1
ここはいわゆる異世界だ。
現代日本、否、地球での常識なんて一切当てにならないファンタジーな世界だ。
太陽は沈む度に大地を灼熱で燃やし尽くしたり(結界がなければ確実に死んでいたレベル。火事なんて目ではない)。空には七色の海が広がり、魚介類が空を悠々と泳いでいたり(たまにヒレのある得体の知れない生き物が飛んでいたが、ハマグリみたいなのに寄って集って食われていた。こ、怖すぎる)。植物は一ヶ所に留まらず自由に動きまくったり(常に全力疾走&アクロバッティクな動きに翻弄され、毎日の食料調達もハイレベルだった)、等と異世界事例に事欠かない。そんな世界だから、魔法とかも普通にある。つーかないと死ぬだろ、これ。エルフや妖精、ドラゴンなどファンタジー世界ではお馴染みの種族だってわんさかいるらしい。
人間以外の他種族にはまだ出会ったことがないから分からないが。いや、レイチェル以外の知的種族とはまだ出会ったことがないから、と言う方が正確だろう。何せこの一カ月、俺はレイチェル以外と会話したことがないのだから。
あ、レイチェルと言うのは俺をこの世界に召喚した魔女だ。中肉中背で、地味な顔つき(ソバカスもある)の見た目は至って普通の少女だ。ただ、魔力は常人を遥かに凌駕しているため、かれこれ二千年は生きているらしい。この時点で彼女が人間かどうか怪しいが、悲しいことに本人が一番それを気にしている。また、強すぎる魔力は人体を始めとした生体にも有害らしく、それもあってレイチェルは人里離れた太陽が沈んでくると言うこんな辺境の地で一人生きてきたのだ。途方もなく長い歳月を。
レイチェルは魔力が桁違いであらゆる面で人類の枠からはみ出気味であり、大人しく我慢強い性格ではあったが、一人で生きていけるほど強くはなかったのだ。だから、俺を召喚したのだ。一年と言う期限付きで。レイチェルの強すぎる魔力の影響を殆ど受けない者を。孤独を癒す僅かな希望を。召喚された当初は非常に不満だった。異世界転生ものでお馴染みのチートな能力が付与されていないことや、あまりに常識外れな生活環境だとか、そして何より何故レイチェルが美少女ではないのか、と言う点に強く不満を抱いていた。今思えば理不尽にも程があったよな。ごめんな、レイチェル。
「いきなりこんな世界に召喚してしまい、ごめんなさい。どうかお願いです、一年だけでいいんです。私と一緒に過ごしてください。お願いします」
初めて俺と出会った時、レイチェルはそう懇願した。一年過ごせば、必ず元の世界に召喚した時間と共に戻すとも何度も約束してくれた。渋々ながらも俺が承諾すると、レイチェルは泣きそうなほど嬉しそうに笑った。本当に嬉しそうな表情だった。あの表情が今でも忘れられない。日本にいた時にも見たことがなかった。だから、不満はあったものの、レイチェルとの期限付きの生活もなるようになるか、と思えたのだ。そうやって共に過ごしていくうちにレイチェルが俺の安全や意思を本当に尊重してくれていることを段々と感じるようになり、迷惑だと理解してなお、俺のような異世界の者を求めるほど寂しいのだと言うことに気付いていったのだ。
「私は、出来るだけ穏やかで、寂しくない人生を歩みたいんです」
いつかレイチェルが呟いた言葉。これが、レイチェルの心の底から望みだと知って、俺はその願いを叶えたいと本気で思った。だから、俺は奔走した。それこそ、一年と言う期限があっという間に過ぎる程に。そして期限の日を迎える頃には、俺たちは神になっていた。
え? 唐突にもほどがあるって?
そんなもん、俺が一番思ったに決まっているだろうが!
びっくりしたよ、本気で。神になるまでも大変だったが、それ以上になった後が大変だったような気がする。なんせ神になってしまったものだから、もう日本には帰せなくなった、とレイチェルは泣きながら謝ってきたのだ。泣きすぎて死ぬんじゃないかと心配になるほどに。確かに、日本に帰れなくなったと聞いた時は正直ショックだった。家族や友人にもう会えないのだと言うことが、こんなにも心に重くのしかかるのかとあの時初めて知った。だからこそ、俺は一層良かったと思った。レイチェルはこんな辛い思いを何度も体験し、ずっと一人でいたにも関わらず、それでも俺のことを大切に想っているくれているのだと理解できたから。辛かったからこそ、俺にはそんな思いをさせたくなかった、と言う気持ちが強く伝わってきたから。俺にはそれで十分だ。
だから、俺は今日もレイチェルの側にいるのだ。もうレイチェルが寂しくならないように。
何か人々には誤解されて壮大な神話とか語られたりしてるけど、まぁ、あまり気にすることもないか。




