表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

旅のはじまり、商隊と出会う夜



見送ってくれた皆に手を振り返し、街の門を抜けた。


砂利と土が剥き出しになった街道に足を踏み出す。

街の中と違い舗装なんて気の利いたものはなく、踏み固められただけの道だ。


時折、轍の跡が深く刻まれている。




慣れ親しんだ街並みが背後に遠ざかっていく。


これからどこへ向かうのか、具体的な目的地は決めていない。


衛兵として街の警備にあたっていた時には、考えもしなかったことだ。

決められた場所を守り、決められた道を歩く日々。


それも、もう終わりってしまった。



街道を歩いていると、時折、旅人や馬車とすれ違う。


大きな荷物を積んだ行商人の馬車。


顔を布で覆った、どこか遠くから来たらしい一団。

足早に先を急ぐ一人旅の男。


皆、それぞれの旅の目的を持っているのだろう。



俺のように、ただ宛てもなく歩いている人間は、もしかしたら珍しいのかもしれない。


さて、これからどうしようか。


街道を歩きながら、これまでに聞いた様々な場所の話を思い出す。



遥か南には、広大な砂漠地帯があるらしい。


その砂漠の中に、今は廃墟となった古い遺跡があるとか。

さらに海岸沿いには、異国の船が行き交う大きな港街があるとも聞いた。

活気に溢れ、見たこともない珍しいものが手に入るという話だった。


北に行けば、この領地とは様式の違う、荘厳な建物が立ち並ぶ他国の帝都があるという話だ。


もっと近くにも、絹織物や羊毛の紡績が盛んな街や、危険だが一攫千金も夢ではないという「ダンジョン」がある街の話も耳にした。




衛兵の仕事があった頃は、そんな話はただの夢物語だった。


遠い世界の出来事。


だが、今は違う。仕事は無くなってしまった。


その代わり、時間は沢山ある。

誰に急かされることもなく、どこへ行ってもいい。


まずは、気になった場所を色々と見て回るか。


衛兵として街を守るしか能がないと思っていたが、案外、世の中には面白い場所が沢山あるのかもしれない。



この目で確かめてみたい。



太陽が西の空に傾き始め、影が長くなってきた。



そろそろ野営の場所を探さなければならない。


街道から少し離れた、見晴らしが良くて、水場が近く、敵に見つかりにくい場所……そんなことを考えながら歩く。


街道沿いの茂みを注意深く見ながら進んでいると、少し開けた場所に複数の馬車が集まっているのが見えた。


夕暮れの光の中で、荷馬車らしきものがいくつか並んでいる。


どうやら、商隊のようだ。

野営の準備でもしているのだろう。


一人で野営するよりも、安全かもしれない。

それに、何か情報が得られるかもしれない。


衛兵だった頃は、商隊と交流することもあったからなんとかなるかもしれない。


警戒されないように、街道から開けた場所に出る。


馬車に向かってゆっくりと近づきながら、両手を上げて見せた。


武器は腰に収めたままだ。

敵意がないことを示す、旅人たちの間のちょっとした作法だ。



商隊の周りには、何人かの男たちがいた。


護衛だろう。



俺に気づくと、警戒した様子でこちらを向いた。

そのうちの一人が、前に出てくる。


鎧は着ていないが、腰には剣を提げている。

体つきはしっかりしており、手慣れた様子が伺える。


その護衛に向かって歩み寄る。

少し緊張する。


衛兵としてなら、どう話せばいいか分かっていたが、今はただの旅人だ。



「あの、すみません」


声をかけると、相手は無言で俺を見据えた。


少し言葉に詰まる。

口下手なのは、どうにもならないらしい。



「旅の者です。…ええと、衛兵を、辞めまして、旅に出ている者です。アイクと言います」


正直に自己紹介をする。

衛兵を辞めた、と言うべきか迷ったが、隠す理由もない。

むしろ、それが信用に繋がるかもしれない。


「もし、よろしければ……この辺りで野営をさせて頂きたく。ご一緒させて頂いても、よろしいでしょうか?」



たどたどしい言葉で尋ねた。

護衛の男は、じっと俺の顔を見つめた後、俺の装備や荷物に視線を移した。


そして、何かを判断したように頷いた。


「待っていろ」



そう言って、彼は馬車の周りに集まっていた商人らしき人たちの方へ向かった。


何かを小声で話している。


商人たちは、ちらちらと俺の方を見ている。



不安そうな顔、警戒する顔。



様々な表情が見える。

彼らの間で、俺をどうするか話し合われているのだろう。



しばらく待つと、護衛の男が戻ってきた。



「良いだろう。ただし、揉め事は起こすな。食い物は自分で用意しろ」



短い言葉だったが、許可が出たことに安堵する。


「ありがとうございます。ご迷惑はおかけしません」



頭を下げて礼を言うと、護衛の男は軽く顎で野営地の内側を示す。


どうやら、この商隊と共に、今夜を過ごすことになりそうだ。


さて、どんな人たちがいて、どんな話が聞けるだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ