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 その頃、北海道の小さな村、幾部には取材が来ていた。幾部はかつて、炭坑鉄道が分岐していた交通の要衝で、そこには多くの鉄道員が住んでいた。その頃は、まるで都会のように賑わっていて、とても活気があったという。だが、エネルギー革命が起きて、炭鉱が採算が取れなくなり、閉山に追い込まれた。その結果、炭坑鉄道は廃線になった。さらに、国鉄線の無煙化によって、ここに住む鉄道員が減り、村自体の過疎化も相まって、人口が減っていった。今ではあの頃の賑わいがまるで嘘のようだ。村のあちこちには廃屋があり、その中には雪で倒壊して、ただの原野に戻った場所もある。それはまるで、村の栄枯盛衰を見ているかのようだ。


 その中に、1軒の民家がある。そこに住んでいるのは伊藤カズ。この村の最長老で、83歳だ。カズは1人暮らしで、近隣の住民に見てもらっている。家族が幾部に帰る事はなく、寂しい日々を送っている。


 今日、カズの家にはアナウンサーの佐藤松彦さとうまつひこや多くのカメラマンがいる。


「今日は、過疎化が進む幾部にお住いの、伊藤カズさんのお宅にお邪魔しております。伊藤さん、今の幾部をどう思いますか?」

「昔はとても賑やかだったのに、若い者はみんな村を出て行って、こんな厳しい環境が嫌いなんでしょうね。これは致し方ないんでしょうか?」


 カズは寂しそうな表情だ。あの頃に戻りたいと思っても、もう戻ってこない。どうしたらあの頃に賑わいが戻ってくるんだろう。考えても、その答えが見つからない。このままこの村は衰退していき、いずれなくなってしまうんだろうか? 故郷は消えるのは嫌だ。だが、それが時代の流れだ。そう思うと、涙が出てくる。


 ふと、カズは昔の幾部の事を思い出し、話し始めた。佐藤やアナウンサーたちはその話を食い入るように聞き始めた。


「かつて山間には敏別という町があって、そこは炭鉱で栄えたんですよね。今はもうなくなり、ダム湖に沈んでしまいましたが」


 カズは山の方を見た。その山には、もう誰も澄んでいない。だが、確かにそこには敏別という町があり、炭鉱で栄えていた。幾部よりもずっと栄えていて、とても賑やかだったな。ここには昔から映画館がなかったのに、敏別には映画館があった。よくそこまで映画を見に行ってたな。だけど今は、湖の底になり、何もなかったかのような光景が広がっている。


「そうですね。昔はこの幾部から運炭鉄道が延びていて、幾部は交通の要衝として賑わったんですよね。ですが、鉱山は閉山になり、そして鉄道は廃止になった。そしてこの村はそれと並行するかのように寂れていったんですね」


 彼らはカズの話をしみじみと聞いていた。彼らは思った。幾部はどうなってしまうんだろうか? 湖の底に沈むことはないだろうけど、敏別のように消えていくんだろうか? そして、人々の記憶から消えていくのかな?


「はい・・・。もしも閉山になっていなければと思うんですが、時代の流れなんですかね。そしてこの村は消えていく。あぁ孫はどこに行ったのやら」


 カズは思っている。エネルギー革命がなければ、閉山がなければ、敏別は今でも栄えていたのに。幾部は交通の要衝のままで、とても栄えていたのに。それが時代の流れなんだろうか?


 そして、カズにはもう1つ、考えている事がある。それは孫の事だ。かわいい孫、大輔はどこに行ったんだろう。ここ最近全く連絡がない。何らかの事件に巻き込まれていないか心配だ。


「心配ですか?」

「はい・・・」


 カズは泣きそうだ。また帰ってきてほしい。そして、一緒に暮らしてほしいな。


「あの子、どこ行っちゃったんでしょうね」

「というわけで、本日は幾部村から中継をお届けしました」


 そして、彼らはカズの家を出て行った。カズは下を向いている。また孤独になってしまった。これからどうすればいいんだろう。全くわからない。




 その頃、敏別湖の辺りを黒いセダンが走っている。隣街へと向かうようだ。ここを車が走るなんて、あまりない。


「疲れたなー」


 車の中には1人いて、その男、高木が運転をしている。高木はとても疲れている。今日は幾部までドライブに行ってきた。休日はドライブをして、気分転換をしている。平日の仕事でストレスがたまっていたが、ドライブで吹っ飛ばす事ができた。今日はとても満足だ。家に帰って、ゆっくりしよう。


 と、高木は犬を見つけた。どうしたんだろう。高木は気になった。こんな雪の中、どうして犬が歩いているんだろう。


「あれっ、この犬は?」


 高木は車を降りて、その犬を見た。その犬を見て、高木は驚いた。血まみれだ。何があったんだろう。


「血まみれじゃないか?」


 高木が抱き上げると、犬は目を閉じた。高木は驚いた。どうしたんだろう。どんどん冷たくなっていく。まさか、死んだんだろうか?


「し、死んだ・・・」


 と、高木は犬があるものを食わているのが気になった。高木は首をかしげた。


「ん? 何かを持ってる・・・」


 高木は地図を広げた。そこにはこの辺りの地図があり、×印が付けられている。果たしてそれは何だろう。全くわからない。


「何かの地図? この印は?」


 と、高木はある数字が気になった。S.30.6.25と書かれている。昔の地図だろうか?


「昔の地図のようだ!」


 と、そこに1台のミニバンがやって来た。そのミニバンの側面には、動物病院と書かれている。在宅診療の帰りだろうか? まさか、ここで動物病院の車と遭遇するとは。この人に診てもらおう。


「すいませーん」


 ミニバンは停まった。ミニバンには、院長の川瀬と看護婦の下山が乗っていたが、高木に気付いて、降りた。


「はーい!」

「ここは一体、どこですか?」


 高木は×印を指さした。この人なら知ってるかもしれない。


「これか? 敏別という集落だ。今はもうダム湖の下だが」


 川瀬の親族は、この敏別の診療所に勤めていて、この辺りの事をよく知っていた。


「どうしてここに印が・・・」


 川瀬は首をかしげた。すでに忘れ去られているのに、どうしてここに×印があるんだろう。


「ここは昔、鉱山があって、とても賑やかだったんですけどね」


 川瀬は湖を見た。ここは今では静かな湖だが、その湖底にはかつて、炭鉱があり、とても栄えた。今ではとても想像できないが。


「そう・・・、ですか・・・。でも、どうかしたんですか?」

「そこに印をつけた地図を持った犬が現れたんですよ。その犬、死んだんですけどね」


 そう言って、高木は犬の死体を見せた。それを見て、川瀬は驚いた。どうしてこんな寒い冬、山奥で犬が見つかったんだろう。明らかにおかしい。


「えっ!? どうして?」

「わからないです」


 高木は首をかしげた。高木にもわからない。


「とにかくあの犬を司法解剖をして。何か手掛かりがあるかもしれないから」

「わかりました」


 と、高木は左上に書かれている名前らしきものに目が入った。『三村千尋』だ。誰かの名前だろうか?


「あれっ!?」

「どうしました?」


 川瀬は反応した。何に気が付いたんだろうか?


「三村千尋?」


 と、川瀬は何かを思い出した。行方不明になっている中学生だ。どうしてその名前が出てきたんだろうか?


「あの行方不明になった子?」


 それを聞いて、川瀬は思った。この犬の血を調べたい。もしかして、その血が行方不明になっていた三村千尋と一致するかもしれない。


「ちょっとこの犬の血、調べさせて」

「はい!」


 ミニバンは犬の死体を乗せて、走っていった。高木はその車を後ろから見ている。いったい、どういう事だろうか? その犬の血に何か問題があるんだろうか?


 高木は敏別湖を見ていた。川瀬によると、湖底にはかつて炭鉱があり、多くの人々で栄えたそうだ。とても信じられない。嘘のような本当の話だ。


「ここは敏別湖なのか」


 高木はしばらくその風景を見ていた。その時、高木は知らなかった。その裏で、とんでもない事が起きているのを。

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