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短編集  作者: 吹雪桜
8/21

短編8(微GL+NL・三角関係)

大したことはありませんが、ガールズラブ表現があります。

苦手な方は回れ右をお願いします。

私は君にとってただの宿り木でしかない。

それでよかった。それがよかった。それでも、よかった。






女の子らしい君。私と違って可愛い可愛い女の子。

だから好きになったのだろうか。私が憧れるものを持つ君を。私が持たないものを持つ君を。

けれどどうしてそれが恋情へと変化したのだろうか。私は決して同性愛者というわけではないのに。

知らない。分からない。それでも好きだという想いは確か。



「好きな人ができたの」



君は言う。

一体何度目だろうか。君は誰かに恋をして、誰かと想いを通わせて、そうして別れてまた別の恋をする。

私はそれを見守る。君が頬を染めるところを。君が幸福に笑うところを。君が痛みに泣くところを。

一番側で、君を応援して、祝福して、慰める。



「彼とつきあうことになったの」



何度目だろう。

何度も、何度も、何度も。


君は知らない。私の想いを。君は知らない。だから君は私の側にいて、私に縋りつく。

それがどれほどの幸福か。どれほどの痛みか。

君は知らない。知らない。知らなくていい。



「彼と別れたの」



何度も同じ言葉を繰り返し聞いて。

何度も同じ言葉を繰り返して。


君は恋をしている間は私を省みることはなくて。

君は恋に破れれば私の元へと戻ってきて。


それに私は何をしているのだろうか、と思って。

それに君は私に何を求めているのだろうか、と思って。

それでも私は君を受け入れて。君が戻ってくるその時を、待って。



「どうして!どうしてあなたなの!どうして…!!」



泣いている。

怒っている。

君はまた新しい恋をしたのに。

新しい恋を追いかけているのに。

なのに君は私のところにやってきて、目を真っ赤にして、涙をぼろぼろと零して私を詰る。






「私の方があの人のこと、好きなのに…!!」






君が新しく恋をした男はひとつ年上で。今まで君が恋をしている間、行く温室で私が出会った先輩で。ほんの一時、同じ時間を過ごすだけの間柄で。

特別な想いなど持ってはいなかった。居心地がいいとは感じていたけれど、君に抱くような想いを抱いたことなどなくて。

なのに不意に途切れた会話。逸らせない視線。気がつけば唇が触れ合っていて。


君がそこにいたなんて気づきもしないで。

君が彼に恋していたなんて知りもしないで。

君が好きだよ、と囁かれた言葉に戸惑って。

ゆっくり考えて、と優しく撫でられた頭をその胸に預けて。

そっと目を閉じて、彼のことを考えていた。




君が好きだ。君が好きだ。

君に詰られて胸が痛かった。

なのに彼を私にちょうだい。そう言われて何も言えなかった。

彼はものではないのだと。私は彼に恋情は抱いていないのだと。君が彼を好きだというのならば応援するのだと。そんな言葉が頭に浮かぶこともなくて。

ただただ君を見ていた。何も答えない私を君が刺すように睨みつけて、許さないからと叫んで走り去って行っても、私は引き留める言葉もなく、ただ君を見ていた。



分からない。

分からない。

分からない。



君が彼に恋を仕掛ける。

振り向いてと切実な想いを込めて。

私はそれを遠くで見ていて。

けれど今までと同じように温室に行って、今までと同じように彼と同じ時間を過ごす。

それは可笑しなことではないだろうか。頭の中でそう問いかける。可笑しいだろう?だって君が好きなのは彼だ。私が今会っている彼だ。今までと同じであるはずがないのに、今までと同じだなんて可笑しいだろう。


彼は私を見る。

優しく頭を撫でる。

好きだよと囁く。


私は。

私、は?


抱き寄せられる頭をそのままに目を閉じる私は、一体何を考えているのだろうか。











君が私に言った。

久しぶりに笑って言った。



「好きな人ができたの」



君は新しい恋を追いかける。



「あの人とつきあうことになったの」



君は新しい恋を実らせ、幸福に笑う。


私はいつものように温室に行って。いつものように彼と同じ時間を過ごして。

彼は私に好きだよと囁いて。私は絡まる感情に身動きができなくなって。


君が好きだ。

でも彼との恋を私は応援できなかった。彼以外の男との恋は応援できたのに。

君が好きだ。

でも君が彼を振り向かせようと必死だった間、私は何もしなかった。温室で会う彼に君の話を持ち出すこともしなかった。

君が好きだ。好きだ。好きだ。

でも君が彼ではない他の男を好きになったのだと笑って報告した時、胸の奥で渦巻いた感情は複雑に絡まりあっていて。


彼を好きだと言っただろう?

私に彼がほしいのだと言っただろう?

私に彼をくれないのならと絶交を言い渡しただろう?

なのに君はもう別の男に恋をしたと言うの?


私は君に何も言えなかった。

私は君を応援できなかった。

私は彼に会い続けた。

私は彼の想いを聞き続けた。

私は何を考えて、何を思って、何を、何を、何を。


それら全てが絡まって絡まってぐちゃぐちゃになって。

どこかに安堵、なんて感情も混ざり合って。



「好きだよ」



彼に抱きしめられて。名前を呼ばれて。

涙が零れた。



好きだ。好きだ。好きだ。

恋情を君に抱いている。抱いて、いた?

分からない。分からない。分からない。

私は今まで君の宿り木だった。恋を知って飛び立つ君が恋に破れて休みにくる宿り木だった。

それでよかった。それがよかった。それでも、よかった。

私の君への恋は実らない。分かっていた。知っていた。だから君が必ず休みにくるこの立場が愛しかった。


私は今、また君の宿り木になった。

今の恋に破れれば君はまた休みにやってくるのだろう。

けれど、けれど、でも。



「私、は」



下りてくる唇を、目を閉じて受け止める私は。

抱きしめてくる腕を感じながら、その背を抱き返す私は。













今までのように君だけを愛しいと。

今までのようにそんな君に優しいだけの気持ちで、傷ついたその心を抱きしめてあげることができるのだろうか。


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