短編3
『美しいお姫様は王子様を一目で魅了しました』
『硝子の靴を片方残したお姫様を探して国中の娘を訪ねていくと、ぴたりと合う方がおりました』
『王子様は探し出したお姫様と末永く幸せに暮らしました』
「私の王子様は、硝子の靴もなかった私を見つけてくれたわ」
「うん?」
隣で絵本を読んでいた少女の声に男が顔を上げれば、少女は絵本の表紙を撫でていた。
「地位も名誉もいらないの。名前さえ名乗らなかった私を見つけてくれたんですもの。それだけで十分」
微笑み男を見上げる少女に男も微笑む。
肩を抱き寄せれば抵抗一つなく預けられる体。
「愛しているよ。それで王子の反感を買ったとはいえ、君を手に入れられたのだから」
先に出会ったのは王子ではなく男。少女と二人、恋に落ちた。
けれど王子もまた少女に恋をした。
譲れなかった。譲りたくなかった。そうして男は少女を探して見つけた。
「ねえ、あなた。私にはもうドレスも硝子の靴もないただの灰かぶりだわ。それでも間違えずに私を見つけ出してくれたこと、とても大切な宝物なの」
「嬉しいね。君にそう思ってもらえるなんて」
くすくすと二人、笑い合う。
決して裕福な暮らしではないけれど、幸せそうに二人は笑う。
「王子と一緒になるより大きな幸せ見つけたの。愛しているわ、私の大切な王子様」
そうして口づけて、また笑った。