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 宙を捕まえた大輔はハイエースで高速道路を走っていた。なんとしても早く勇人のもとに届けないと。勇人のためにも、そして、自分の欲求を満たすためにも。いじめっ子を懲らしめたいという欲求を抑えられない。だからこの道を選んだんだ。


 大輔は北に向かっていた。高速道路を走るのは慣れている。連れ去りで何度も通っているし、オフ会に行くのに何度も使っている。運転には問題ないだろう。だが、油断はできない。いつも初心を忘れるべからずだ。


 大輔は高速道路を抜け、県道を走っていた。この辺りは山奥で、あまり車が通らない。だが、この道路は集落と集落を結ぶための重要な道だ。これが通行止めになったら、集落は孤立してしまう。


 宙は最初、じたばたしていた。だが、ここまで来るとおとなしくなった。お腹が空いてきたからだろう。だが、あとちょっとの我慢だ。そこまで我慢していろ。これはこの後の重労働に耐えられるかどうかの我慢試しだと思え。


 大輔はやがて、山道に入った。この辺りは峠道だ。今の県道は長いトンネルで峠を越えていく。大輔はつづら折りの道を進んでいく。この辺りは旧道と言われていて、もう誰も通ろうとしない。旧道は忘れ去られ、施設は老朽化している。賑わっていた頃がまるで嘘のようだ。


 大輔は焦っていた。いつまでこれを続けられるんだろう。すでに駆け込みサイトは警察にマークされている。あとどれぐらい連れ去る事ができるんだろう。いつまでこれを続けられるんだろう。もしできなくなったら、敏別にかくまろうと思っている。


と、大輔は立ち止まった。そして、携帯電話を取り出した。誰かに連絡をするようだ。


「もしもし、勇人?」

「ああ」


電話の主は勇人だ。勇人が取り憑いてる悪霊の力で、何かをするようだ。宙は縛られながらも、その様子を聞いていた。だが、手足を縛られて何もできない。知っているのに、知らせる事ができない。


立花宙たちばなそらを捕まえた。今から国重トンネルを通過するから、ワープお願い」

「わかった!」


大輔は深呼吸をして、再び車を進め始めた。その先には、今さっき大輔が言っていた国重トンネルがある。国重トンネルは明治時代に作られたレンガ積みのトンネルで、かつてはこれによって国重峠を越えていた。そこまでの道のりはつづら折りが多く、雨が降ろうものなら通行止めになる事が何度もあった。また、この辺りは豪雪地帯のため、冬季は通行止めになっている。その為、冬には集落同士の行き交いが途絶えていた。そこで、通年を通して通れるように、新しい国道を作り、国重峠は長いトンネルを介してほぼ一直線で結んでいる。そして、この国重トンネルは忘れ去られた。国重トンネルは老朽化が進んでいるものの、整備が行き届いていない。もう誰も使わないだろうと思われているからだ。そんな国重トンネルでは、心霊現象のうわさがあり、その影響で車で通ろうとする人すらいないという。心霊現象のうわさのため、インターネットを中心に注目を集めていて、好きで来る人もいるらしい。


大輔は国重トンネルに入った。国重トンネルの中はとても暗い。新しいトンネルには等間隔に明かりがあるが、国重トンネルには明かりがない。大輔はヘッドライトをハイビームにして、進んでいた。また、国重トンネルの横幅は車1台分しかなくて、すれ違いができない。トンネル信号もないため、もし対向車が来たら延々バックをしなければならない。大輔は願っていた。その先で対向車が来ないでほしい。こんな山道で延々バックなんて勘弁だ。高い崖の途中にあり、落ちたら命がないからだ。


しばらく走っていくと、大輔の車は光に包まれた。だが、大輔は驚かない。この状況に慣れているようだ。その音は宙にも聞こえていた。どういう事だろう。何か不思議な力でこんな事が起こっていると思われる。全く見えないので、それが何なのかわからない。


大輔の車は突然、国重トンネルから消えた。だが、そこには誰もいない。だからこそ、ここを狙ったのだ。誰にも気づかれる事なく敏別トンネルにワープして、そのまま敏別炭鉱に送り込む。


 トンネルを抜けると、そこは敏別炭鉱だ。だが、ここは現実世界ではなく、仮想世界だ。死んだ人々がここに来ている。それに、連れ去られたいじめっ子もここにいる。


「やっと着いたか・・・」


 大輔は敏別炭鉱にやって来ると、ハイエースを停めた。そして、荷台から宙を引きずり下ろし、解放した。


「おい! 起きろ!」

「えっ、ここは?」


 宙は呆然としている。見た事もない所だ。ここはどこだろう。宙は首をかしげた。


「今日からお前はここで働いてもらうからな! 覚悟しろよ!」

「そ、そんな・・・」


 宙は弱気になった。俺はまだ中学生だ。この時期に働けなんて、無茶だ。それに、ここで働きたくないのに、どうしてここで強制的に働かなければならないんだ。助けてよ。


 それを聞いて、大輔は宙を蹴った。宙は痛がった。


「ぐずぐず言うな!」

「・・・、はい・・・」


 その日から、宙はここで労働させられることになった。だが、それは誰にも知られる事はなかった。

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