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 4人は敏別湖に向かっていた。もう何年もここは誰も住んでいない。みんなは秘境だと言っているが、そこには炭鉱があり、多くの人々が住んでいた。信じられないような話だが、本当だ。だが、その記憶の薄れていく。いつか、人々の記憶からも消えていくだろう。だけど、資料館がある限り、その記憶は消えないだろう。


 だが、住田は思った。どうしてそこに向かうんだろう。何か理由があるんだろうか?


「どうしてそこに行こうと思ってるんですか?」

「あそこに何かあるんじゃないかと思って」


 沢は思っていた。そこで大輔のハイエースが見つかったのだから、そこに何か秘密があるんじゃないかな? それに、行ったら帰れないと言われている敏別トンネルの前でハイエースが見つかったのだから、敏別トンネルの向こうに大輔が行った可能性がある。


「どうして?」

「じゃなかったら、大輔は行かないでしょ?」


 確かにそうだ。大輔は以前から、あのトンネルに入ってはいけないと言っている。だけど、自分からそこにっている。明らかにおかしい。その先に何かがあるに違いない。早く会って、その真相を突き止めてやる!


「そういえば、そうだね」

「とにかく行こう!」

「うん!」


 4人は敏別湖に向かっていた。敏別湖まではまだまだ遠い。その先には雪原が広がっていて、その中に道が続いている。ここに並行して、敏別炭鉱鉄道は走っていたという。だが、雪原の中でその痕跡を探すのは困難だ。そして、その痕跡は年々減ってきているという。こうして敏別の記憶、敏別炭鉱鉄道の記憶は完全に消えてしまうんだろうか?


 しばらく走っていると、山道に差し掛かった。カーブが多くなる。沢は慎重に運転していた。ここで滑って事故を起こしたら大変だ。事故を起こしたらなかなか助けが来ずに、大変だろうな。そう思うと、より一層安全運転を心掛けないとと感じてくる。


 しばらく走っていると、左手に湖が見えてきた。敏別ダムと敏別湖だ。そのダム湖の下に、わずかではあるが敏別の町の跡が残っている。ダムが建設されると決まってからの事、人々は次々と敏別を後にして、建物は次々と解体されていった。試験湛水が始まる頃にはほとんどなくなったという。だが、そこを通っていた敏別炭鉱鉄道の敏別トンネルの入り口は残っているという。だが、一部がダム湖の底に沈むという事で、途中でふさがっている。


「これが敏別湖か・・・」


 住田は横を見た。ここにかつては人の営みがあったんだなと思うと、栄枯盛衰を感じた。もうあの頃の栄光は戻ってこない。人はもう戻ってこない。


「そこに何があるんでしょうね」

「何だろう」


 沢は思っていた。敏別トンネルの先には一体、何があるんだろう。どうして大輔はその先に行ったんだろう。きっと、大輔にしかわからない秘密があるに違いない。


「とにかく行ってみましょう」

「うん」


 車は道を外れ、獣道に入った。その先に敏別トンネルがある。果たして、大輔はそこにいるんだろうか? ハイエースはあるんだろうか? もし発見したら、その真相を突き止めないと。


「この先だな」

「うん」


 と、住田は轍を見つけた。まだあんまり積もっていない。つい最近、ここを車が通ったようだ。まさか、今さっき大輔のハイエースが通ったんだろうか? だったら、この近くに大輔がいるのでは?


「轍だ!」

「とすると、ここに大輔のハイエースが・・・」


 そう思うと、カズは気持ちが高ぶった。もうすぐ大輔に会えるのでは? もしそうなら、どんな言葉をかけよう。カズはワクワクしていた。


「そうかもしれない」


 カズは目の前を見て、何かを思い出していた。これは敏別炭鉱鉄道の廃線跡だ。カズは敏別炭鉱鉄道に乗った事があり、乗った時の事を思い出した。


「どうしたんですか?」

「昔のこの辺りを思い出して。この辺りには昔、敏別炭鉱鉄道が走ってたんですよ」


 住田は驚いた。昔、ここには鉄道が走っていたとは。これが幾部と敏別を結んでいたんだな。今はもう廃線になったけど。


「昔はここに鉄道が走ってたんですね」

「ひっきりなしに石炭列車が走って、とても賑やかだったんですよ」


 カズはあの頃を思い出した。あの頃は廃線になるなんて、全く考えていなかった。いつまでもこんな賑やかな時が続くだろうと思っていた。なのに、エネルギー革命が起こり、敏別炭鉱は閉山になった。そして、敏別は過疎化が進み、鉄道は廃線になった。廃線が決まった時は、とても信じられなかったな。だけど、それが時代の流れなんだな。仕方ないのかな?


「そうだったらしいですね。私にはわからないですが」

「その思い出は徐々に薄れていく・・・」


 やがて、ここに敏別という町があった記憶は、資料館を除いて、人々の記憶からは失われていくだろう。だけど、覚えてほしい。このダム湖の下に、とても栄えていた炭鉱があったという事実を。


「だけど、それを語り継ぐために資料館があるんだよ」

「そうなんだね」


 前を見ると、トンネルの入り口が見えてきた。敏別トンネルの入り口だ。果たして、その先に大輔とハイエースはあるんだろうか?


「この先だな」

「うん」


 4人は敏別トンネルの前にやって来た。だが、大輔もハイエースもない。またしても、どこかに消えたようだ。一体、どこに消えたんだろうか? 全くわからないな。全国を走り回っていると思われる大輔を捕まえるのは、とても難しいな。どうしよう。


「あれっ、ハイエースがない」

「くそっ、またどこかに行ったか」


 住田は拳を握り締めた。追い詰めたと思ったのに。またしても逃げられた。大輔は本当にどこに行ったんだろう。カズがあんなに会いたいと言っているのに。どうして会いに行かないんだろう。


「どこかに行ったかな?」


 沢はトンネルの入り口を見た。入り口の前で1人の男が血まみれで倒れている。章一だ。まさか、大輔にやられたのかな?


「章一! 章一!」


 沢は章一をゆすった。だが、章一の体は冷たい。章一はすでに死んでいた。


「刺されて死んでる・・・」


 沢は思った。大輔がやったんだ。今さっき、章一を襲っていたから、きっと大輔の仕業だろう。


「大輔がやったんだ・・・」


 死体を見て、カズは泣き崩れた。大輔がどうしてそんな事をするんだろう。こんな息子に育てようとしたわけじゃない。いい子に育ってほしかったのに、どうしてこんな事をするんだろう。


「大輔、どうしてそんな事を・・・」

「自分の素性を知られたくなかったのかな?」

「そうかもしれない」


 住田は思った。きっとそれは、大輔がプライベートを知られたくなったため、殺したんだと思った。そのプライベートって、いったい何だろう。誰にも言われたくない何かだろうか?


 そして、住田は思った。あの行方不明事件は、大輔が関わっているのでは?


「ひょっとして、あの行方不明事件は大輔が起こしてるのかな?」

「わからないけど、否定できないね」


 沢はそれに反応した。沢はその事件を聞いていた。まさかその犯人が大輔と思われているとは。定かではないが、もしそうなら、大変な事だな。そして、早く大輔を捕まえないと。

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