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第三話 深夜の学校潜入

文字数(空白・改行含まない):2356字

 時計の針が夜十時を示す頃、私は七ヶ宮駅を出た。最終列車までは三時間程余裕がある。


 駅を出たところで広がる光景には朝のような騒がしさはなく、学校までの道標となってくれていた生徒は見当たらない。

 そこは、自販機や看板のネオンが雨上がりのアスファルトを煌々と照らし、湿気を帯びた肌寒い風が髪に纏わりつく場所だった。


 処々の人の喧騒は、居酒屋、路上ライブなどから聞こえてくる。

 飲み屋帰りのスーツ集団が、笑い声を上げながら私とすれ違う。終電を逃した人を狙うタクシードライバーは、エンジンを鳴らし車内でスマホをいじっている。

 まるで朝の喧騒とはかけ離れた、終わりへ向かう為の喧騒。それは異世界のようにも思えた。


 そんな真夜中、私は七ヶ宮学園へと向かう。


 朝来た道、朝見た店、朝見た街路樹。それらを頭の中でパズルのように組み立てて、学校への道を歩いた。街灯や深夜営業の店という違和感を感じつつ、さらに歩を進める。


 息が上がらないように、ゆっくりと坂道に入りながらポケットからスマホを取り出した。


『いまどこにいる?』


『ここ』


 メッセージアプリで雑に返信して、坂を上っていった。

 すると、学園の正門が見えてくる。威厳と歴史を感じた黒い鉄柵の門は、夜の帳が下りるこの場では、少し怖い。後ろに鎮座する古風な校舎もより恐怖心を駆り立ててくる。


 そんな恐怖を煽る学園の側にある街灯に照らされて人影が見えた。私はその人影に大きく手を振り、駆け寄る。


「待たせちゃった?」


「いや、全然大丈夫よ。先にしておきたかったこともあるし」


 その人物は、この場の雰囲気に気圧されることなく悠然と返した。


「ねえ、また映画でも見に行かない? 面白そうなホラー映画があるの。神代さんの同好会参加記念にでもどう?」


「凄い急だね。しかも、参加記念と言う割に上映するのは一か月後だし」


 スマホからホラーですよ、と言わんばかりに血のデザインが張り付いているスプラッターなポスターを見せてきたのは、真面目そうな顔をした夏希だった。


「まあ、取り敢えず行こうよ、学校探索」


 彼女が行きたがっているだけとしか思えず、話を本題へ移した。

 こんな真夜中にここにいるのには訳がある。

 そう、七不思議の捜索だ。夏希が言うには怪奇現象や怪異はこういった夜に見られることが多いらしい。彼女の執念も少し怖く感じた。


「そうね、時間もないし。……ところでそんな格好で大丈夫?」


「…え? これダメ…?」


 指摘されて相手を見やる。 

 夜の校門前、ひんやりとした風が彼女の御守りたちを揺らした。

 私はセーターの上にダウンを羽織っただけで、足元もいつものスニーカーだ。荷物はショルダーバッグにまとめている。

 普段通りとまではいかないが、『まぁ、夜の学校をちょっと探検するくらいならこれでいいよね』という程度の軽装だった。


 対する綾小路夏希は、まるでサバイバルゲームの帰りかと思うような格好だった。黒いアウトドアジャケットに焦げ茶のカーゴパンツ、膝にはプロテクター。手には懐中電灯と封のついた塩の小袋。首からは数珠、腰には御守りが何種類もぶら下がっている。背中のリュックはパンパンだ。


「まあ、今日は大丈夫。じゃあ、はいこれ」


 そう言うと、手にある塩の小袋を一つ私の掌に置いた。


「あ、言っておくけどこれは塩じゃないからね? 怪異がいると思ったら、撒くんじゃなくて鼻から吸うか舐めて」


「───え? じゃあこれは何なの?」


 相手の話を遮るように疑問の言葉が漏れてしまった。一言では伝えられない、塩でないならこれは何なのか、効果は何なのか、なぜ吸うか舐めるかなのか、といった疑問をその言葉に気付けば集約させていたのだ。


「まあこれは、脳を強制的に覚醒させて、理解を拒んでいた怪異の姿を()()()ようにするもの。そして投与された者は怪界と()()されて、怪異に()()()()()を行うことも出来る………みたいな。要は第六感を解放するものかしら」


 そこで一区切りつけると、「但し」と強調するように話し始めた。


「私たちは灰視粉と呼んでいるけど、正式名称はケタミナゾリン-3α。本来はPTSDの治療なんかに使用されるケタミン系。つまりは過剰使用すると幻覚や共感性の喪失が起こるし、許可なんて取ってないからもちろん違法、麻薬取締法違反でね。だからそんな便利な存在じゃないの」


「なんで違法なもの普通に手に入れてるの…?」


「あはは…まあ、私の親が医療系でそこまで教育に関心が無いからかな。ちょちょいっと誤魔化せば簡単に手に入ったよ。管理も杜撰だったし」


 少し気まずいのか誤魔化すように微笑むと懐から懐中電灯を取り出して続けた。


「ま、取り敢えず中に入りましょ。付いて来て」


 正門周辺を囲む私の三倍ほど高い鉄柵に、沿って歩く夏希の後ろを追った。しばらく進みグラウンド方面にたどり着くと先ほどの柵よりも低く簡素な、鉄線同士を交わしたものが周りを囲っていた。一般的なものである。


 一部が雑木林になっている場所に進むと、夏希は鉄線を引っ張り柵にひと一人がちょうど入れそうな穴を露わにさせた。


「いつもここから入ってるの。ほら先に行って」


 彼女に急かされて、穴を潜った。服が引っ掛からないように慎重に抜けた先に、慣れ始めた七ヶ宮学園が見える。


「えーっと…、今日は20─年11月6日、十時二十分。動画区分は七ヶ宮学園、管理番号は丙の三十七号です。」


 隣にはビデオカメラを回している夏希がいた。


「今回は、新入部員の神代千冬さんも参加しています」

「い、いえーい…?」


「あ、言ってませんでしたけどカメラは気にせず、反応もしなくて良いですからね」


「そう…?」


「では、行きましょうか」


 動画映りを気にして雰囲気が少し変わった、彼女の後を追って校舎に近付いて行く。

 今日は私が初参加ということもあり、校舎を二人で万遍なく回って終わりらしい。

薬物ってなろうの規約に違反しないですよね…?

まだ違反とかの経験が無いので分からない…

ちなみにケタミナゾリンは架空です。この物語はフィクションです。誤字報告ありがとうございます。初めて使いましたけど便利ですね、あれ。

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― 新着の感想 ―
綾小路さん、オカルトガチ勢かと思いきや、医療(ヤク)ガチ勢っすか…。 悪しきモノを退ける塩ではなく、トリップ系の覚醒のお薬を渡してくるとか…。 うん、紛うことなきヤバ女。同級生がしつこく注意しに来る…
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