その後
物語には始まりがあり、そして終わりがある。
だが、本当にそこで終わっていいのだろうか。
「その向こうを見てみたくないかい?少年」
その人は、シルクハットにスーツをきて、木でできた、1mちょっとの杖を持っていた。
「向こうって、どこ?」
僕の物語は、産まれる事で始まって、死ぬ事で終わる。
それより前は無いし、それより後ろも無い。
でもこの人はあると言っている。
何が言いたいのかさっぱりで、僕が何も言わないまま黙っていると、この人が話し出す。
「終わりは、単に始まりに過ぎないんだよ。この世界は、始まりと終わりをひたすら繰り返しているだけだ。だが、そのことに気づくことができるのは、ごく一握りの人だけだ。さて、君はその一人になるつもりは無いかい?」
「結構です」
自然と声を掛ける。
何せ、見知らぬ人には用心しろと教わっているから、この人は要警戒人物だと、本能が示唆している。
「ふむ、そうか。残念だな」
その言葉に他意は無いようで、本当に残念そうな表情で、僕に微笑みかける。
「……ちょっとだけなら」
今度は、この人にそう言った。
気持が揺り動かされたからだ。
この人は、にやりと笑った。
そして、僕に手を差し出しながら告げる。
「では、共に行こう。終わりの向こうへ」
僕は、その手をしっかりとつかみ、そしてこの空間からいなくなった。
これが、僕の終わりと始まり。
人生のその向こうの話の始まり。




