星空の彼方まで
高校一年の春季の夜。俺は空に向かって、人には叶うことのできない望みを口にしてしまった。無神経に。ただただ後先考えず。欲望のままに。
今思えば、なんでそんなことを望んだのだろうと思う。天に広がる星空に比べれば、星屑より小さい願望の為に俺は望んだ。
俺が空に望んだこと。それは______。
季節は夏の残暑が仄かに残る秋の日。俺は授業中にも関わらずノートも取らず窓側の席にも関わらず外も眺めずただ一点。一人の女性を眺めていた。彼女の名前は椎坂瑠香。俺のクラス、二年四組のクラス委員長にして、才色兼備、頭脳明晰、運動神経抜群で、おまけにクラスの信頼も厚い、まさに絵に描いたような完璧超人で、さらに黒髪ロングときた。俺の好みにドストライクすぎてやばいくらいだった。
そして、そんな完璧超人を眺めている俺の名前は稲葉星太。別にイケメンと言うわけでもなく、これとにって特化したものもない。いたって普通の高校生だった。
何故、こんな一般生徒が彼女を眺めていたかと言うと、もちろん好みもあるが、彼女は高校に入って初めて優しく、そして初めて俺に話しかけてきてくれた女子生徒だった。俺に話しかけてくる彼女は常に笑顔で、優しかった。だが、きっと彼女は俺にちょっかいをかけたっただけだろう。
だが俺は、彼女に少しでも近づきたかった。その思いで、彼女に何回話しかけようとして失敗したか。もう数えきれない。
そんな日々を繰り返し1年近く経った。思えば長いようで短く感じる。
一年経っても、こうして眺めているだけで、話しかけるのも難しい状態だ。俺はこの事態からどう打破するか今だ悩んでいた。
誰かに相談しようにも、俺には友達というものが存在しない。恐らく自分のこのコミュ障のせいだろう。
気づけば放課後になっていて、教室にいるのは俺一人となっていた。
「帰るか」
俺はそうこぼして帰路についた。
「ただいま」
帰宅の合図を言って家に入っても、誰も答えはしない。何故ならこの家には俺だけなのだから。
両親は二年前に交通事故で事故死。俺は父親の弟である俺のおじさんに引き取られ、無理を言っておじさんに一人暮らしを許可してもらい、去年、同じ町のアパートを借り、一人で住んでいる。別に、狭ぐるしさも虚無感も感じない。もう一人には慣れた。二年前のあの時、両親を失ったあの時から。
あることをするために、俺は家を出て、町の端にある山に向かっていた。もう秋にはなったからだろうか。夜になると夏の暑さを一切感じなくなる。これも季節の変化だろう。
山に着いた俺は、芝生の上に体を預け、空を見上げた。そう、あることとは、山で星空を眺めること。 そして、もう一つの目的があった。
『星太よ、またダメだったのか?』
「あぁ……また無理だった」
そう、もう一つの目的は、『星』達と話すことだった。
俺が一年前に望み叶った結果がこの力だった。星たちと話すことにより、自分は救われている気がして、落ち着くのだ。ちなみに星と話している時はコミュ障は何故か出ない。
『星太、もう自分の気持ちを伝えたらどうじゃ。彼女に伝えておらぬであろう?』
「まぁそうだが……しかしペルセウス、俺には難易度が高いよ……」
奴は九月の星座で有名な、ペルセウス座。カシオペア座や牡牛座などに隣接する大きな星座だ。
『しかし、そんな悠長にしていると学生生活とやらも終わってしまうのであろう?』
『そうなんだよな……ん?なんだ今の音」
ガサッと何かが落ちたような音がして、俺は体を起こし音の主を確認する。
「なんだこれ……石?なんか光ってて綺麗だな」
『その石……どこかで見た覚えが……』
綺麗に輝く光石に俺が見とれていると輝きが強く光りだした。
「な、なんだ!?」
『星太!今すぐその石から離れるのじゃ!その石は危険じゃ!』
「え!?うぁぁあああああ!!」
俺は光に包まれ、目の前が真っ白になった。
思えば、この瞬間に俺の運命は変わっていた。