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序ノ怪
人間のままでいたい。妖怪になりたくない。
でも苦しい。どうすれば良いのか分からない。
恐怖に呑まれて光を思い出すこともままならない。
わたしを食べて。ひと思いに殺して。
声は戻らず紅い鬼に目で懇願するが「そしたらお前の友を代わりに食べてやる」と言われて叶わない。
鬼はわたしをどうしたいんだろう。
起きていても粗末にするわけでもなく、ただ生かす。
でも眠りにつけば呪いをかけて責め立てる。
もう見たくない。夢も現実も見たくない。
膝を抱えて籠の隅。涙はようやく枯れて溜息も出ない。あるかないかの呼吸を繰り返す。
いつからか籠の中で何かが動かされることも無くなった。鏡は覗けば何が映るか怖くて触れていない。布団は夢を見るのが怖くて敷いていない。小さな和箪笥は必要なものなんて入っていない。
もう良い。
もういらない。なにもいらない。何も見たくない。
もう追い詰めないで。
もう追いかけてこないで。
もう夢を見させないで……。