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敏別炭鉱で働く男たちは集まっていた。ここに現実世界の子供たちを連れてきたのは、伊藤大輔だったというのを知って、何とかしないとと思っていた。伊藤大輔はいつどこに現れるかわからない。だけど、時々ここにやって来て、子供たちを連れてくるはずだ。そこを捕まえないと。
「そうか・・・。あいつの名前は伊藤大輔っていうのか」
「はい、私の孫です。まさかそんな事をしていたとは」
カズは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。私の孫がこんな事をしてしまった。家族を代表して、ここで謝りたい。
「私も信じられない・・・。あの子がまさか」
カズはいまだに信じられない。だがそれは事実だ。もう帰ってきてほしいとかそういうのはどうだっていい。刑務所で罪を償ってほしい。死刑になったのなら、死刑にしてほしい。
「もう、私、許せないわ! 早く捕まえてちょうだい!」
と、労働者の1人がカズの手を握った。その男はとても優しそうだ。もう死んでいるのに、どこか暖かい。
「そうしますね・・・」
「お願いします・・・」
カズはいつのまにか泣いていた。大輔の事はもちろん、彼らが協力してくれることに感謝しているようだ。
「あの子はいじめられっ子で、いつか子供たちをいたぶりたいと思って、こんな事をやったんでしょう」
カズはわかっていた。あの子はいじめられっ子だった。だから、誰かをいじめている子供を苦しめるのが自分の喜びだと思っていたんだろう。だから、子供たちをここに連れてきて、死ぬまで労働させたんだろう。そして、死んでいく子供たちを見て、快楽を得ていたんだろう。
「そうかもしれないな・・・。だけど、こんな事、ひどいよな・・・」
「子供たちの未来を奪ってるもん!」
住田も許せないと思った。こんな理由で子供たちを死ぬまで労働させるなんて。あまりにもひどすぎる。何とかしてあいつらを救わなければ。そして何より、大輔を早く見つけ出さなければ。
「そうだそうだ! 子供たちはもっと明るい未来を見なければならないのに、それを奪うなんて・・・」
「噂によると、あのサイトを運営しているのは伊藤大輔らしいと」
それを聞いて、カズは顔を上げた。大輔がこんなサイトを運営していたとは。おそらく、これで子供たちの相談を聞いて、それで子供たちをここに連れ去ったのだろう。うわさでは聞いたが、まさか大輔がそのサイトの管理人だったとは。
「あのサイト?」
「駆け込みサイトの事ですよ・・・。いじめの事を書き込むと、いじめた男の子がここに連れ去られるっていうやつ」
沢も驚いた。まさか、駆け込みサイトの運営者が大輔だったとは。これで子供たちの相談に乗って、ここに連れ去ってきたんだな。
「大輔がそんなサイトを運営してたの?」
「うん。これは子供たちを連れ去るためのものなんだ」
「そんな・・・」
カズは絶句した。こうやって子供たちを集めていたとは。あまりにもひどい。インターネットってこんなに恐ろしい事なんだ。カズは驚きを隠せない。
「驚いてるみたいだけど、本当の事なんだ」
「私、そのサイトの事を知ってたんだけど、まさか大輔が管理人だったとは」
沢はそのサイトの事を、友人から知った。周りで被害者はないものの、相談をなんでも乗ってくれると評判で、そこに書き込むと、翌日は悩みがなくなってすっきりできるという。沢のイメージでは、そんなに悪いイメージがわかなかった。だが、それで行方不明になる子供がいるというニュースを聞いてから、このサイトが嫌いになってきた。
「とても許せないよな」
警察も許せないと思った。これは重い刑が下るだろうな。
「うん。そのサイト、どうなったの?」
「もう削除されたよ。これ以上犠牲を増やさないためにも」
大輔の立ち上げた駆け込みサイトは削除されたという。それを聞いて、5人はほっとした。だが、まだホッとできる状況じゃない。大輔を捕まえてからほっとするべきだ。
「よかった。でも、早く捕まえないと」
「わかってるって。だけど、伊藤大輔は全国を飛び回ってるから、全くわからないんだ」
警察は焦っていた。大輔は全国を転々としている。どこにいるかはわからない。だが、白のハイエースに乗っているというだけだ。
「そうなんだ・・・」
「白いハイエースに乗ってるって事はわかってるんだけどな」
警察は拳を握り締めた。子供たちの未来を守るためにも、早く捕まえなければ。
「俺も知ってる。あいつの白いハイエース、見た事があるんだ」
「今さっき、幾部のセコマにいたらしい。だったら、今も北海道にいるのでは?」
警察は知っていた。今さっき、大輔は幾部のセイコーマートにいた。だが、その先がわからない。だが、幾部にいたのだから、今も北海道のどこかにいるだろうと思われる。早く警察の仲間が大輔を捕まえないんだろうか?
「ああ。今、警察が探してる。だけど、なかなか見つからないんだよな」
「うーん・・・」
と、カズは何かを悩んでいるようだ。4人はカズの表情が気になった。
「どうしたんですか?」
「どうしてこんな子になってしまったのかな?」
カズは悩んでいた。どうしてあの子は、こうなってしまったのか? 普通に育てていただけなのに、どうして子供たちを連れ去るようになったのか?
「わからない。だけど、過去が原因だとはわかってる」
「そうだな・・・」
カズは下を向いてしまった。何度謝っても謝り切れない。多くの子供たちをここに送り込んで、子供たちの未来を奪ってきたからだ。
「とにかく、早く捕まえないと」
と、労働者の1人がカズの肩を叩いた。カズは頭を上げた。どうしたんだろう。
「わかった!」
「どうもありがとうございます!」
大輔を捕まえるために、みんなが協力してくれることになった。みんな優しいな。
「なーに、あの子のためなら命なんて惜しくないんだ」
「ハハハ・・・」
いつの間にか、周りは笑いで包まれていた。栄えていたころの敏別も、こんな笑い声が絶えなかったんだろうか? こんな賑やかな場所だったんだろうか? ここの人々は、とても暖かくて、優しいな。この人たちのためにも、なんとしても大輔を捕まえて、子供たちを元の世界に戻さないと。