45
と、そこに1人の男がやって来た。勇人だ。朝から騒然としている。何が起こったんだろう。勇人は気になって、稲荷神社に来たのだ。ここには誰も来ることはないと思われていたのに、ここ最近、放火しようとする人がいる。この稲荷神社の神様が退散したら、ここは湖底に沈むというのに。
「何が起こった!」
その声に反応して、大輔は横を向いた。そこには勇人がいる。勇人が来てくれた。勇人なら何とかしてくれるはずだ。
「勇人、助けてくれ!」
それを聞いて、カズは反応した。勇人がまさか、ここで生きているとは。もう死んだと思われたのに。まさかここで生きているとは。
「勇人・・・」
「こいつ!」
それを聞いて、沢も反応した。沢は勇人の事を知っていた。勇人の肉体はここにあったのか。そして、何かに取り憑かれているのかな?
「生きてたのか・・・」
「えっ、勇人・・・」
勇人は横を見た。そこには炭鉱から逃げ出した6人がいる。どこに行っていたのか?早く労働に戻れ。さもなければ、殺すぞ。
「お前ら、やっと見つけたぞ! 働け!」
と、そこに沢が入ってきた。こんな恐ろしい事をしないでほしい。元の優しい勇人に戻ってほしい。
「やめて、勇人!」
「うるさい! お前らも道連れだ!」
優ともナイフを出した。誰であっても殺してやる! この炭鉱を守るんだ。いつまでも、ここを存続させるんだ。そして、いじめっ子をここで殺して、いじめのない社会を作るんだ。
「勇人くん、もうやめて! どうしてそんな事をするの?」
カズもやって来た。その声を聞いて、勇人は急に力が抜けた。まさか、カズも来ているとは。こんなに老けてなお、勇人の事を忘れずにいたとは。もうだいぶ前に現実世界からいなくなったのに。もう現実世界では死んだように思われているだろう。
「あんた・・・」
「えっ!?」
大輔も驚いた。それはカズではないか? やはりカズも来ているのか。
「カズばあちゃん?」
「そうよ。もうやめて!」
カズは優しそうな表情だ。もうこんな事はやめてほしい。元の勇人や大輔に戻ってほしい。もう子供たちを狩って、ここで重労働させないでほしい。
「カズばあちゃん・・・」
と、霊媒師は今だと思い、近づいた。勇人の悪霊を取り払おうと思ったのだ。
「今だ!」
霊媒師は服を脱ぎ、霊媒師の姿になった。早く勇人の悪霊を取り除かなければ。
「悪霊よ、立ち去れ! 天へ帰れ!」
その声とともに、勇人の悪霊は天に昇り、消えていった。それとともに、勇人は倒れた。もう魂はないのだ。そして、勇人はただの抜け殻になった。
「倒れた・・・」
それを見て、カズは呆然となった。本当に勇人は死んだ。もう会えないんだな。そう思うと、涙が出てくる。大輔も呆然としている。協力者が亡くなったからだ。
「死んだんだ・・・」
それとともに、大きな水の音がする。何だろう。敏別炭鉱の方を向いた。すると、水が流れ込んでくる。ここが再び現実世界に戻ろうとしているようだ。早くトンネルの向こうに戻らないと、水没してしまう。
「えっ・・・」
「水だ!」
驚いているのは、稲荷神社にいる12人だけではない。敏別炭鉱にいる男たちもだ。そこには、現実世界からやって来た子供たちもいる。幸いにも、その時間は非番で、みんな寝ていた。大きな音に反応して、外を出たようだ。大きな水を見て、悪霊が取り除かれた、敏別炭鉱は湖底に沈むんだと思った。
「早く逃げろ!」
現実世界の子供たちは逃げていく。まだまだ水は住宅地に迫っていない。早く敏別トンネルの方に向かおう。
「早く早く!」
「水だー! 逃げろー!」
辺りが騒がしくなっている。12人もここにやって来た。早く逃げないと。だが、その先の敏別トンネルを抜けると、瀕死の犬になってしまう。どうしよう。このまま無事に帰りたいのに。
「もう大丈夫なのか?」
「ああ。早く逃げよう! そして、現実の世界へ帰ろう!」
それを聞いて、霊媒師は彼らを安心させようとした。もう大丈夫だ。通っても、元の姿のままだ。だから、早く逃げよう。
「うん!」
「もうこの先行っても大丈夫なの?」
「いいよ。もう悪霊はいないから」
それを聞いて、一部の子供たちは敏別トンネルを進んでいる。何としても生きて家に帰るんだ。その為にも、敏別トンネルを抜けないと。
「いいから早く! 沈むぞ!」
「はい!」
それを聞いて、子供たちはみんな敏別トンネルに進んだ。霊媒師の言うとおり、何も起こらない。それを確認すると、子供たちは次から次へと進んでいく。
「大丈夫だ! 早く行こう!」
「うん!」
12人もその先に進んでいく。早く逃げないと、湖底に取り残されてしまう。早く行こう!
最後の1人、武が通り過ぎると、間もなく敏別トンネルは閉じ、水は流れ込まなくなった。そしてそこには、敏別トンネルの閉塞地点がある。元の敏別トンネルに戻ったのだ。
「さぁさぁみんな、早く帰ろう!」
それを見て、大輔は思った、自分だけでも逃げないと。刑務所なんてこりごりだ。
「くそっ・・・」
それを見て、警察は大輔を追いかけた。大輔は人を殺した。そして何より、多くの子供たちを誘拐して、敏別炭鉱で働かせた。逮捕しなければならない。
「待て!」
敏別トンネルの手前で、大輔は警察に取り押さえられた。もう動けない。どうしよう。
「離せ!」
「お前、人を殺したんだろ?」
それを聞かれると、大輔は肩を落とした。確かに自分は人を殺した。自分の秘密を知られたくないからだ。
「はい・・・」
「子供たちを連れ去ったのも、お前だな! どうしてそんな事をやった?」
それを聞くと、大輔は泣き出した。泣きたくなるほどの理由があるようだ。
「俺は、いじめっ子を苦しめたかった。それが、自分の喜びだと思っていた・・・」
大輔は自分が駆け込みサイトを作り、子供たちを誘拐した理由を話し出した。




