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5人は敏別トンネルの中を進んでいた。その間、沢は思っていた。どうして敏別トンネルがこんな状況になったのか。敏別トンネルに何かがあるのでは? 別の何らかの原因があるのでは?
「どうしてここに行ったら帰ってこれないってなったんでしょうね」
「わかりません。でも、そんなうわさが広まって」
住田も疑問に思っていた。やはり何か別の原因があるのでは? 神隠しとか、都市伝説とか、そんなものだろうか? かつて敏別にいた人々の霊がそうさせているんだろうか?
「うーん・・・。誰がそんなうわさを広めたってのも気になりますね」
ふと、カズはここを見て、何かを感じた。ここには鉄道が走っていた。敏別トンネルは、敏別炭鉱鉄道のトンネルだった。このトンネルを抜けると炭鉱の町、敏別が広がっていた。
「ここを昔、鉄道が走ってたんですね」
「そうですよ。昔は幾部も賑やかだったんですよ。でも、炭鉱がなくなり、鉄道もなくなり、こんなに寂しくなったんですよ」
警察官の1人は当時を思い出していた。警察官は小さい頃に敏別炭鉱鉄道に乗った事がある。だが、すでにバスが発達して、乗客はまばらになっていた。もはや、その鉄道は石炭輸送で生き延びている状態だった。だから、閉山と時を同じくして廃線になったと思われる。
「寂しいですね・・・」
「そうなる運命だったんでしょうか?」
カズはつくづく思っている。時代の流れなのか、エネルギー革命が起こって、燃料は石炭から石油へ、石炭は海外からの安いものに変わり、日本の炭鉱は次々と閉山になっていった。それは避けられない事だったんだろうか? そして、幾部が寂れ、敏別が跡形もなくなるのは運命だったんだろうか?
「それが時代の流れなんでしょうね」
「残念でたまりませんよ。そして幾部は消えてしまうんでしょうか?」
カズは思っていた。敏別は湖底に沈んだ。幾部もいずれ消えてしまう運命なんだろうか? そして、ただの原野になってしまうのでは? それを食い止める事は出来るんだろうか?
「わかりませんが、そうなるんでしょうか?」
歩いているうちに、沢は何かを感じた。この先で行き止まりになっていない。その先は湖底に沈んでいて、行き止まりになっているはずなのに、なかなか行き止まりに突き当たらない。どういう事だろうか? 敏別トンネルって、そんなに長かったんだろうか? カズも次第に違和感を感じていた。敏別トンネルはそんなに長くない。数百メートルで終わりだったのに。
「あれっ、その先も続くんですか? このトンネルって、けっこう長いんですか?」
「はい。短いんですけど、どっかで途切れてるって聞いたんですが」
住田もおかしいと感じていた。これは、ひょっとしてどこかに通じているって事だろうか? その先には何があるんだろうか? 全く予想できない。
「途切れてないですよね」
「確かに!」
歩いているうちに、光が見えてきた。行った道を戻ってきたんだろうか? 4人は振り返った。だが、入った入り口の光が見える。あっちにも光があるという事は、どこかに続いている。行き止まりになっているはずなのに。どうしたんだろうか?
「あれっ、光が見えてきた!」
「本当だ!」
住田は驚いた。その先には何があるんだろう。行ってみよう。
カズは思った。その先に昔の敏別があるのでは? 敏別トンネルは異世界に通じるトンネルなんだろうか?
「まさか、その先に敏別がある?」
警察官も驚いていた。敏別トンネルがこんなになっているとは。一体何だろう。警察官も、それは異世界へのトンネルかもしれないと思った。
「わからない。行ってみよう」
「うん!」
5人はトンネルを抜けた。その先には町が広がっている。木造の住宅が立ち並び、炭鉱の施設が所々に点在している。まさか、ここは昔の敏別だろうか? 5人は呆然と、辺りを見渡していた。
「えっ!? ここは?」
「昔の敏別?」
カズは知っている。これは昔の敏別だ。この頃の敏別はとても賑やかだった。多くの人々が行きかい、劇場や映画館があった。今は湖の底だが、確かにそこは幾部以上に賑やかだった。
「そんな・・・。どうしてこんなのが・・・」
「ここはもう湖の底じゃないか!」
住田は叫んだ。ここはもう湖の底なのに、トンネルを抜けた先でどうしてこんなのが残っているんだろうか? 夢でも見ているんじゃないだろうか? これは幻の世界だろうか?
「まさか、幻?」
「そうかもしれない」
ふと、カズは思った。ここに大輔はいるんだろうか? そして、ここで働いているのでは?
「ここに大輔がいるの?」
「わからない。でも、どうしてここに・・・」
ふと、カズはもう1人思い出した。敏別湖に身を投げた勇人の事だ。死んだ事になっているが、遺体が見つかっていない。まさか、ここに遺体があるのでは?
「勇人・・・」
「えっ!?」
それを聞いて、5人は驚いた。勇人って、誰だろう。全く聞いた事がないな。
「何年も前に自殺したんですけど、遺体が見つからなかったんですよ」
「そんな事もあったんですか?」
警察は首をかしげた。こんな事件があったなんて。自殺したのに、遺体が見つからなかったって、明らかにおかしい。何かがありそうだ。
「もう忘れ去られたんですけど・・・」
「うーん・・・。これも怪しいですね」
住田も首をかしげた。明らかにおかしい。どうして遺体が見つかっていないのか。
「とにかく大輔がどこに行ったのか、探しましょう」
「そうですね」
だが、カズの様子がおかしい。また大輔の事を考えているみたいだ。大輔に会いたいというより、大輔を捕まえなければという気持ちが強くなった。大輔を捕まえて、説得したい。そして、元の子供に戻ってほしい。
「大輔・・・」
「どうしたんですか?」
カズは泣き崩れた。どうしてそんな子に育ってしまったのか。自分が愛情をもって育てたのに。
「どうしてそんな事をしたのか・・・」
「やっぱり何か秘密があって、それを隠すために殺したんじゃないかな?」
相変わらず沢は思っている。だが、カズはそれが原因じゃないと思っている。
「秘密か・・・。秘密って何だろう」
「わからない・・・」
住田は思った。大輔が持っている秘密って、いったい何だろう。それがわかれば、行方不明事件の捜査が動き始めるかもしれない。進めていくうちに、ひょっとしたらその犯人が大輔であるとわかるかもしれない。




