婚約者は王女様しか目に入らないようなので、婚約解消した私は紳士にチヤホヤされる店を作りました
もしやと思っていたことも、
現実をまざまざと見せつけられたら、
ようやく認められるの。
◆◇
騎士たちがこの部屋に雪崩れ込んできて、王女様の安否を確認された時。
他にも被害者がいないかと、探してくれた騎士たちが私を発見して、マントで包んで運んでくれた時。
あの時、監禁されていた建物の外で、婚約者は王女様の無事な姿を見て喜んでいて、一緒に攫われた私の安否など、何も気にしていなかった。
いつもそうだった。
この時もそうだった。
だから、認められたの。
婚約者は王女様のほうが大事だって。
政略結婚でも、多少は心配してくれる筈が、婚約者は私も一緒に攫われたことなんて忘れていたのね。
王女様が無事に見付かったことが嬉しくて、私のことなんか頭の片隅にもなかったみたい。
だから、婚約解消したの。
もう、結婚もしたくないから、実家から遠縁の男爵家に籍も移してもらったわ。
今は紳士にチヤホヤしてもらえるカフェを作って、そこのオーナーをしているの。
だから、二度と来ないで。
あなたの顔は二度と見たくないの。
だから、男爵家の籍に移してもらったの。
男爵令嬢は王女様や高位貴族と出会う機会なんてないでしょ。
だから、作った店を如何わしいなんて言わないで。
みんな良い子ばかりだし、身を売っているわけじゃないから。
そのようなことはわからない?
誰も彼もあなたみたいな貞操概念じゃないの。
プライベートはどうあれ、この店の中では、彼らは紳士で、甘い夢を見させてくれるの。
注文を取って、注文品を運んで、食事中のお喋りの相手をして。
紳士的な殿方にチヤホヤされたい需要は私だけではないのよ。
それだけで、満たされるの。
◇◆
王女様が好きで堪らない殿方がようやく帰ってくれたわ。
「お嬢様。大丈夫ですか?」
男爵家に籍を移した後も私の専属侍女をしてくれているマリーは、今も私の背後にいる。
王女様と一緒に攫われた時は、置いて行かれたから。
「どうしたの、マリー?」
「手が、震えていらっしゃいます」
「あら。おかしいわね・・・。あの子たちと話しても、震えないのに」
「・・・」
マリーが私を痛ましげに見る。
公爵家では、みんながこういう目で見てきた。
それもこれも、あの誘拐事件のせい。