28
その夜、男たちは考えていた。どうすればあの悪霊を消す事ができるんだろうか? そうしなければ、これからも子供たちが連れ去られて、ここで過酷な労働をさせられて死んでしまう。子供たちを守るためにも何とかしなければ。
「どうしよう・・・」
と、1人の若者が考えた。だが、若者は不安だ。これで本当に大丈夫だろうか? ここが消えるんじゃないだろうか?
「一か八かの考えだが、あの神社に火を放つとかどうだ。そうすれば、悪霊は消えるんじゃないかな?」
彼らは少し考えた。定かではないが、そうするしかないんだろうか? それでもし、消えなかったからどうしよう。俺たち、ここから消えてしまうかもしれない。現実世界からやって来た人々を救えなくて申し訳ないけれど、そうなるかもしれないな。だけど、彼らのためにも、何とかしなければ。もう選択肢はなかった。
「確かにそうだ」
「そうしよう。何があってもいい。あの子たちを助けなければ」
「ああ」
みんなの想いが一致した。明日、あの稲荷神社を焼こう。みんなで決行しよう。もしだめなら、申し訳ないけれど。
「みんな、協力してくれるな」
「うん」
それを聞いて、弘人と勝は喜んだ。これで現実世界に帰れるかもしれない。家族のもとに早く帰りたいな。きっと心配しているだろうな。
「ありがとう。頑張って」
「わかった。まかしとけ!」
男の1人は笑みを浮かべた。その笑顔を見て、2人は嬉しくなった。
「ありがとう」
「なーに、世界は違っても、俺たちはあんたの味方さ」
ここは現実世界とは違う世界だ。だけど、それを超えての友情だ。こんな友情もあるんだな。とても素晴らしいな。
「ありがとう」
その間、光は考え事をしていた。やっと彼らが元の世界に戻れるかもしれないのに、どうしたんだろう。彼らは心配そうな表情で見ている。
「ねぇ」
「どうした?」
武は驚いた。どうして落ち込んでいるんだろう。
「連れ去られるきっかけを作って、申し訳なく思って」
確かにそうだ。弘人と勝が連れ去られ、ここにいるのは、光が掲示板に書き込んだせいだ。自分がその原因を作ってしまったのだ。
「いいんだよ。頑張って信頼を取り戻せばいいんだよ」
男の1人が光の肩を叩いた。光は顔を上げた。男はとても優しい。まるで本当の父のようだ。
「そうだね。そうすれば、罪を償えるかもしれないね」
「とりあえず、明日何とかするからな」
そろそろ寝る時間だ。早朝に放火を決行する。今日は早めに寝よう。
「おやすみ」
「おやすみ」
彼らは電気を消し、眠りについた。絶対に明日は遅れないように。
早朝、彼らは目を覚ました。本当はこの時間に起きるはずはないのに。今日はあの稲荷神社を放火する日だ。悪い事だとわかっているが、現実世界から来た子供たちを救うためには、そうするしかないだろう。それでも守れなくても後悔はない。
「おはよう」
彼らは目を覚ました。彼らは真剣な表情だ。なんとしても現実世界から来た子供たちのためにもという想いが、彼らを突き動かしていた。
「行くぞ!」
「うん」
彼らは家を出て、稲荷神社に向かって歩き出した。まだ外は暗い。涼しい風が吹いている。とても静かだ。だが、あと数時間したら、また騒がしい日々が始まるだろう。そう思うと、気が引き締まる。だが、今日は別の意味で引き締まっている。
しばらく歩いていると、その稲荷神社が見えてきた。彼らは思っている。昔の敏別炭鉱にはそんなのはなかった。普通の天神だった。なのに、どうしてここに稲荷神社ができたんだろう。明らかにおかしい。
「あの先か」
「ああ」
みんな真剣な表情だ。あの子たちのためにも、やらねばならない。どうなってでもいい。あの子が元の世界に帰れるのなら、この命なんてどうだっていい。
「早く行くぞ!」
彼らは稲荷神社の前にやって来た。その稲荷神社は不気味な外観だ。あまりにもおかしい。明らかに悪霊が潜んでいそうだ。
「ここか?」
「うん」
1人の男がマッチ棒と新聞紙を出した。火をつける準備はできている。
「火をつけろ!」
「うん」
男はマッチ棒に火をつけ、新聞紙に火を移した。すると、火は大きくなる。それを見てすぐに、男は稲荷神社に火のついた新聞紙を置いた。すると、火はあっという間に広がる。これで悪霊が消えればいいんだけど。彼らは願っていた。
その後、男は木陰に隠れていた。勇人に見つかったらだめだ。
「何をやってる・・・」
突然、中から悪霊が出てきた。それでも悪霊は消えないようだ。どういう事だろう。どうして消えないんだろう。やはりそれで悪霊は消えなかったんだろうか?
「えっ、消えない・・・」
もう逃げるしかない。彼らはここから逃げようと思った。そして、家に戻ろう。
「逃げろ!」
「ああ」
彼らは逃げ始めた。走っていく。稲荷神社はその後も燃え広がっていく。木造なので、あっという間に火は大きくなっていく。
だが、目の前に1人の男がやって来た。勇人だ。この時間には寝ているはずなのに。放火と聞いて、ここにやって来たようだ。
「何をしてる!」
「えっ!?」
彼らは驚いた。まさか見つかるとは。
「よくも放火したな。お前、地獄に行け!」
「くそっ・・・」
彼らは悔しがった。何とかしたいと思ったが、やはりできなかった。現実世界から連れられてきた子供たちに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「うわあああああ!」
突然、彼らはどこかに飛ばされた。そして、空のかなたに消えていった。




