『 堕ちたがり 』
蟻を見つめる男。
昼下がりの公園の隅っこで。
何かを決意し、足を振り上げては……ため息をついて静かに下ろすの繰り返し。
明らかな不審者。
「貴方には出来ないし、出来たとしてもそんなんじゃ無理でしょ。たぶん、きっと」
ブランコを揺らしながら、つい私は呟いてしまう。
彼にとって絶望的な本音を。
一瞬動きが止まり、それからもう、彼が足を上げる事はなかった。
「ちゃんと働きなさいよね。根っからの真面目人間な癖に」
無理して堕ちたがる理由を知ってるのに、私は何て意地悪なんだろう。
ぷちっ
何かが(当たり前に私の言葉に決まっているのだけれど)彼に、小さな小さな覚悟(蟻さんゴメンナサイ)を決めさせた(無理矢理強引に)らしい。
簡単に蟻は潰れて、彼の羽が一枚だけ、ゆっくりと黒く染まった。