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 夕方、今日の作業が終わった。こんなに重労働をするなんて、こんなのを子供たちにさせるなんて、あいつらは悪魔みたいだ。早くここから逃げないと。だけど、そのためには何をすればいいんだろう。全くわからない。このまま俺たちは、彼らのように死んでいくのでは? そう思っていた。だが、救わなければならない。そして、家族のもとに送り返さなければならない。その為にここにやって来たんだ。だけど、そのためには何をすればいいんだろう。全く解決法が見いだせない。


「はぁ・・・」

「今日も疲れたよ・・・」


 武も光もくたくただ。佐藤も下を向いている。


「早く帰りたいよ・・・」


 と、後ろから誰かが武の肩を叩いた。誰だろう。武は振り向いた。そこには、1人の老人がいる。一緒に作業をしていた人だ。急にどうしたんだろう。


「ん?」

「今日だぞ!」


 何が今日なんだろう。6人は呆然としていた。


「えっ!?」


 だが、老人は強い口調だ。何が何でもやってほしいという気持ちのようだ。


「早く逃げるんだぞ!」

「あ、ああ・・・」


 老人は思っていた。ここに連れ去られた子供たちを何とかしたいという気持ちでいっぱいだ。何としても普通の生活をしてほしい。もっと夢を持って生きてほしい。その為にも、早く逃げてほしい。


「そうだな。頑張ろう!」

「うん」


 でも、どこに行けばいいんだろう。6人は戸惑っていた。その為には何をすればいいんだろう。全く思いつかない。


「あの先に幾部があるから、行かないと」


 幾部? その先にも幾部はあるのか? ひょっとして、敏別炭鉱鉄道があった頃の幾部だろうか? その頃はとても賑やかだったので、あの頃の敏別だろうか? そこに行けば、何かがあるんだろうか? とにかく、ここの重労働から逃れるには、そこに行くしかないんだろうか?


「どうして?」

「そこに行けば、何とかなるかもしれない」


 6人は少し戸惑った。行くべきなんだろうか? そこに行って、何かがわかるんだろうか? だが、あの人が行けと言っている。だったら、行かないと。


「ありがとう」


 6人は深夜、ここを脱走する事にした。行く場所は、幾部だ。もう迷いはない。この重労働から逃れるために、彼らを救う鍵を見つける何かがあると信じて、そこに行くべきだ。


「とにかく逃げるぞ!」

「うん!」


 決行は深夜だ。今日は早く寝よう。




 深夜、彼らは早く起きた。他の労働者は寝ている。辺りはとても静かだ。起きている6人以外は起きている。


 と、帰りに話しかけた老人が起きた。何か言いたい事があるんだろうか? すると、老人はお金を出した。いつの頃のだろう。かなりデザインが違う。


「敏別トンネルの前に下敏別しもぴんべつという駅がある。これがお金だ」

「ありがとうございます」


 武は金を受け取った。それを使って幾部に行けというのだ。何としても彼らのためにも、行かなければ。


「じゃあね」

「気を付けて」


 6人は家を出発した。辺りは静かだ。誰もいない。今なら脱走できるだろう。6人は静かに道を歩いていた。人通りは全くない。昼間はあれだけ賑やかだったのに、それがまるで嘘のような静けさだ。だが、そんな時こそ誰かが襲い掛かってきそうで怖い。6人は慎重に歩いていた。


 彼らは道を外れ、高台にやって来た。武はそこから敏別の街並みを見た。多くの人の営みが見える。だが、今では湖の底だ。まるでそれは北海道の、そして炭鉱の町の栄枯盛衰を見ているかのようだ。


「ここまでやって来た」


 彼らは森の中を歩いていた。辺りには林しか見えない。木々の上からは、夜空が良く見える。こんなに夜空がきれいに見えるとは。昔もこんな風景が見えたんだろうか? とても美しかっただろうな。


 しばらく歩いていると、森の中にたたずむ、まるで秘境駅のような場所にやって来た。これが下敏別駅だ。駅舎はすでに営業を終了しているようで、消されている。その前には丸ポストがある。その前にはベンチがある。今夜はここで寝よう。どうかあいつらに見つかりませんように。


「今日はここで寝よう」

「そうだね」


 2人は駅前のベンチで1夜を過ごすことにした。明日、無事に列車に乗れて、幾部に行けますように。




 6人は近くの物音で目を覚ました。駅の職員が営業を始めたようだ。それを見て、無事に1夜を明かせたんだと思い、ほっとした。ここで見つかったら大変だ。


「朝だ」

「うん」


 すぐに、近くの敏別トンネルの方から列車がやって来た。単行のディーゼルカーだ。車内には誰も乗っていないように見える。6人はベンチから立ち、駅舎に入った。すでに改札が始まっている。早く行かないと。


「よし! 列車が来た!」

「乗ろう!」


 6人は下敏別駅のホームにやって来た。ホームは白樺林の中にある。この辺りは昔から人家がなかったようだ。構内はとても広い。まるでここは、行き違いのために設けられたと言っても過言ではないようだ。


 6人は下敏別駅にホームに停まった列車に乗った。列車は手動ドアで、武は開けて中に入った。デッキにも、客室にも誰もいない。とても静かな車内だ。ディーゼルカーのアイドリング音がよく聞こえる。


 6人がボックスシートに座ると、列車は下敏別駅を後にした。果たしてその先には、何があるんだろう。この事件の鍵を握る何かがあるんだろうか? わからないけれど、行ってみよう。

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