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その頃、佐藤ら6人は幾部に向かっていた。夏の頃だろうか? 全く雪が積もっていない。列車は田園風景の中を走っていた。太陽が見えないが、とてもいい風景だ。のどかで、いかにも北海道らしい風景だ。こんな中を長い石炭列車が走っていたんだな。田園風景の中を走る石炭列車はとても素晴らしかったんだろうな。今の景色はどうなっているんだろう。雪原の中に埋もれて、全くわからない。もう跡形もなくなり、鉄道なんて昔からなかったかのような風景になったんだろうか?
「うーん・・・」
光は考え事をしている。何を考えているんだろう。武は気になった。
「どうしたの?」
光は横を向いた。そこには武がいる。
「幾部って、どんな町だったんだろう」
武も気になった。幾部はきっと、今以上にもっと栄えていたんだろうな。自分はここの事をあんまり知らない。だが、敏別炭鉱が栄え、敏別炭鉱鉄道があった頃は、もっと多くの人が暮らしていたんだろうな。ここがこんなに衰退するのは、時代の流れなんだろうか? それには逆らえなかったんだろうか?
「気になるな」
「もっと賑やかだったんだろうな」
列車は幾部の1つ前の駅、幾部共栄に着いた。だが、ここで乗り降りする人はいない。それを確認すると、列車はすぐに発車した。発車して間もなく、国鉄の線路が合流し、並走し始めた。次は終点の幾部だ。向こうから蒸気機関車がやって来た。観光でしか見られなくなった蒸気機関車は、この時代には普通に営業運転で使われている。昔はこんな風景が日常にあったんだな。これが営業運転から消えたのも、時代の流れなんだろうか? よりよい生活をするためにディーゼルカーや電車に変わっていったんだろうか?
6人を乗せた列車は幾部にやって来た。幾部は多くの側線がある広大な駅だ。今とは比べ物にならない。行く紅もこんな時代があったんだと思った。これらの側線は、石炭列車のためにあると思われる。ここから石炭列車は国鉄線に入り、港に向かうと思われる。
幾部に発着する国鉄の列車は蒸気機関車だ。この頃は蒸気機関車が走っていたのか。まだ無煙化が進んできた頃だろうか? この駅から蒸気機関車が消えたのはいつだろう。カズはその頃からこの幾部にいるんだろうか? カズの家はその頃もここにあるんだろうか? この頃の幾部にはどれだけの人が住んでいたと思われる。その頃はもっと多くの人が暮らしていたんだろうな。そして、多くの国鉄職員や敏別炭鉱鉄道の職員とその家族が暮らしていたんだろうな。その頃は敏別炭鉱が閉山になる、敏別炭鉱鉄道が廃線になる、そしてこの幾部が衰退するななんて、想像もできなかっただろうな。栄えていた頃を知っているカズをはじめとする住民は、どういう想いなんだろうか?あの頃の賑やかさが戻ってきてほしいと思っているんだろうか?
「着いた!」
列車は幾部駅に着いた。幾部駅のホームは国鉄の駅舎から離れた所にあり、長い跨線橋を渡った先にある。国鉄のホームと敏別炭鉱鉄道のホームの間に大量の側線があるからだ。側線には何本かの長い石炭列車が留置されていた。いくつかには石炭が積まれていて、それらは港に運ばれる。石炭の積んでいない石炭列車は港からの帰りで、これから敏別に向かい、石炭を積んでくると思われる。幾部ではこれが日常のように行われていたようだ。とても賑やかだな。
「ここなのか・・・」
6人は長い跨線橋を渡り、国鉄のホームにやって来た。とても賑やかだ。それに、2面3線で、一番端の対向式ホームに駅舎がある。ここは交通の要衝なんだな。とても賑やかだな。
6人は駅舎に入った。駅には多くの人がいる。とても賑やかだな。この中にカズもいるんだろうか? そして、勇人もいるんだろうか?
6人は駅前にやって来た。とても賑やかだ。車が行きかい、まるで街のようだ。この頃は多くの子供たちがいたんだろうな。そして、小学校や中学校も多くの子供がいたんだろうな。その頃は、高校もあったんだろうか?
しばらく歩いていると、丘にたどり着いた。幾部を一望する丘だ。これは今でもある。とても眺めがよく、ここにやって来る住民もいるという。幾部には多くの民家が立ち並んでいて、まるで都会のようだ。果たして今は、どんな光景何だろう。もっと少ないんだろうな。人々は、今の幾部の光景を見て、どう思っているんだろうな。
と、子供たちが丘にやって来た。彼らは1人の少年をいじめているようだ。その少年は、弱々しい表情をしている。それが原因でいじめられているんだろうか? ただ単に、嫌だからこんな顔をしているんだろうか? いずれにしろ、許せない場面だ。何とかしないと。
ふと、光は思った。いじめられている少年が、敏別炭鉱を経営している勇人にそっくりなのだ。まさか、これが勇人の少年時代だろうか? 駆け込みサイトでいじめっ子をここに送り込んで、強制労働をさせているのは、こういう過去があったからだろうか?
「あれっ、これは?」
「これが、昔の勇人なのか?」
武もそう感じていた。これが少年時代の勇人なのかな? こんな少年時代を送ってきたんだな。それから、どんな人生を送ってきたんだろうか? 自分は全くわからない。勇人の生涯を調べたくなったな。
「こんな事をやられてたとは・・・」
と、そこに1人の女性がやって来た。その女性はエプロンを付けている。とても優しそうな表情だ。それを見て、武は何かを思い出した。その女は、まさかカズだろうか? 昔はこんな姿だったんだな。
「カズさん!」
カズは勇人を彼らから引き離し、慰めている。カズは勇人をかわいそうだと思っている。それを見て、武は思った。もし、いじめさえなければ、勇人は自殺しなかった。今、便別炭鉱を経営して、いじめっ子を苦しめている勇人にはならなかったのでは? いずれにしろ、この過去が今につながっているんだなと思った。
「何とかしないと・・・」
「そうだね・・・」
6人は決意した。大輔もこれで苦しんで、いじめっ子を苦しめている。あの時、いじめていなければ、こんな事にはならなかったのに。あの時止めていれば、救われたかもしれないのに。大輔を、勇人を何とかしなければ。




