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それから数日後、佐藤は東京に戻っていた。大輔がどこにいるのか調べ、東京にいる事を突き止めた。大輔にもインタビューをしてみたいと思った。帰りたいと思っているんだろうか? 今の心境を知りたいな。
「伊藤大輔、伊藤カズの孫・・・」
佐藤の横には、同じくアナウンサーの住田がいる。住田もその事が気になって、調べようと思ったようだ。
「どうしてるんですかね。調べてみましょうよ」
「はい」
2人は大輔の住んでいるアパートの前にやって来た。そのアパートは古ぼけていて、所々で老朽化している。本当にここに誰かが住んでいるんだろうかと疑ってしまうほどだ。
2人は大輔の部屋の前にやって来た。家の前の札には、『伊藤大輔』と書かれている。確かにここが大輔の家だ。
「ごめんくださーい」
佐藤はノックをした。だが、反応がない。どうしたんだろう。仕事でいないんだろうか? いや、今日は日曜日だ。どこかに出かけているんだろうか?
「あれ?」
佐藤は再びノックをした。
「ごめんくださーい」
その声を聞いて、隣の住民が顔を出した。こんな静かな昼下がりに、どうしたんだろう。
「どうかなさいましたか?」
「伊藤大輔さん、どうしたんですか? 全く反応ないんですけど」
それを聞くと、隣の住民は心配そうな表情をした。大輔に何があったんだろう。
「もう数か月も帰ってないのよ」
「えっ!?」
それを聞いて、2人は驚いた。大輔がこんな事になっているとは。どうして行方不明になったんだろう。まさか、ここ最近起こっている行方不明事件に巻き込まれたんだろうか?
「どこに行ってんだか。家賃もかなり滞納してるらしいし」
住民は心配していた。家賃が滞納していて、大家さんが心配していた。連絡がないし、どこに行ったかわからない。捜索願は出しているものの、全く行方がわからないという。
「そんな・・・」
「とある夜、乗っているハイエースごとなくなったんですよ。どうしたのかね」
大輔は普段、ハイエースに乗っていて、休日になるとハイエースを使ってキャンプをしていたという。
「そんな事があったのか」
「大家さんに頼んで、入ってみます?」
住民は思った。大家さんに調べてもらって、中に入ったらどうだろう。中に入ったら、何か手掛かりがつかめるかもしれない。
「そうですね」
住民が部屋に戻り、大家さんに連絡を取った。2人は驚きを隠せない。取材をしようと思ったら、まさかこんな事になるとは。
「どうしたんですか?」
「あの人、ハイエースを持っている人々の集まりによく参加してまして、みんなに見せびらかしてましたね」
大輔はハイエースを改造していて、改造したハイエースを見せ合う集会に参加していたようだ。大輔の明るい性格は、みんなの人気者だったという。
「そんな事をやってたんですね」
だが、2人はそれに全く興味がないようだ。それのどこに魅力があるんだろう。全くわからない。
「はい。自分にはその魅力がわからないんですけど、それが好きだったんですよ」
住民にもその魅力がわからない。見ても、全く注目していなかった。
「ふーん・・・」
「でも、どうしてそんな事をやってたんでしょうか?」
2人は思った。どうしてそんなに改造をしているんだろう。何か意味があるのは確かだが。
「いつでもどこでもインターネットができるからでしょう。あの人、車の中でもネットサーフィンができるように改造してたらしいですよ」
「そんな事をやってたんですか?」
2人は驚いた。こんな事をやっていたとは。いつでもどこでもインターネットができたら、さぞかし便利だろうな。
「はい」
「すごい趣味だなー」
「確かに」
と、そこに大家がやって来た。大家はマスターキーを持っている。これを使えば、どの部屋の鍵も開けられる。
「どうも。伊藤大輔さんが数か月もいないって聞きまして」
「確かにおかしいと思いましたよ。やっぱり夜逃げだったそうで」
大家は知っていた。ある日の朝、アパートの駐車場に来ると、ハイエースが消えている。最初、仕事に行ったんだろうと思ったが、その日は日曜日で、休みだ。その日は何の予定もないので、明らかにおかしい。
「入ってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
4人は部屋に入った。部屋は何日も誰も入っていないので、ほこりまみれだ。
「あれ?」
「やっぱりいないわね」
4人は辺りを探したが、やはり誰もいない。夜逃げしたというのは、やはり本当だったようだ。
佐藤は机を見た。すると、そこには手紙がある。何だろう。佐藤は手紙を手に取った。
「あれ、これは?」
「何これ? 職場いじめ?」
それを見て、住民は思った。まさか、職場いじめだろうか? 大輔は職場いじめに苦しんでいて、何度も自殺しようと思った事があるという。だが、そのたびに人々に止められて、何とか生きていた。だが、もう耐えられないと思ったんだろう。
「きっとそうだ。ひどいな」
大家は思った。やはりそうだったか。でも、どこに行ったんだろう。足取りをつかめないかな?
「それが原因で夜逃げしたのでは?」
「きっとそうだ」
佐藤と住田は思った。後日、大輔の勤めていた職場に聞こう。そうすれば、何が手掛かりがあるかもしれない。