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その頃、里子と怜太はそのサイトについて調べていた。武の事は全くわからない。敏別湖に向かった事ぐらいだ。それ以後は全く行方がわからないが、それでも頑張らなければならない。
「どう?」
怜太は首をかしげていた。なかなか真相がつかめない。ただわかるのは、いじめの報告で地獄流しに遭う事だけだ。どうしていじめなのか? 地獄流しとはどういう事なのか? 何か理由があって、いじめに縛っているに違いない。
「わからないよ」
ふと、里子は思った。このサイトの管理人は誰だろう。管理人が何か鍵を握っているのは確かだ。その名前がわかれば、何とかなるのに。
「じゃあ、誰が運営してるの?」
「ダイっていう人」
怜太は知っていた。このサイトを運営しているのはダイという男だ。管理人のページに書いてある。東京在住と書いてある。それを見て、怜太は驚いた。自分と同じ東京にこんな人がいるんだなと。ひょっとして、自分も狙われるんじゃないかと思った。
「うーん・・・。それだけじゃあ、わからないな。サイトの管理人って、だいたい本名を使ってないんだもん」
だが、里子は首をかしげた。それだけではわからない。ネット上での名前は本名とはかけ離れている事が多い。これも本名とは別の名前だろうな。だったら、真相がつかめないな。
「そっか・・・」
「あの管理人が犯人だと思ってるんだけどな」
怜太は確信している。こいつが絶対に犯人なんだ。管理人が行方不明事件の事を知っていて、起こしているに違いない。
「私もそう思うわ」
里子もそう思っている。だけど、どうすればいいんだろう。警察に言うしかないんだろうか?
「どうしたらわかるんだろう」
「警察に言うしかないわね」
里子は警察に言うしかないと考えた。怜太もその意見に賛成だ。こういう事件は警察なら何とかしてくれるはずだ。聞いてみよう。
「そうだね。あれだけしてるんだったら、警察が何とかしてくれるさ」
「だったらいいけど・・・」
里子は受話器を取り、警察に電話をしようとした。だがその時、電話が鳴った。誰からだろうか? 武が務めている中学校の関係者だろうか?
「もしもし」
「鈴木里子さんですか?」
「はい」
電話をしたのは、警察のようだ。まさか、警察がこっちからかけてくるとは。警察はもう駆け込みサイトの管理人が怪しいと思って、捜索しているのでは?
「あの駆け込みサイトの事ですが、伊藤大輔という男が管理人の本名だそうです」
伊藤大輔・・・、全く聞いた事がない名前だな。どんな男だろうか? 受話器が切れた。その音を聞いて、里子は受話器を置いた。
「聞いた事がない名前だな・・・」
怜太も聞いた事がない。そもそも、伊藤大輔とはどんな男だろう。全く思い浮かばない。
「もう一度電話して、その子について聞いてみよう」
「そうだね」
里子は再び受話器を取り、警察に電話をした。警察なら、大輔の事をもっと知っているだろう。
「すいません、今さっき、電話を受けました、鈴木里子です」
「どうかしましたか?」
警察は戸惑った。今さっき電話を受けた里子が、どうしてこっちから電話してたんだろうか? ちょっと戸惑ったが、この女も駆け込みサイトの事を調べているから、もっと知りたいんだろうな。
「伊藤大輔って、どんな人なんですか?」
「何か月か前から行方不明になってる人なんです。北海道の幾部出身で、何年も故郷に帰っていないらしいんです」
何か月も前から行方不明になっているとは。その間、どうやってサイトを管理しているんだろうか? まさか、パソコンを持ち歩いて、そこから管理しているのでは?
「そうなんですか・・・」
「あの幾部からは敏別炭鉱という炭鉱のための鉄道が延びていたんですが、廃止されたんですよ。確か、敏別炭鉱の会った敏別湖のほとりで、あの駆け込みサイトで行方不明になっていた少年が遺体で見つかったんですが・・・」
それを聞いて、里子はある事件を思い浮かべた。千尋が犬の姿で発見され、死んだ事件だ。あの犬は敏別湖付近で見つかったし、敏別湖の位置に印をつけていた。そう思うと、やはり敏別に何か秘密があるんじゃないかと思えてくる。
「あの、犬の姿で見つかった子ですか?」
「はい! 父がその葬儀に来てたんです!」
まさか、里子の夫の武がその葬儀に来ていたとは。それで事件との関連性を考えたのかな? そういえば、武はどうなったんだろう。全く連絡がない。とても不安だ。
「そうなんですか・・・。近頃、私たち思ってるんですよ。あの辺りが怪しいですね。ここを調べようと思ってるんですよ」
警察もここが怪しいと思っていた。何とかして調べないと。
「そうなんですか・・・。気を付けてくださいね」
「はい・・・」
里子は受話器を置いた。やはりそうだったのか。あのサイトが原因で、敏別に何かあるんだろうな。
「どうだった?」
「北海道の敏別湖辺りが怪しいって」
怜太も武の事を思い浮かべた。武もそっちに向かった。もうこれは、敏別湖が怪しいに決まっている。早く何とかしないと。これ以上犠牲者を増やさないためにも。
「父さんもここに向かったんだね」
「そうね。何とか真相がわかればいいんだけど」
怜太は拳を握り締めた。伊藤大輔が許せない。これ以上の犠牲を増やさないためにも、早く捕まってほしいな。
「これ以上の犠牲は許されない。早く何とかしないと」
「そうだね」
ふと、怜太は武の事を思い浮かべた。全く消息がわからなくなっている。今頃、何をしているんだろうか? 子供たちを救っているんだろうか? まだ、救えずにいるんだろうか?
「お父さん・・・」
「心配なの?」
里子は怜太の表情を見て、心配している。武はどこに行ったのか。全く連絡がない。こんなに連絡がなければ、とても不安になってくる。
「もちろんだよ!」
「きっと大丈夫だよ」
里子は怜太を抱いた。きっと武は無事に帰って来るさ。そして、子供たちを救うさ。武を信じよう。武は負けないさ。




