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その頃、大輔は愛知県にいた。今回は名古屋の中学生の以来だ。いじめられっ子から依頼を受け、宙という中学生を懲らしめてくれと言われた。いろいろと騒がれているが、依頼があったからには実行しないと。
これまでに多くの子供たちを敏別炭鉱に送り込み、死ぬまで労働させてきた。勇人の願いをかなえるために、いじめっ子を苦しめるためにも、実行しなければならないんだ。その為には、どんな犠牲もかまわない。
「ふぅ・・・、大丈夫だった・・・。もしばれたら大変!」
大輔は焦っていた。ここ最近、いろいろと騒がれていて、自分のサイトが大変だ。警察から指摘されているが、自分の欲望を抑えられない。こうやっていじめっ子を地獄に送っていくのが自分の楽しみだと思っている。どんな事があってもやらなければ。あの子との約束だし、自分の願いなんだ。
大輔は雑木林の中にある林道にいた。最近、大輔がいろいろと言われていて、警察がかぎ回しているらしいが、ここにいれば大丈夫だ。
「さて、今回はここか」
大輔は地図を広げた。宙は愛知県名古屋市に住んでいる。ここは都会で狙いづらい。どうやったら捕まえられるんだろう。全くわからない。大輔は考えていた。
「この子だったな・・・」
と、依頼を受けた男の子から、宙は明日、遠出をするという話を聞いた。この子は鉄道オタクで、秘境駅を訪ねるのが趣味のようだ。そして今日は、古虎渓駅に向かうとの事だ。ここなら誰にもばれずに連れ去る事ができるだろう。これはチャンスだ。絶対に捕まえてやる!
「今日はこの子が1人になる。だからそこを狙おう!」
その頃、何も知らない宙は家を出ようとしていた。今日は古虎渓駅に行き、写真を撮る。そして、自分のサイトにその写真をアップするんだ。きっと多くの人が見てくれるだろうな。
「気を付けてね、行ってらっしゃーい」
「行ってきまーす!」
宙は家を出た。その時母は知らなかった。宙がこの後、誰かに連れ去られるという話を。
宙は中央本線に乗っていた。ここ最近、名古屋地区の中央本線は全て新型車両の315系になり、編成は8両のロングシートに統一された。それ以前は313系や211系が走っていて、313系の中にはセントラルライナーに使われた豪華な車両もあった。だが、315系の登場によって、313系は東海道線に転属になり、211系は廃車になった。あの頃はとっても面白かったのに、クロスシートが好きだったのに。宙は少しがっかりしていた。
多治見行きの普通は高蔵寺駅を出ると、山間を走り始め、長いトンネルに入った。ここから県境を超えて多治見駅まで至る区間は庄内川の渓谷沿いを走っていて、トンネルが多い。この途中には定光寺駅と古虎渓駅があり、どちらも秘境駅と言われている。
「着いた!」
長いトンネルを抜けると、古虎渓駅に着いた。宙は駅に降りた。ここから降りたのは宙だけで、誰も乗らなかった。とても静かな場所だ。改札機はなく、ICは改札機にタッチして構内を出る。宙はICカードをタッチして外に出た。
古虎渓はとても静かな場所だ。どうしてこんな所に駅があるのか、疑問だ。だが、宙が思うに、かつては多くの人で賑わったんだろう。
宙は周辺を歩いていた。とても静かな場所だ。ここに誰かが住んでいた気配が全くなさそうに見える。辺りには川の流れる音がする。そして、とても寒い。厚着を着てきてよかったな。
宙はその駅の近くで白いハイエースを見つけた。だが、宙は全く気にしていなかった。全く気にならない。宙は知らなかった。そのハイエースが自分を狙っている所を。
宙は降りて、その周辺を散策し始めた。そこには誰もいない。多くの人が行き来しただろう。だが今では、こんなに寂しくなってしまった。この駅はこれからどうなるんだろう。なくなるんじゃないかと思ってしまう。
「おい!」
誰かの声で、宙は振り向いた。そこには大輔がいる。宙は思った。誰だろう。会った事のない人だ。
「えっ!?」
「ちょっと来い!」
そう言って、大輔は髪の毛を引っ張った。どうしてこんなひどい事をするんだろう。まさか、誘拐犯だろうか?
「な、何?」
「いいから来い!」
大輔は宙をハイエースに入れ込んだ。とても乱暴だ。
「やめて! 助けて!」
大輔は持っていたナイフを出した。まさかナイフを持っているとは。殺される。もう抵抗できない。
「いいから来るんだ! 殺すぞ!」
大輔は宙をガムテープで縛り、荷台に乗せた。宙は何もできなくなった。逃げたいのに。家に帰りたいのに。どうしたらいいんだろう。全くわからない。
その後の事は全く覚えていない。ただ、高速道路を走ったってのは覚えている。その間、何もできなかった。あまりにもつらかった。ここ最近、行方不明事件が起こっているそうだが、きっとこいつが最近起こっている行方不明事件の犯人なんだろうな。通報したいけど、捕まってしまった。これから自分はどうなるんだろう。不安しか頭にない。早く家に帰りたいよ。また学校に行きたいよ。




