは人族と呼ばれる者達の始祖で、アザーシュ大陸を治めている。治めると言っても、創作活動以外は大したことはしていない思う。治めると言う形を取っているのは、互いの領地に対して不可侵である、と言う暗黙の了解を後世にも分かりやすく示しているに過ぎないと思うから。まぁ、これはあくまで俺の主観の話だ。他の領地ではきっちりと統治されているのかもしれない。
恐らく俺達7人が一番最初に色々と創ったものが多いからそう言われるのだろう。後は強いて言えば己の被造物たちに加護を与えているだけだ。
ぶっちゃけた話、加護を与えることが出来ればこの世界では神認定される。そのため、同期の神以外にも多くの神々がいたりする。ただし、その者達は大抵眷族と称されたり、「(六大神の)〜に連なる者」と称されたりしている。理由は簡単。面倒なこととかを任せるために俺達が生み出したものが多いからだ。
自力で神になる者も少なくはないが、三割いるかいないかだろう。その貴重な三割も、基本俺達の後世に生まれたため、独立して神と名乗ることが難しいのだ。
新しいものは、なかなか古いものを越えることが難しいのだと言うことがよく分かる事例だ。
「ねぇ、マーサ。新しい『星』の種を作ってみたの。良ければ後で一緒に『星』の種を蒔きに行きませんか?」
そんなとめどないことを思いながらら、レイチェルの膝枕を堪能していると、珍しくレイチェルから誘ってきた。口調は最初に比べ大分くだけてくれたが、まだ敬語が多い。俺としてはもうちょっとくだけた感じでもいいんだけどな。
でもまぁ、「マーサ」と言う呼び方が自然になったので、それだけでも十分嬉しい。最初はつっかえながら「マツァッヒロッウさん」だったもんな。
このマーサと言うのはレイチェル専用の俺の愛称だ。
俺の名前は発音しにくいらしく、この世界では「ヒロゥテ=マルツァーブ」と呼ばれる。悪友はツァーブと呼び、親しい人はマルツ、それ以外はヒロゥテと呼ぶ。レイチェル用の呼び方以外、元の名前の原型を留めていないが、時と共に慣れていき、今では愛着もある。
「それはいいね。そしたら、今夜にでも蒔きに行こうか。折角だし、お供無しで」
灰色がかった栗毛色の髪を手で梳くように触れながら答えると、レイチェルは嬉しそうに小さく頷いた。ソバカスは相変わらず残っており、地味な顔立ちだが、俺には十分愛らしい。なんと言うか、安心出来る可愛さ、とでも言うのだろうか。控えめではにかむような仕草に、心がほっこりするのだ。別に美人が嫌いな訳でもないし、目移りしない訳でもない。それでも、やはり俺にはレイチェルが、レイチェルには俺が必要だと自然に思えるのだ。
さて、『星』を蒔く準備をしないと。いつもはお供に任せているけど、今日なそうもいかない。何せレイチェルが誘ってくれたのだから。
久々のデートだ。
準備の段階から楽しまないと勿体無い。
何年経っても愛しい者との一時は大切なのだから。
後々の神話で語られたりするかもしれないが、まぁ、いいだろう。