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車は幾部の中心部にやって来た。カズはそこまでの間、大輔の事ばかり考えていた。そして、今でも考えている。それだけ大輔に会いたいんだな。早く会わせたいな。どこにいるんだろう。今さっきそこにいたのに。
「はぁ・・・。大輔・・・」
カズは泣きそうだ。沢は慰めようとするが、カズの表情は変わらない。
「心配ですね。どこに行っちゃったんですかね」
「もう心配させないでよ・・・」
カズは願っていた。何としても帰ってきてほしい。また一緒に暮らしてほしい。何度願ったらそれはかなうんだろうか? 両親に先立たれて、今では孤独に暮らすだけだ。
2人はカズの家に帰ってきた。家には住田も来ている。今さっき、大輔の車が発見されたと聞き、ここにやって来たようだ。家は広いが、1人だけでは持て余してしまうほどだ。1人で暮らすには大きすぎる。大輔がいればいいのに。今さっき敏別トンネルの前にいたらしいのに、どこに行ったんだろうか? ひょっとして、沢は幻を見たんじゃないのか? カズは沢が嘘をついているように見える。カズは沢が信じられなくなった。だが、親しい人なのに、帰ってと言いたくない。
カズはテレビを見始めた。カズは思っている。大輔もこんなテレビを見ているんだろうか? 今頃、どこで過ごしているんだろう。この近くらしいけれど、どこに行ったんだろう。とても心配だ。沢もテレビを見ている。そこには、大輔が憧れた東京の様子が映し出されていた。東京には多くの人が行きかっている。雪は降っていないし、積もっていない。東京ではそんなに雪が降らない。北海道に比べて暖かい。大輔がここにあこがれるのもわかるな。だけど、別の理由があるのを知っている。大輔はこの幾部で嫌われていたので、そこから逃げるためでもある。だけど、東京でうまくいかなかった。そう思うと、東京は厳しい場所に見えてくる。街を行く人は楽しそうだ。だが、本当はどうなんだろう。2人は彼らの職場が見たくなってきた。そこは快適な場所なんだろうか? そんなに厳しくないんだろうか? 残業はあるんだろうか?
「その気持ち、わかりますよ。またここに戻ってきてほしいって気持ちも」
沢にはカズの気持ちがわかる。東京での生活に疲れてきたら、ここに戻ってきていいんだよ。私が手料理で待っているから。
「うん・・・」
突然、スマートフォンが鳴った。誰からだろう。こんな時間にかけるなんて、珍しい。沢は画面を見た。章一からだ。どうして章一からだろう。もう何年も電話していないのに。どうして沢に電話をかけてきたんだろう。
「どうした、章一!」
電話の向こうの章一は息を切らしていた。どうしたんだろう。
「助けて! 大輔が・・・。幾部のセコマで!」
大輔? 伊藤大輔が幾部のセイコーマートに来ているのか? まさか、敏別トンネルからいなくなったのは、幾部のセイコーマートに向かったからだろうか? 幾部のセイコーマートに行かなければ。
「えっ、伊藤?」
だが、章一からの声はない。誰かが暴れている声がする。おそらく大輔だろう。何かに興奮しているようだ。どうしたんだろう。
「どうしたの?」
スマートフォンが切れた。カズはテレビを消して、沢を見ている。大輔という言葉で反応したようだ。まさか、大輔がいるのか? 早く行かなければ。
「章一が大輔に襲われたって? 伊藤大輔かしら?」
大輔と聞いて、カズは思った。まさか、伊藤大輔? だったら、その現場に向かわないと。でも、どこに来ていたんだろう。
「わからない。敏別のセコマで襲われたって」
「そんな・・・」
まさか、この近くのセイコーマートに大輔らしき男が来ていたとは。早くそのセイコーマートに急行しないと。きっと大輔はどこかにまた逃走するだろう。その前に、早く捕まえないと。
「今すぐ行こう!」
「うん!」
3人は幾部のセイコーマートに向かった。セイコーマートはこの近くにある。地元の人々が良く利用しているらしいが、まさか大輔が来ていたとは。何かの理由でここに来ているんだろう。
3人はセイコーマートにやって来た。入口の前には店員がいる。店員は章一に暴行を与えた大輔がまた来るかもしれないと思って、周辺を強化していた。だが、全く来ない。またどこかに行ったようだ。
沢は駐車場に車を停め、辺りを見渡した。だが、白いハイエースはない。間違いだったんだろうか? それとも、もう行ってしまったんだろうか?
「あれっ・・・。もう行ったのか?」
「すいません、沢さんですか?」
沢は横を向いた。そこには店員がいる。店員はその様子を見ていて、警察に通報しようとしていた。だが、先に2人が来てしまった。
「はい」
「章一さん、大輔に連れ去られて」
店員も大輔の事を知っていた。小学校の同級生だった。まさか、こんな所で大輔と再会するなんて。だけど、大輔はすぐに消えてしまった。
「どこに行った?」
「敏別湖の方に」
店員は、ハイエースがどこに向かったのか知っていた。敏別湖だ。どうして大輔がそこに行ったんだろうか? まさか、その先の峠を越えるために向かったんだろうか? それとも、湖を見るために向かったんだろうか?
「えっ・・・」
それを聞いて、2人は思った。また敏別トンネルの付近に向かったのかな? きっとそうだ。また敏別トンネルに向かわないと。どうなってでもいい。早く行かないと。
「行くぞ!」
「どこに?」
カズは思った。いったいどこに行くんだろうか? まさか、敏別トンネルかな? 行ったら戻ってこれないし、会っても行き止まりだ。本当にいいんだろうか? どうなってでも知らないけど。
「敏別トンネル!」
それを聞いて、カズは抵抗した。あのトンネルは呪われるというのに。帰ってこれないと言っているのに。どうしてそこに行かなければならないんだろう。
「あそこ、危ないですよ! 行ったら戻れないですよ」
「でも行かないと」
と、そこに1人の男がやって来た。男は僧侶のような服を着ている。いったい誰なんだろうか? 全く見当がつかない。
「待って下さい。私は霊媒師です。まさかの事があったら、何とかしましょう。一緒に行きましょうか?」
3人は驚いた。まさか、ここで霊媒師に会うとは。霊媒師がいれば、ちょっとは不安が取れるんじゃないかな? 霊媒師と行って損はない。早く行こう。そして、大輔を探し出さないと。
「はい、お願いします」
「わかりました」
4人はそこに向かう事にした。今度こそ、大輔に会えますように。




