30
その直後、家に隠れていた4人も捕まり、ここで死ぬまで労働させられてしまった。自分たちは子供たちを救おうとしてここにやって来たのに、どうしてこんな事にならなければならないのか。どんなに問いかけても、全く答えが見つからない。どんなに疲れても、仕事を続けなければならない。どうしようもない。
「くそっ、どうしてこんな事に・・・」
佐藤は汗をかいていた。とても疲れていた。だが、やらなければ。でも、早く逃げなければ。子供たちを救うためにここに来たんだから。
「もうここからは逃げられないのかな?」
「そうかもしれない・・・」
光も武も上田も絶望していた。ここで死んでいくのかな? 子供たちを救いたいがためにここにやって来たのに、ここで死ぬのは無念だ。
「里子、怜太、ごめん・・・」
武は妻子に申し訳ない気持ちだ。実家に置いてきた妻子が心配でしょうがない。なんとしても生きて帰るんだ。子供たちも絶対に救うんだ。だけど、それは実現できるんだろうか? 武は不安になってきた。
「誰か助けてくれないかな?」
光は祈っていた。誰かが助けに来てくれるはずだ。きっと拾う神がやってくるはずだ。だが、それはいつになるんだろう。もう来ないんじゃないかと思えてきた。
「そうだったらいいけど・・・」
「うーん・・・」
その時、見張りがやって来た。彼らは勇人や大輔の部下で、彼らに忠実だ。現実世界からやって来た子供にも容赦はない。
「この野郎、仕事しろ!」
「痛いっ!」
鞭で叩かれた光は泣き出した。だが、見張りは無視するかのようにしごく。ここはまるで地獄のようだ。早く脱出しなければ。
「お前、オーナーに歯向かったんだから、死ぬまで頑張ってもらうぞ!」
「そんな・・・」
光は抵抗した。だが、再び見張りが鞭で叩いた。
「ぐずぐず言ってんじゃねーよ!」
光はその場に倒れこんだ。だが、仕事をしなければ。つらいけれど、きっと誰かが助けてくれると信じて。
「どうしよう・・・」
「このまま救えないまま死んでいくのかな?」
上田も絶望していた。現実世界からここには来れても、帰る手段はない。帰ろうとしたら呪いで瀕死の犬にされてしまう。千尋みたいに死んでしまうだろう。
「わからないけど、そうなるのかもしれない」
「何とかしようと思ったのに、こんな事になるなんて・・・」
武は無念でしょうがないと思っていた。救いたい気持ちでいっぱいなのに、何もできない。
「誰かが救いに来るのを、待とう!」
「だけど・・・」
と、隣にいた弘人が肩を叩いた。武は驚いた。まさか、生徒が励ましてくれるとは。
「奇跡を信じよう!」
「そうだね」
ふと、武は家族の事を思い出した。家族は心配しているんだろうか? 駆け込みサイトの事を調べているんだろうか?
「家族、どうしてるのかな?」
「心配?」
全く連絡が取れない。それは心配だろうな。でも、きっと頑張っていると、警察も動いていると信じよう。だけど、本当に動いているんだろうか? ここは現実にはない世界だ。
「うん」
突然、誰かが光の肩を叩いた。勝だ。まさか、勝が肩を叩いてくれるとは。つい最近まで光をいじめていたのに、すっかり開き直ったようだ。だが、今開き直っても遅い。ここはただ死を待つのみの場所なのだから。
「光、大丈夫か?」
「うん・・・」
彼らは決意した。救うためにここにやって来たのだ。絶対に一緒に帰ろう。そして、みんなで現実世界に帰ろう。
「絶対に一緒に帰ろうな!」
「ああ・・・」
光は思った。こんなひどい所に連れ去ったのは、誰なんだろう。まさか、勇人が連れ去ったんだろうか? それとも、大輔だろうか?
「誰に連れ去られたの?」
「この男だ!」
弘人は1枚の写真を出した。弘人はその男を隠し撮りしていた。その男は、伊藤大輔だ。やはりあの男がやっていたのか。とても許せないな。
「大輔か・・・」
「うん。この人が駆け込みサイトの管理人なんだって」
この男が駆け込みサイトの管理人なのか。きっと、車の中で管理していて、その車に連れ去った子供たちを閉じ込めていたんだな。とても許せないな。
「そうなんだ・・・」
「あいつが管理人だったのか・・・。許せない・・・」
武は思った。今頃、妻子は管理人の正体を調べているんだろうか? 大輔が管理人だとわかったんだろうか? すでに警察は連れ去った犯人が伊藤大輔だとわかって、指名手配しているんだろうか?
「だけど誰にも通報できない・・・」
だが、ここからではだれにも通報できない。ここは現実世界とは隔離された世界だ。どんな情報も遮断されてしまう。情報を漏らそうと思っても、瀕死の犬にされてしまう。
「わかってんのに・・・」
「つらいよな・・・」
「うん・・・」
武は泣き出した。妻子を残して、ここで死ぬのはごめんだ。なんとしてもここから脱出して、ここに残らなければ。ここで死んだら、きっと妻子は悲しむだろうな。そんな事にならないためにも、脱出する手段を探さなければ。
「里子、怜太、ごめん・・・」
突然、上田は武の肩を叩いた。武は驚いた。
「その気持ち、わかるよ」
「ありがとう・・・」
彼らは決意した。絶対にみんなで帰るんだ。そして、みんなも救うんだと。




