表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/47

44

 翌朝、5人と男は裏山にやって来た。ここに毎朝、勇人が来るらしいと聞いたが、本当に来るんだろうか? 5人は疑問に思っていた。彼らは見つからないように、木陰に隠れていた。彼らは緊張していた。もし見つかったら、5人も死ぬまで強制労働させられるだろう。そうならないためにも、見つからないように気を付けないと。


「うーん・・・。どこにいるんだろう」


 と、カズの様子がおかしい。カズは勇人の事を思い出していた。勇人はいじめられっ子だったけど、優しい子だった。だが、自由を求めて、ここでのつらい思い出を忘れるために東京に向かった。だが、東京では大成せずに幾部に戻ってきた。幾部では嫌われ者だった。あの時、私が救っていれば、勇人はこんな事にならなかったんじゃないかな?


「どうしたんですか?」

「勇人」


 カズは信じられないような表情だ。勇人はどうしてここで生きているんだろう。そして、こんな事をやるようになったんだろう。そんな考えを持った事はないのに。そして、どうして身を投げたはずなのにここで生きているのか? ひょっとして、悪霊に操られているのでは?


「もう死んだんでしょ?」

「でも、遺体がないんでしょ?」


 確かにカズの言うとおりだ。死んだと言われているが、遺体は見つかっていない。そして、勇人の体が、ここにあるんじゃないかな? そして、勇人の体を悪霊が乗っ取っているに違いない。


「ああ」


 と、そこに勇人がやって来た。だが、今日は大輔もいる。やはり大輔はここにいたようだ。それを見て、カズはハッとなった。行方不明になった時と同じ姿だ。あの時で年齢が止まっているようだ。もう30年も経っているのに、明らかにおかしい。


「あれっ、この人は?」

「勇人かな?」


 カズはじっと見ていた。まさか、こんな所で再会するとは。


「そうかもしれない」


 勇人は裏山の先に行く。今日も稲荷神社に行くと思われる。勇人は真剣な表情だ。生きていた頃とは全く違う。この人格も、乗っ取っている悪霊によるものと思われる。


「どこに行くんだろう」

「高台?」


 男は知っていた。今日も高台の稲荷神社に行くんだろう。気づかれないように、後をつけよう。男に続いて、5人も後をついていく。だが、勇人は気づかない。みんな静かに歩いているからだ。


「追いかけよう!」

「うん!」


 と、勇人は振り向いた。誰かの気配を感じたからだ。先日、稲荷神社にお参りに行っているのを、労働者に見られた。また見られるんじゃないかな? 不安でいっぱいだ。


 しばらく歩いていると、稲荷神社にやって来た。それが、勇人が毎日お参りをしている神社だ。いつ頃からそんな事をするようになったんだろう。労働者は疑問に思っている。


 そして、勇人はお祈りを始めた。6人はその様子をじっと見ている。こんな事を毎朝していたとは。とても驚きだ。


「何をしてるんだろう」

「お祈り?」


 カズはじっとその様子を見ていた。勇人がこんな事をするようになったとは。あの時の勇人とは全く違うな。


 しばらくしていると、キツネの影が現れた。これが勇人を操っていたと思われる。そのキツネの霊は、敏別炭鉱の守り神で、閉山した後もここにいた。だが、人がいなくなり、敏別がダム湖の底に沈むのを見て、またあの賑やかだった頃に戻りたいと思っていた。そんな時に勇人が現れ、自殺した。キツネの霊は勇人の体を使って、幻術でこことはまた別の世界、敏別炭鉱が栄えていた頃を再現した。これは狐の霊が作った幻だった。


「まさかこいつが操ってるのか?」

「そうかもしれない」


 こんな事で操られていたとは。早く何とかしないと。


「何とかしないと!」

「そうだね」


 だが、住田は思った。どうすればいいんだろう。悪霊を退散すればいいんだろうか? そうすると、この敏別はどうなってしまうんだろう。全く予想できない。


「でも、どうして」

「わからない。でも、何とかしないと」


 だが、カズは不安だ。そうなると、ここに連れられた子供たちはどうなるんだろう。もう元の世界に戻れないのでは? 何事もなく、あの子供たちを元の世界に戻さなければならないのに。


「そうしたら・・・」

「かまわない! あの子たちを救うんだ!」


 だが、男の気持ちは変わらない。あの子を救うんだ。あの子たちには明るい未来が待っている。その為に、明るい日々を送らなければならない。その為に、現実世界に帰さなければならないんだ。そうなると、敏別はなくなるだろう。だけど、それでいい。


「・・・、そこまで言うのなら、止めない! そうしよう!」

「うん!」


 勇人がお祈りをやめようとしたその時、1人の男が目の前に現れた。住田だ。住田は真剣な表情だ。何としても子供たちを救いたい気持ちでいっぱいだ。


「だ、誰だ!」

「いい加減やめろ! もう子供たちを連れ去るな!」


 住田は真剣な表情だ。だが、勇人は動じない。勇人も真剣な表情だ。あの頃の弱気な勇人とはまるで別人のようだ。


「俺に歯向かうのか? いい加減にしろ!」


 その頃、佐藤ら6人が下敏別駅にやって来た。住田がここにやって来ている。早く再会しなければ。彼らは走っていた。おそらく、稲荷神社にいるかもしれない。早く稲荷神社に向かおう。


「早く!」

「わかった!」


 6人は走って稲荷神社に向かっていた。その先に住田がいると信じて。




 住田は勇人の目の前にいる。だが、何もできない。勇人はナイフを持っている。何とかしようとしても、不用意に近づけない。どうしよう。


「おい! 何をしてる!」


 と、目の前に老婆が現れた。操られているとはいえ、勇人はその女を覚えていた。カズだ。大輔の祖母、カズだ。まさかここまで来たとは。


「大輔!」

「おばあちゃん・・・」


 大輔は戸惑った。まさか、カズもその事件を知っているのか? だが、ここを守る使命がある。もう迷いはない。カズも捕まえよう。


「大輔、もうやめて! 幾部に戻って!」

「やだ! もう帰らない!」


 だが、大輔はやめようとしない。この敏別炭鉱をここに残し続けるのが俺の使命だ。絶対にここを離れない。そして、大輔は持っていたナイフをカズに突き立てた。カズは驚いている。5人は驚いている。孫がこんな事をするなんて、信じられない。


「うわっ・・・」

「刺すぞ! 近づくと刺すぞ!」


 大輔は怖い表情だ。今にも殺そうとしているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ