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翌朝、5人と男は裏山にやって来た。ここに毎朝、勇人が来るらしいと聞いたが、本当に来るんだろうか? 5人は疑問に思っていた。彼らは見つからないように、木陰に隠れていた。彼らは緊張していた。もし見つかったら、5人も死ぬまで強制労働させられるだろう。そうならないためにも、見つからないように気を付けないと。
「うーん・・・。どこにいるんだろう」
と、カズの様子がおかしい。カズは勇人の事を思い出していた。勇人はいじめられっ子だったけど、優しい子だった。だが、自由を求めて、ここでのつらい思い出を忘れるために東京に向かった。だが、東京では大成せずに幾部に戻ってきた。幾部では嫌われ者だった。あの時、私が救っていれば、勇人はこんな事にならなかったんじゃないかな?
「どうしたんですか?」
「勇人」
カズは信じられないような表情だ。勇人はどうしてここで生きているんだろう。そして、こんな事をやるようになったんだろう。そんな考えを持った事はないのに。そして、どうして身を投げたはずなのにここで生きているのか? ひょっとして、悪霊に操られているのでは?
「もう死んだんでしょ?」
「でも、遺体がないんでしょ?」
確かにカズの言うとおりだ。死んだと言われているが、遺体は見つかっていない。そして、勇人の体が、ここにあるんじゃないかな? そして、勇人の体を悪霊が乗っ取っているに違いない。
「ああ」
と、そこに勇人がやって来た。だが、今日は大輔もいる。やはり大輔はここにいたようだ。それを見て、カズはハッとなった。行方不明になった時と同じ姿だ。あの時で年齢が止まっているようだ。もう30年も経っているのに、明らかにおかしい。
「あれっ、この人は?」
「勇人かな?」
カズはじっと見ていた。まさか、こんな所で再会するとは。
「そうかもしれない」
勇人は裏山の先に行く。今日も稲荷神社に行くと思われる。勇人は真剣な表情だ。生きていた頃とは全く違う。この人格も、乗っ取っている悪霊によるものと思われる。
「どこに行くんだろう」
「高台?」
男は知っていた。今日も高台の稲荷神社に行くんだろう。気づかれないように、後をつけよう。男に続いて、5人も後をついていく。だが、勇人は気づかない。みんな静かに歩いているからだ。
「追いかけよう!」
「うん!」
と、勇人は振り向いた。誰かの気配を感じたからだ。先日、稲荷神社にお参りに行っているのを、労働者に見られた。また見られるんじゃないかな? 不安でいっぱいだ。
しばらく歩いていると、稲荷神社にやって来た。それが、勇人が毎日お参りをしている神社だ。いつ頃からそんな事をするようになったんだろう。労働者は疑問に思っている。
そして、勇人はお祈りを始めた。6人はその様子をじっと見ている。こんな事を毎朝していたとは。とても驚きだ。
「何をしてるんだろう」
「お祈り?」
カズはじっとその様子を見ていた。勇人がこんな事をするようになったとは。あの時の勇人とは全く違うな。
しばらくしていると、キツネの影が現れた。これが勇人を操っていたと思われる。そのキツネの霊は、敏別炭鉱の守り神で、閉山した後もここにいた。だが、人がいなくなり、敏別がダム湖の底に沈むのを見て、またあの賑やかだった頃に戻りたいと思っていた。そんな時に勇人が現れ、自殺した。キツネの霊は勇人の体を使って、幻術でこことはまた別の世界、敏別炭鉱が栄えていた頃を再現した。これは狐の霊が作った幻だった。
「まさかこいつが操ってるのか?」
「そうかもしれない」
こんな事で操られていたとは。早く何とかしないと。
「何とかしないと!」
「そうだね」
だが、住田は思った。どうすればいいんだろう。悪霊を退散すればいいんだろうか? そうすると、この敏別はどうなってしまうんだろう。全く予想できない。
「でも、どうして」
「わからない。でも、何とかしないと」
だが、カズは不安だ。そうなると、ここに連れられた子供たちはどうなるんだろう。もう元の世界に戻れないのでは? 何事もなく、あの子供たちを元の世界に戻さなければならないのに。
「そうしたら・・・」
「かまわない! あの子たちを救うんだ!」
だが、男の気持ちは変わらない。あの子を救うんだ。あの子たちには明るい未来が待っている。その為に、明るい日々を送らなければならない。その為に、現実世界に帰さなければならないんだ。そうなると、敏別はなくなるだろう。だけど、それでいい。
「・・・、そこまで言うのなら、止めない! そうしよう!」
「うん!」
勇人がお祈りをやめようとしたその時、1人の男が目の前に現れた。住田だ。住田は真剣な表情だ。何としても子供たちを救いたい気持ちでいっぱいだ。
「だ、誰だ!」
「いい加減やめろ! もう子供たちを連れ去るな!」
住田は真剣な表情だ。だが、勇人は動じない。勇人も真剣な表情だ。あの頃の弱気な勇人とはまるで別人のようだ。
「俺に歯向かうのか? いい加減にしろ!」
その頃、佐藤ら6人が下敏別駅にやって来た。住田がここにやって来ている。早く再会しなければ。彼らは走っていた。おそらく、稲荷神社にいるかもしれない。早く稲荷神社に向かおう。
「早く!」
「わかった!」
6人は走って稲荷神社に向かっていた。その先に住田がいると信じて。
住田は勇人の目の前にいる。だが、何もできない。勇人はナイフを持っている。何とかしようとしても、不用意に近づけない。どうしよう。
「おい! 何をしてる!」
と、目の前に老婆が現れた。操られているとはいえ、勇人はその女を覚えていた。カズだ。大輔の祖母、カズだ。まさかここまで来たとは。
「大輔!」
「おばあちゃん・・・」
大輔は戸惑った。まさか、カズもその事件を知っているのか? だが、ここを守る使命がある。もう迷いはない。カズも捕まえよう。
「大輔、もうやめて! 幾部に戻って!」
「やだ! もう帰らない!」
だが、大輔はやめようとしない。この敏別炭鉱をここに残し続けるのが俺の使命だ。絶対にここを離れない。そして、大輔は持っていたナイフをカズに突き立てた。カズは驚いている。5人は驚いている。孫がこんな事をするなんて、信じられない。
「うわっ・・・」
「刺すぞ! 近づくと刺すぞ!」
大輔は怖い表情だ。今にも殺そうとしているようだ。




