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 沢はすぐに警察を呼んできた。これは大変な事だ。この辺りで殺人事件なんて、聞いた事がない。まさか大輔がこんな事をするなんて。こんな子に育てた覚えはない。カズは複雑な気持ちになっていた。もうここに戻って来るなと沢は思っていた。


 しばらくして、警察がやって来た。静寂な無人の山林に、パトカーのサイレンがこだまする。この辺りがこんなに騒がしくなったのは、いつ以来だろう。おそらく、敏別炭鉱鉄道の営業最終日以来だろう。


 警察は遺体を見た。何者かに刺されている。包丁と思われるものはない。犯人が持っていると思われる。


「何者かに刺されてますね」

「大輔・・・」


 それを聞いて、警察は顔を上げた。犯人の名前だろうか? 犯人を知っているんだろうか?


「えっ!?」

「伊藤大輔。私の孫です」


 なるほど、問題の男は伊藤大輔というのか。この男が犯人と思われているのか。


「その伊藤大輔が犯人ですか?」

「はい。伊藤大輔に襲われていると電話が来たので」


 やはり伊藤大輔が犯人なのか。早く捕まえないと。カズは下を向いた。捕まったら、もう会えないかもしれない。もう幾部に戻れないかもしれない。


「そうですか・・・。わかりました」

「どうしてこんな事を・・・」


 カズは泣き崩れた。どうして殺人をする息子になってしまったのか。どうしてこんな事になってしまったのか。こんな子に育てたつもりはない。


「自分がここに来てるって事を秘密にしたかったのでは?」

「そうかもしれない」


 沢は思っていた。きっと自分の秘密を隠そうと思って、章一を殺したんだろう。でも、その秘密って、何だろう。全くわからない。ただわかるのは、誰にも教えたくない秘密という事だけだ。


「大輔はここにいた事を誰にも明かそうとしてほしいと言ってたから」

「そうなんだ・・・」


 カズは大輔のここでの思い出を話した。誰からもいじめられた大輔は、それが原因でここに帰ろうとしなかった。そして、心を閉ざした大輔は職場でもいじめられた。そして、心を閉ざしてしまった。自分たちが悪いと沢は思っているが、もう遅い事だ。帰って来い帰って来いと言っても、もう帰らないだろう。


「ここでは嫌な思い出しかないもん」

「そうだね・・・」


 だが、沢は思っていた。大輔の秘密って、何だろう。そんなに言いたくない事って、あるのかな? そして、どうして敏別トンネルの前で大輔のハイエースが見つかり、章一の遺体が見つかったのか? やはり、敏別に何か関係があるのでは?


「でも、それ以外に何かあるんじゃない?」

「そんな事ないと思うけど・・・」


 と、沢の表情が変わった。何としても大輔を捕まえないと。これは大変な事だぞ。


「じゃあ、大輔はどうして章一を殺したんだ?」

「わからない・・・」

「何かをしてる事を隠すために殺した?」


 カズは思った。やはり、大輔には何か秘密があって、それを言いふらさないために殺したんだと。そしてカズは思った。その秘密って、いったい何だろう。


「きっとそうだ」

「それから、伊藤大輔さんって、東京在住なんですが、だいぶ前から行方不明なんです」


 それを聞いて、警察は驚いた。こんなに帰っていないとは。これは探すのが大変だぞ。一体、大輔はどこに行ったんだろう。ただ、この辺りにいる事は確かだ。道中を探して、早く逮捕しなければ。


「そうなんですか?」

「はい。何をしてるのやら」


 カズは怒っていた。どこで何をしている事やら。カズがこんなに心配しているのに。もう帰ってきてほしいなんてどうでもいい。早く捕まってほしい。


「気になるんですか?」

「はい。突然家からいなくなりまして」


 沢も腹立たしくなった。夜逃げしたとのうわさだ。夜逃げして、今どこをさまよっているやら。早く捕まえないと。


「そうなんですか・・・」

「まさかここに来ているとは・・・」


 カズは思った。幾部に帰りたくないと言っていたのに、どうしてここに帰ってきたんだろう。この辺りに何かあるのでは? そのために、ここに戻ってきたのでは?


「びっくりしてるんですか?」

「はい」


 ふと、住田は敏別トンネルの先が気になった。敏別トンネルの先には何があるのか? 大輔が行ってはいけないというのは、どういう意味だろうか?


「ところで、この先には、何があるんですかね」

「あの先は行き止まりですよ。その先は湖の底ですからね」


 警察は知っている。この先は湖底で、途中でふさがれている。この先には何もないはずだろう。なのに、どうしてその先には何があるんだろうと思っているんだろう。


「ですよね・・・」


 沢は思った。やはり気になる。大輔が行ってはいけないと言っているのなら、行かなければ。


「えっ!? どうしたんですか?」

「いや、何でもないんですよ」


 それを聞いて、カズも思った。あの敏別トンネルの先には何があるのか。ひょっとして、その先に大輔はいるのでは? そして、その先で誰にも言われたくない何かをしているのでは?


「そう、ですか・・・」

「どうしたんですか?」


 警察に聞かれて、カズは焦った。この先に行くつもりだと、警察には言えない。ここに行こうとしたら、絶対に注意されるだろうな。


「い、いや、何でも」

「なにか思い立つんですか?」


 カズの焦りを見て、警察は思った。カズも何かを知っているのでは?


「その先に何かあるんじゃないかと思って」

「そんなわけないでしょ?」


 沢は考え込んでいた。行くべきか、行かないべきか。でも、大輔がその先で何かをしているかもしれない。それを探らなければ。


「うーん・・・」


 と、付いてきた霊媒師が沢の肩を叩いた。言いたい事があるようだ。


「行きましょうよ! 私は霊媒師ですよ。何かあったら何とかしますよ」

「わかりました」


 4人は決意した。あの敏別トンネルの先に向かおう。どんな事があってもいい。もう迷いはない。大輔の秘密を探るためなら、何をしたっていいんだ。

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