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 武は勇人の事を思い出した。勇人の人生は大輔同様、あまりにも大変だった。そして、それを苦に自殺してしまった。だが、悪霊に乗っ取られ、炭鉱を経営していた。こんな人がいたんだと思いつつ、生きていかなければならない。そして、勇人の分も頑張って、そしてみんな仲良く生きていかなければならない。勇人や大輔のように、こんな事を引き起こす事がないように。


「あいつの分も、頑張って生きなければならない・・・」

「ああ」


 上田もそう思っている。これは帰ったら生徒にも教えないと。


「さぁみんな、家に帰るぞ!」


 ここはとても寒い。早く家に帰ろう。家族が、そして友達が心配しているだろう。


「わーい!」


 そして、子供たちは家に帰っていった。彼らは嬉しそうだ。やっと重労働から解放されたのだ。彼らが願っていたように、のびのびと夢を持って生きてほしい。悔いのない人生を送ってほしい。そして何より、いじめを起こさずにみんな仲良く生きてほしい。それが労働者の願いだ。彼らの願いに応えないと。


 それから子供たちは、家族と再会し、年が明けた1月8日からまた学校に通い始めた。ここでの日々で彼らは反省したようで、とても成長した。だけど、やっぱりここでの生活がいいに決まっている。こんな年齢でこんな重労働をするのはごめんだ。




 一方、大輔とカズは家に帰ってきた。その後ろには、警察がいる。明日、逮捕するようにと言われている。逃げないように、ついてきたのだ。


「ここが実家・・・」


 大輔は深呼吸をした。この匂いも懐かしい。ここが実家だ。だけど、自分は実家のある故郷を捨てた。とても申し訳ない事をした。多くの地元の人々を心配させた。そして何より、多くの子供たちをさらい、敏別炭鉱で重労働させた。明日からその報いを受けなければならない。殺人を犯しているので、死刑になるかもしれない。だけど、それが自分に与えられた罰だ。素直に受け止めなければならない。


「よく帰ってきたね」

「ああ。今までごめんな。帰らなくて」


 大輔は泣きそうだ。どうしてだろう。久々に帰ってきたからだろうか? またカズと暮らせたからだろうか? それとも、誘拐や殺人をして申し訳ない気持ちからだろうか?


「いいんだよ。こうして帰って来てくれて、おばあちゃんは嬉しいよ」


 と、カズは帰ってきた大輔のためにご飯を作る事にした。まさかまた作ってくれるとは。カズの作る料理を食べるなんて、何年ぶりだろう。もう二度と食べないと決めていたのに。まさかまた食べるとは。


 しばらくして、ごはんができた。今日はカレーライスだ。とてもおいしそうだ。カレーライスは警察にもふるまわれた。まさか食べられるとは。警察は驚いていた。だが、作ってくれたのだから、食べなければ。


「さぁ、どうぞ」

「いただきまーす!」


 彼らはカレーライスを食べ始めた。とてもおいしい。これが故郷の味なんだ。味は普通だが、おいしく感じるのは、ここが故郷だからだろうか?


「おいしい!」

「そう。よかったわ」


 カズは笑みを浮かべた。やっとここに戻ってきてくれた。それだけで嬉しい。だけど、明日ここを離れ、警察に行ってしまう。もう帰ってこれないかもしれない。ひょっとしたら死刑になるかもしれない。


「おばあちゃん、こんな事やって、ごめんね」


 大輔は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。こんな事をした孫を、カズはどう思っているんだろうか? 許せないと思っているんだろうか?


「いいんだよ。苦しかったでしょ? しっかりと罪を償ってきてね」

「ああ」


 カズは優しそうな表情だ。あれだけ悪い事をした孫なのに、どうして優しく接する事ができるんだろう。警察は疑問に感じていた。なかなか帰らなかった孫が、久々に帰ってきたから嬉しいんだろう。逮捕される前に、ここでの時間を大切にしたいと思ったんだろう。




 そして、夜になった。今夜は特別だ。大輔が帰ってきたのはもちろんだが、大輔と過ごす最後の夜になるかもしれないからだ。逮捕されて、もう帰ってこないかもしれない。ひょっとしたら死刑になるかもしれない。今日という日を大切にしよう。


「おやすみ、おばあちゃん」

「おやすみ」


 そして、大輔は寝室に向かった。その後ろには警察がいる。警察を見るたびに、自分はとんでもない事をしてしまったんだと実感する。もし、犯罪を犯していなければ、カズと一緒に暮らしていて、楽しい日々を送っていたかもしれないのに。それは全部自分が悪いのだ。




 そして、夜が明けた。今日は警察に向かう日。おそらくカズと永遠の別れになるかもしれない日。そう思うと、大輔は複雑な気持ちになった。


「おはよう」

「おはよう」


 大輔は玄関に向かった。いよいよ警察に向かうのだ。幾部にはもう帰らないだろう。今日、この風景をしっかりと目に焼き付けておかないと。


「じゃあ、行ってくるね」

「うん」

「じゃあね、バイバイ」


 カズは手を振っている。それを見て、大輔は泣いてしまった。優しく迎えてくれたのに、そんなカズとは今日で離ればなれになってしまう。


「バイバイ。元気でね。また幾部に帰って来てね」

「ああ」


 そして、大輔はパトカーに乗り込んだ。その車窓から、大輔は幾部を見ている。もう帰らないだろう故郷。それをしっかりと目に焼き付けておかないと。


 走っていると、多くの人々がパトカーを見ている。ひょっとして、学校の仲間だろうか? まさか集まってくれるとは。彼らは大輔の事をどう思っているんだろうか? 過去のいじめの事を申し訳ないと思っているんだろうか? もし申し訳ないと思っているのなら、彼らには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。反省している彼らのためにも、いい子にできなかった事を、大輔は恥じた。これからそれらの報いを受けてくるのだ。


 彼らが見えなくなった時、大輔は下を向いた。そして、これまでの人生を思い出した。親不孝で申し訳ない人生で申し訳なかった。今からその報いを受けてくる。だから、もし帰ってきたら、僕に優しく接してくれ。お願いだ。

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