短編13(魔王な息子七歳×異世界人な養母二十五歳)
七歳と言っても見かけ大きいです。ショタ描写はありません。
「美咲、愛してる。一生大事にするから結婚して」
「…お母さんに愛の告白をするような子に育てた覚えはありません」
私こと佐藤美咲二十五歳は、十年前に異世界トリップなるものをしました。そこで出会った王子様、ではなく一人の女性。一人娘をよその国のお貴族様に奪われたと呪いの言葉を吐いていた女性。
ああ、ちくしょう。あの貴族のボンボンが。私の反対も押し切って攫うように一緒になったからには幸せにしないと一族郎党不幸にしてやる。
何が起こったの、ここどこ、な状態だった私の目の前でこれ。正直顔が引きつった。むちゃくちゃ怖かった。
そんな私に気づいたその人とまあ、うん、いろいろ話をすることになって、どうしてかその人に引き取られることになって。二人細々と暮らしてたら、たまたま城の下働きを募集してて、好奇心で二人応募してみたら見事に採用されて。おやまあラッキーな感じで働いて。
あれは忘れもしない。私が十八歳の頃だった。王妃様が子供を産んだ。双子だった。でもこの双子が問題だった。双子というより片割れが。
どうやら双子の片割れ、王族の子でありながら魔王の生まれ変わりだったらしい。魔力が半端ない。
助産婦さん?王妃様から子供を取り上げた人が人間には有り得ない濃密な魔力に気づいて、王様に言ったら即殺せって話になって。
いや、自分の子だろおい。そう愕然とした私と、ふざけんなてえめこの屑が、な顔をした母は、返して殺さないでと閉じ込められた部屋で泣き叫ぶ王妃様と共謀して、殺されようとしてるその子を攫って逃げた。
え、どうやって王妃様と共謀したか?私に聞かないで。母さんに聞いて。あの人怖いよ。どうやってあの隠し通路発見したの。王妃様を言いくるめたあの話術は何だ。
とにかく王妃様から逃亡資金と幾許かの宝石をもらって。逃亡ルートを考えて。そうして無事逃亡に成功した私と母さんは、俗にいう魔王の森で子育てを始めました。
……ええ、魔王の森。昔昔、世界を蹂躙せんとした魔王の居城があるとか言われてる森で。まあ、人っ子一人いなかったわけですが。っていうか、外から見たら暗いし不気味だしな森なのに、奥に行けば行くほど目も覚めるほど神秘的ってどういうこと。魔王の森だよね?精霊の森じゃないよね?
そういえば昔語りの魔王と勇者が戦ったのはこの森だけど、城とか出てこなかったな。だからあるらしいってだけで、ある、とは断言されてない。誰も奥まで行かないからね、怖すぎて。不気味すぎて。
だから誰も魔王の森に生えてる木が瑞々しいとか、差し込む光が柔らかいとか、動物がいっぱい住んでるとか知らない。私達も見た瞬間思わず口を大きく開けて固まってたし。
そういうわけで、修復は必要だけど住めないわけでもない魔王城で意外と心身ともに安らかで穏やかな子育て生活が始められました。
が、ここで母さんは言った。
「私、おばあちゃんって呼ばれたいわ」
は?と言った私を無視して、母さんは孫(決定)に笑いかけた。
私がおばあちゃんよー、この子はお母さん。よろしくねー。
…ちょっと待てや。
断固として拒否すると叫ぶ前に、母さんの孫(決定)は私をそのつぶらな瞳で見て、にぱあっと笑った。
………まあ、なんだ、うん。陥落した。
お母さんだよーなんて自分で言った。だって可愛かった。もうあの一瞬でメロメロになった。ちくしょう天使だ。あれマジで天使だ。
そんなわけで可愛い可愛いと育てつつ、時には心を鬼にしたりして育てて。お母さんだいすきーなんて言われながら、そのたびに鼻血出しそうなくらい頭をくらくらさせながら。
そうして時は流れて現在私二十五歳。すくすくと育った私の天使現在七歳はやっぱり魔王だったらしい。魔力を使って大人の姿に変身できるようになったらしい。いや、しなくていいでしょう。将来の私の楽しみにとっておいてよ。
元凶は母さんだ。女をものにするなら使い分けが必要よーとか言ったらしい。天使な笑顔でノックアウトさせて、男の色気で更に落とし込め。何を教えてるんだ。可愛い孫に何を!!そして何の話だ!!
そんな私をよそに母さんと私の天使は真剣な顔でああでもない、こうでもないと家族会議をすることが多くなった。私も入れてほしいんだけど。ほんのちょっぴり疎外感を味わいながら、ちょと拗ねたりしながら家族三人で幸せな日々を満喫して、何でだ。
あんまり長い間大人の姿を保ってられないらしくて、大きくなってちょっとしたら元の姿に戻ってた私の天使は、大人の姿で何故か私の両手を握ってプロポーズをしてきた。
「今度はおばあちゃんに何言われたの」
「落とせ」
「何を?」
「美咲」
いや、もうメロメロだよ?赤ん坊の君が私に笑いかけた瞬間、メロメロになったよ?
っていうか、いつからだったっけ?お母さんって呼んでくれなくなったの。ちょっと寂しいんだけど。
「結婚してくれないなら婚約して」
「いやいやいや、何でそんな話に」
「僕が結婚できる年になったら結婚して」
「まてまてまて、お母さん話についてけてないから」
「じゃあ、うんって言って」
「じゃあって何!?意味わかんないよ!?」
僕お母さんと結婚するーっていうのは常套句だ。でも親の夢だ。実際もっと小さい頃にやってくれた時は萌え死ぬかと思った。やーんかわいー!!って叫んで抱きしめたもんだ。うん。
でも何かこれは違う。違う気がする…って!
「きゃーーーー!!!なにしてんの!」
「指にキス」
「しなくてよろしい!」
「や」
そんな大人の姿でや、とか!可愛いけど、大人の姿と口調のギャップにどきっとしちゃうけど!
「うんって言って、美咲」
「う、上目遣いだめーーー!!!」
何も考えないでうんって言いそうになった!危ないなおい!
「とりあえず落ち着こう。落ち着いてね、私のシオン」
「美咲はそのままね。落ち着かないうちにうんって言って」
「こらこらこら!」
いくら混乱してても気軽にうんって言っちゃいけないことくらい分かります!私の勘が告げてます!
「あのね、シオン。落ち着いてお母さんに一からお話しして?」
「可愛いからキスしていい?」
「お・ち・つ・け」
「ぐっ」
ああ、ごめんね、私の天使。思わず握られたままの両手で顎、殴りあげちゃった。痛かったね。でも呻きながらも私の両手離さないんだね。
「シオン。とりあえず手を離してね?お母さん、ちょーっとだけ離れてお話聞きたいわ」
涙目でふるふるしないで。可愛いから。元の姿ならもーっと可愛かったのかな。大人の姿でもちょっと腕が動いたもん。元の姿だったら我を忘れて抱きついたな、これ。
「お互い冷静にならなきゃ。だからちょーっとでいいの。離れましょ?」
「冷静になられたらますます見込みなくなるからいや」
何 の 見 込 み だ 。
いや、本当は分かってるんだけど分かりたくないっていうか。信じたくないっていうか。だってだってだって!可愛い可愛い私の天使が!大切な大切な私の愛息子が!……本気でプロポーズしてきてるとかさ?
何でそうなったの?いつからそうなったの?まだ七歳じゃない。本気でプロポーズにはまだ早いよ?早いの!私が早いって言ったら早いの!はーやーいーのーよー!!
「ねえ、私の可愛いシオン。お母さんはいつまでもシオンのお母さんだから、結婚しなくても一緒なの」
「美咲は僕の母さんだけど、母さんだけじゃいや。結婚して」
「いやいやいや、お母さんはお母さんだけなんだよふつう」
「僕魔王だから普通一般の常識に囚われなくてもいいと思う。……っておばあちゃんが」
「母さんーーー!?」
可愛い私の天使に何吹き込んだーーー!!!
確かに血は繋がってない!私は異世界からきた一般人だ。平民だ。対して私の天使は王族だ。王子様だ。そして魔王様だ。どこにも血の繋がりを疑う要素はない。悲しいくらいにない。でもだ。でも育ての母も立派なお母さんなんだ!真剣な目で結婚してと言う息子に、喜んで!とか笑顔で言えるわけないでしょーが!
「今のうちに唾つけとかないと、どこの馬の骨とも知れない輩に攫われちゃうわよってことだから結婚して」
「母さんか!それも母さんか!私の天使になんてことを!!って、私なんかに惚れる男がいるわけないでしょう!自慢じゃないけど生まれて二十五年、一度たりとも告白されたことないんだから!」
「これからもないなんて言いきれないから、僕と結婚して。今は婚約でいいからうんって言って。愛してる」
「…っ、あ、あい、愛!?」
顔が恐ろしい勢いで熱くなったのが分かった。
愛!?愛してる!?今まで好きーだったのに愛!?いや、さっきも言ってたけど、何か威力が倍増してるような気が…!何でだ!
ああ、しかもそんな綺麗な顔で、真剣な顔で、熱がこもった目でそんな台詞…!反則だ!反則だ!元の姿で言ってよ!そしたら私も愛してるー!って抱きしめたのに!心臓がやばいじゃないか!ちくしょう!
「愛してる、美咲。ね?僕のものになって」
…っ、耳元で囁かれた…!
これも母さん!?母さんの入れ知恵!?
心臓がやばい。破裂する。足がやばい。がくがくする。っていうか、腰抜けた…っ。
「美咲!?」
ああ、顔上げれない。
「どうしたの!?大丈夫!?どこか痛い!?」
声も出せない。今出したら変な声出そう。
「あ、おばあちゃん!美咲が…!」
……。おばあちゃんだとお?
「既成事実つくっちゃいなさい」
「七歳の子供に何てこと言うの母さんのばかあああああ!!!」
「きせいじじつって何?」
いいの。そのままでいて。いてね?お母さん、もういっぱいいっぱいだから!!
とりあえず今はどさくさに紛れて抱きついてきてる私の天使の顔を見ないように、親指立ててイイ笑顔してる母さんに文句を連ねた。
将来は僕じゃなくて俺とか私とか言えばいい。
可愛い私の天使はどこ!?な状態になればいい。
でも時々可愛い天使な自分を使ってお母さん翻弄すればいい。
想像したらわくわくします(え)