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短編集  作者: 吹雪桜
15/21

短編15(短編13と同設定)

それはある曇り空が素晴らしい日のことでした。

美咲だいすき、と可愛らしい天使の笑顔で言われた未婚の母、ついでにいえば出産経験もない母たる美咲は、お母さんも大好きー!と愛らしい愛息子をぎゅーっと抱きしめました。

じゃあ結婚してね、とぎゅうっと首に抱きついてくる愛息子に、大きくなったらね、と言いかけた美咲は、唐突ににやけた顔を真顔に変え、さーっと血の気が引いた音を聞きました。


危ねえ。マジ危ねえ。


美咲は冷や汗を拭って、腕の中の我が子ににっこりとほほ笑みかけました。顔色は最悪です。真っ青を通り越して真っ白でした。

対する愛息子はにぱあと花が咲き綻ばんばかりの笑顔。美咲は陥落しそうな心を叱咤します。


だめだ。騙されるな。今の私の天使は天使のふりをしている小悪魔だ。しっかりしろ。


しかし、しかしです。美咲の腕は今にも愛息子をぎゅうっとしそうです。したくてうずうずしています。理性に感情が逆らおうとしています。がんばれ理性。負けたら終わりだぞ。

美咲はがんばりました。がんばって、がんばって、お母さん、将来どんな子がお嫁にくるのか楽しみだわ、と言いました。

けれど愛息子は堪えません。負けません。可愛い両手で美咲の頬を包み、小首を傾げました。美咲が陥落してもいいかもしれないと呟くもう一人の自分を脳内で殴り飛ばした直後に愛息子は言いました。


「鏡みる?」

「見ません」


佐藤美咲二十五歳。愛息子シオン七歳。これは母と子の飽くなき戦いの物語である。






「母さん、何そのナレーション!」

「雰囲気を盛り上げようかと思ったのよ」

「いらないから!盛り上げなくていいから!」






「はい、しーくん、あーん」

「あーん」

「美味しい?」

「おいしい!」


美咲の膝の上に座る愛息子は、祖母から差し出されたスプーンに乗ったアイスに笑顔満面。

やーん、かわいーといつもなら悶えてぎゅうっと抱きしめる美咲は、愛息子からの求婚攻撃に疲れてぐったりだ。小さな肩に額を乗せている。


「おばあちゃんも、はい、あーん」

「あーん。美味しいわねー」

「ねー」


ちくしょう。私も混ぜろ。


「あ、そういえば美咲」

「なーにー?」

「しーちゃんの下僕候補がきたんだけどね」

「はい!?」

下僕!?私の可愛い天使に下僕!?いや!どこの変態がうちの子に目つけたの!!

シオンの肩からがばっと頭を上げた美咲に、あらー人殺しそうな目つきねーと義母、マリアが笑った。


マリア。この人に聖母マリア様と同じ名前を授けたのは一体どこの親だ。いやいや、ここは世界が違うんだから仕方ないっちゃ仕方ない。だがしかし!そう思った時期が美咲にもありました。


「何でもしーちゃんの前世の魔王に仕えてたんですって」

「はあ?そんなのうちのシオンに何の関係があるのよ。他人じゃん。無関係だ」

「そうでしょ?なのにしつこいのよねえ」

「しつこい」

シオンも頷いた。

眉間に皺が寄っている。


何でもその変態はシオンがマリアと食糧調達のために森を歩いていた時に現われたらしい。

ようやくお見つけいたしました魔王様、とか言って近づこうとして、隣にいたマリアに気づいて、貴様陛下がお小さいのをいいことに害なそうというのかとかなんとか言いだして攻撃をしかけてきたらしい。

むかっとしたのはマリアだけではない。美咲には及ばなくとも大好きな祖母に攻撃をしかけてきた変態に持ったのは悪感情。


ざけんな痴漢とマリアが頭を力いっぱい蹴り飛ばして。

おばあちゃんに近づくなとシオンが見えない力で体をブッ飛ばして。


普通なら死んでる。これ絶対死んでる。

マリアに側頭部を蹴られたのだから頭が向かうのは横だ。なのにシオンは腹に力をぶつけたというのだから体が向かうのは後ろ。全然違う方向だ。

それでも変態は生きていたらしい。乳母として雇っていらっしゃったのですか申し訳ありませんと言ったらしい。誰が乳母だ痴漢、とマリアに頭を踏まれて。おばあちゃん、そんなの踏んじゃ汚いよとシオンに言われて泣いていたらしい。

……何故か嬉しそうだったとシオンが首を傾げたのに、本当の本当に変態だ。金輪際うちの子に近づかせないでとマリアに力いっぱい頼んだ。


「とりあえずあの痴漢はしーちゃんの魔力が発動したのに気づいて探してたんですって。しーちゃん最近魔力使えるようになったし、練習もしてるからそれでかしらね」

「え、じゃあ他の魔族とかもくるかもってこと?」

「そ。でもねえ、その痴漢によると、痴漢がしーちゃん探しに行くのに誘った相手はね、しーちゃんからの招致があるならともかく、ないなら今まで通り生活するから行かないって言ったらしいのよ」

「へえ」

「ほら、魔王が勇者に破れてもう結構な年月が経つでしょう?というか、正確な年月知ってる人もいないし、それだけの年月が経てば魔族も魔王がいない暮らしに慣れたんでしょうねえ。だから痴漢が多数派なのか少数派なのかはわからないけれど、魔族全員集合ってことはないでしょうね」

「いっそその痴漢だけにしてほしい」

「同感ね」

うんうんと頷きあって。

シオンがらぶらぶ生活邪魔しないでー、と片頬を膨らませた。可愛い。思わずにやけた顔で膨らんだ頬を人差し指でつついて気づく。今何つった?らぶらぶ生活?誰と誰のだこら。


「でも他のもきたら厄介ねえ。美咲、気をつけなさいよ?」

「何でピンポイントで私?シオンが一番危ないでしょ」

「あら、美咲よ?迎撃できないでしょう」

「できないけども」

ってか、母さんはできるの?あ、ごめん。愚問だった。できるんだね?ごめんなさい。

「城には結界はるから、外に行くときだけ皆でいっしょ」

ね?とシオンが美咲を見上げて笑う。天使の笑顔だ。やあんもうかわいー!!な気持ちのままに抱きしめて、新婚旅行までにはなんとかしたいわねえ。そんなマリアと旅行?皆で行きたい!無邪気なシオンに、おい、と、きゃー、に美咲は忙しかった。

それでも一度マリアと話し合う必要があるかもしれない、とシオンに新婚旅行とは何かを誇大して教える母を止めながら思った。


今度は見た目も七歳児です。

冒頭を思いついたので書いてみたんですが、痴漢は何で出てきたんだろうか…。

書いてたら勝手に出てきました。何でだ…。

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